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山野井 聡氏
ガートナー ジャパン
ガートナーリサーチ
グループ バイスプレジデント
山野井 聡氏
今や普遍的な取り組みとして根付いたITのアウトソーシング。一連の失敗と成功を経て、多くの企業はコスト削減、サービスレベルの向上で一定の成果を上げてきた。しかしそのさらに上――イノベーションへの貢献や付加価値創出のためにアウトソーシングを活用する――といった姿にはまだ至っていない。ガートナー ジャパンのリサーチ部門長で、ソーシング分野を見る山野井 聡アナリストが、ソーシングの選択肢の増加、IT部門の役割の再定義、計測管理という、飛躍の足がかりを得られる3つのトピックスを解説する。(編集・構成は高下 義弘=日経コンピュータ)


 日本企業のIT部門はアウトソーシングを通じて、コストの削減やサービスレベルの向上について一定の成果を出してきました。ところが、ITに求められる目標や目的が多様化、高度化していく中で、IT部門はその位置づけを再度問われています。つまり、「それだけでは物足りない。IT部門にはもっと貢献してほしい」という経営者やエンドユーザーの声が強まっているのです。それは「イノベーションへの貢献」「付加価値の創出」「戦略部門への転換」といった、本来達成すべきであるIT部門のゴールが達成できていない、ということの裏返しでもあります。

 ひるがえってアウトソーシングを見てみると、一見成熟しつつあるように見えて、実は大きな変化の入り口に立っているとも言うべき状況です。ソーシングの選択肢の増加、IT部門の役割の再定義、計測管理という3つのトピックスを紹介しながら、日本企業が作り上げるべき新しいソーシング・モデルの姿を探ってみましょう。

オフショア、SaaS、BPOに注目

 今のソーシングの動きを押さえたいなら、知っておくべきキーワードが3つあります。1つは、中国やインドを含めたオフショアリング。それからSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)とBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)です。

 ガートナーがテクノロジーやサービスの動きを評価するときの手法である「ハイプサイクル」を使って、それらの位置づけを整理してみましょう(図1)。

図1●日本の2007年時点におけるITサービス分野のハイプサイクル
図1●日本の2007年時点におけるITサービス分野のハイプサイクル
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 図1の横軸は時間、縦軸が認知度です。認知度は、ユーザー企業やIT関連メディアの関心の強さです。一般的には波形の曲線に沿って推移することになります。この曲線の上をさまざまなキーワードが流れていくわけです。このような波形を採る理由は、テクノロジー・キーワードはたいがいの場合、1回は“バブル的”な知名度向上が見られるからです。要するに実体が伴わないまま話題だけが先行するのです。この時期に導入するのは勇気が必要です。というのは、ノウハウ不足や技術がこなれていないといった理由でうまくいかないことが多いからです。そのようにチャレンジした企業が失敗し、“へこむ”時期があります。その後ノウハウの蓄積を経て、ようやく普及に至る。こんなプロセスを経ます。

 先ほど取り上げた3つのキーワード、オフショアリング、SaaS、そしてBPOは、現在どんな位置にあるでしょうか。まずオフショアリングについて見てみましょう。過去日本企業がオフショアリングに投じている金額の推移を見ると、年間30%ずつ伸びています。2006年が約2100億円ですので、2007年は2500億円前後まで伸びると見られます。

 投資金額の内訳を見る、4分の3に当たる76%が中国系IT企業向けです。つまり、それだけ中国への委託件数や規模が多いことを示しているわけです。次に続くのがインドで、21%を占めます。残りの3%はフィリピン、ベトナム、ブラジルなどです。一時期ベトナムが話題になりましたが、委託金額としてはまだ小さいです。やはり中国が圧倒的な規模であることがよく分かります。

 国ごとに委託内容を見ていくと、それぞれ特徴があることがよく分かります。中国は組み込み型アプリケーションの開発が過半数を占めています。ERPパッケージの導入や企業アプリケーションの開発・導入は意外に少なく、4分の1程度にとどまります。残りの多くは、特に金融機関にはなじみのあるトランザクション処理や情報処理系のサービスで、20%程度あります。

 このように、業務アプリケーションの開発で中国に委託するケースは意外に少ないのです。一方、インドはどうでしょうか。業務アプリは全体の3分の1以上を占めています。組み込みアプリケーション開発も3分の1程度ありますが、むしろシステムの運用やアプリケーション保守、BPOなどが伸びています。近年、インド企業側が日本企業にこうしたサービスを売り込んでおり、それが徐々に数字として見えてきた格好です。

 ガートナーの顧客であるユーザー企業のIT部門から受ける質問内容を見ていますと、2007年から「中国やインド系のITベンダーとどう組むべきか」という質問が急激に増えています。これは注目すべき動きといえるでしょう。そこでガートナーはこんな回答をしています。「開発の下流工程等に分野を絞れば、積極的に中国やインドのベンダーを活用してもいい、と言えるだけのノウハウが蓄積されつつあります」。図1のハイプサイクルでも、オフショアリングの一部のトピックスについてはようやく一山を越え、安定的に利用できるフェーズと位置づけています。

 このように回答している背景には、もちろん実態がそうであることもあるのですが、「人的リソースのグローバル化」をユーザー企業の皆さんにもっと意識していただきたいという狙いがあります。

 経済のグローバル化という流れを踏まえると、企業は中長期的に見れば、国内、海外問わず、必要なスキルを必要な地域から調達せざるを得ません。すなわち、まさに「グローバル・ソーシング」を実践することになるわけです。従来、日本のIT業界は「オフショア開発」と称して、海外の人材を安い単価で調達する形でのソーシングを実施してきました。これに対して、グローバル・ソーシングは、より広いソーシングの概念を説明する言葉として最近頻繁に使われるようになってきました。

 このような潮流を踏まえると、日本企業は例えばインドに対する調達戦略を見直すべきでしょう。インドはここ数年、コストによる競争を止めようとしています。研究開発や製品開発、スキルやナレッジを集積し、それを国外に輸出する国家戦略を打ち立てています。ユーザー企業はグローバル・ソーシングの考え方に立ち、インドを高いスキルの調達拠点として再評価すべき時期に来ています。