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 富士通アプリケーションズの工業化の取り組みは「四つの約束,六つの仕掛け」として集約されている。「四つの約束」は会社設立時から会社の全社員が守るべき決まりとしてきた事柄である。今回は「人月ではなく時間で考える」「データで議論する」という二つの約束を説明する。

約束1:人月ではなく時間で考える

 ソフトウエアの開発は伝統的に人月で考えられることが多い,例えば,ある開発では10人で6カ月の開発であるから工数は60人月,人月単金XX万円,よって開発費は…,という具合だ。しかし,富士通アプリケーションズでは,人月ではなく,時間で考えるようにしている。

 時間で考えるのは,二つの理由がある。一つは内部の意識改革である。製造業ではビス1本のコストダウンで何銭下げられるか,すなわちコストの単位を銭で考え議論をしている。それに対して,人月で考えるソフトウエア産業では,何十万円単位でコストが議論されることとなる。昔,部下にコストダウンの検討を指示したとき,0.1人月単位での削減策を持ってこられた。本人は一生懸命考えての改善策なのだろうが,それでもよく考えれば何万円単位での発想である。さてこれを時間で考えるようにすると単位は急に1時間何千円単位となり0.1時間で考えれば百円単位となる。このように,発想転換を徹底することでコストに対する意識は自然と細かく,緻密になっていく。

 もう一つの理由は,人を買う(または売る)という考え方を変えたい思いがあったことだ。工業化は本来,生産性や品質で評価されるべきである。「Aさんは月いくら,Bさんは月いくら」では経営の基盤は,高く売れる人間を集めることになってしまう。この考えがある限りは職人的,属人的な発想からの脱却はできないと考えた。

 工業化を行うのであれば,生産性や品質を保証して,それに対して対価を設定するべきである。そのためにも,人月単金の考え方から脱却しなければならない。富士通アプリケーションズでは,作業計画では例えば「6月に基本設計に653時間を使用する」と考える。当初はなかなか人月から考えを変えられない管理職も多かったが,現在では100%時間での考え方が浸透している。

 この考えには副次的効果もある。「1時間残業で対応できるか」など残業時間の計画管理が容易になり,労務管理上のメリットも多いのである。

約束2:データで議論する

 データで議論することはエンジニアリングの基本である。読者も一度は経験があると思うが,社員に進捗状況をヒアリングすると「50%できました」「90%です」「順調です」といった答えが返ってくる。安心していると納期の前の日に「すみません,間に合いません!」と来る。ほかにも「品質は大丈夫です」「テストは十分に行いました」など,これに類似する事例はたくさんある。ソフトウエアは目に見えないから仕方がないというのが従来の考えであるが,それでは工業化はできない。

 データで語る,データで議論するためには,そのデータを捕まえる仕組みが必要である,もの作りも旧来の職人さんが手作りしている時代にはデータはなかったが,工業化の過程でデータを収集し分析し管理する方法が確立されてきたわけである。そして今は「見える化」というキーワードでいかに分かりやすく,問題を早期に発見できるかについての方法が開発されてきている。データをどのように収集し,基準化し,目標値を作成し,比較して「見える化」するか。富士通アプリケーションズでも,そのために長い時間を必要とした。

 データで議論するほかの目的に,抽象論での議論,評論家的議論を無くしたい思いがある。IT業界には非常に優秀な人材がそろっており,そのために議論のための議論に貴重な時間を消費していることが多いと感じている。

 データで議論することは,議論する環境をつくり,「見える化」を可能とし,「現場,現物,現実」の3現主義につながる第一歩と考えている。最終的にはデータでソフトウエア開発を考えられる「人づくり」につながる。今後はデータを基に独自のメトリクスを整備していきたいと考えている。

 例えば「基本設計時の概略の画面設計を使用しての見積もりに対して,最終の規模は約1.3倍になる」など,分かりやすいメトリクスを整備する。それによって,ノウハウを可視化し全体の知恵の共有を図っていきたい。

渡辺 純
富士通アプリケーションズ 代表取締役社長
1974年,富士通入社。SEとして主に食品製造業の顧客企業を担当。1996年よりERPパッケージGLOVIAを統括。2002年よりJavaアプリケーション開発専業会社である富士通東京アプリケーションズの社長に就任。2004年より現職。アプリケーション開発における見積問題をはじめ,製造プロセス,開発マネージメント全体にわたる,技術,方法論の開発・導入に取り組む。また,ソフトウエア開発におけるトヨタ生産方式の積極的導入を図る。