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村上氏写真

村上 智彦(むらかみ・ともひこ)

1961年、北海道歌登村(現・枝幸町)生まれ。金沢医科大学卒業後、自治医大に入局。2000年、旧・瀬棚町(北海道)の町立診療所の所長に就任。夕張市立総合病院の閉鎖に伴い、07年4月、医療法人財団「夕張希望の杜」を設立し理事長に就任同時に、財団が運営する夕張医療センターのセンター長に就任。専門分野は地域医療、予防医学、地域包括ケア、チーム医療。

* このコラムは、無料メールマガジン「夕張市立総合病院を引き継いだ『夕張希望の杜』の毎日」の連載コラム「村上智彦が書く、今日の夕張希望の杜」を1カ月分まとめて転載したものです(それぞれの日付はメールマガジンの配信日です)。メールマガジンでは病院のスタッフ、関係者などの寄稿も毎号掲載しており、地域医療の現場最前線の取り組みが伝わってきます。


■5月2日 地域医療を守る地方議員連盟

4月26日土曜日に札幌で「地域医療を守る地方議員連盟」の設立総会がありました。多くのマスコミが取材に訪れて、北海道ではテレビでも放送されました。おそらくこのような会ができたのは日本では初めてではないでしょうか。

当初は20人も来たら良い方だという予想に反して50人くらいの参加があり、地域医療に対する関心の高さ、危機感が感じられました。

私を含めた2名の医師と行政学者の伊関先生が講演を行い、その後で情報交換会もありました。

講演をした3名が打ち合わせもしていないのにかなり共通の内容になっていたのは興味深いことでした。

おそらく共通していたのは「今の医療崩壊は国の政策や行政の対応に問題があるのは確かだが、地域の住民が現状を把握して行動しない限り問題は解決しない」という点だったと思います。

その意味では住民の代表である議員の皆さんが地域医療の現状を把握して住民の皆さんに伝え、行政の不作為に働きかける必要があることは認識できたはずです。

それぞれの地域には歴史や地域性、住民気質、不作為、利権等があるのだと思います。

特に夕張のように繁栄の歴史があると、余計に現実を受け入れるのにはプライドが邪魔して抵抗感がるように思えます。

しかし「何とかなる」あるいは「誰かが何とかしてくれる」と問題を先送りしていると、第2の夕張が待っています。

その夕張では、破綻してもなおそれを受け入れられず、「前はこうだった」と言って誰も責任を取らず誰かのせいにしている人たちがいるのが現状です。これを見ていると、破綻すれば解決する問題だとは思えないのが現場の感想です。おそらくその先に待っているのは地域が消えることなのだと思えます。

後は住民のどれ位の人たちがその地域に思い入れを持ち、思いを声に出して行動できるかということなのだと思います。

起こっている問題は複雑なようで、実はとても単純なことなのではないでしょうか。複雑にしているのは解決したくない人たちなのだと思います。

5月の連休が始まりました。相変わらず出かける予定はないのですが、溜まっている宿題(原稿や講演の準備)を片付ける時間になりそうです。

昨日住民の方から大好物であるアイヌネギ(行者ニンニク)をたくさんいただきました。早速ジンギスカンに大量に入れて食べてしまいましたが、外来のある前の日には食べない方が良いと思われます。

私は住民の思いを信じて問題に取り組んでいきたいと思います。


■5月9日 5月の連休

5月の連休が終わり、また忙しい毎日が始まろうとしています。

十分に休んでリフレッシュした方、相変わらず仕事に追われていた方、家族サービスで普段以上に忙しかった方等様々だったと思います。

私は連休で混み合う新千歳空港に早朝から車を走らせて3日から東京へ行き5日までの3日間、産業医の講習会へ出て講義を受けていました。

朝9時から夕方6時までずっと講義と実習を受ける毎日で、100人以上の医師が全国から集まり連休を過ごしていました。

実は医師にも医師免許を取ってからも取得できる様々な資格があります。各種の専門医、認定医、指導医等がありますが、ほとんどの資格はその医師が得意とする分野や専門性を明らかにするためものです。ただ、中にはその資格がないとできない仕事もあります。

そしてそれらの資格の多くが一度取ってからもその資格を更新するために学会に出たり、講習を受けたりしなければなりません。

地域で仕事をしていますと多くの学会や講習会が都市部で行われている関係で、出席するのも大変になります。

私が地域で仕事を始めてからは、時間を見つけては学会や講習会に出かけていたのですが、流石にこの数年間の異動や忙しさでなかなか出られない状態が続いていました。

今回の講習会は比較的短期間で単位が取れるので出席したのですが、1日8時間講義を受ける生活にお尻も痛くなり久しぶりに学生時代を思い出していました。

私にとっては2度目の更新ですが、時代の変化とともに内容も変わってきていて、随分と勉強になりました。

メンタルヘルス(心の健康)や後期高齢者制度、メタボ対策等社会の変化に応じて職場の健康作りも変わってきています。

地域医療を始めて、医療以外の分野の勉強をする機会も増えました。どちらかというと苦手な文系の政治・経済・行政・社会学等のもので、興味があったというより必要に迫られて本を読む機会が増えてしまいました。

日々の生活と仕事に追われる中で、時々頭の整理をしないと自分が何をやっているのか分からなくなることがあります。そんな時に助けてくれるのは別の分野の仲間だったり、知識だったりします。

私の仕事にとって専門性というのは必要なことですが、その専門性を生かすために関わる他の分野の技術や知識が必要になっているといった感覚です。

連休が終わりますといよいよここの法人の「これから」が問われる毎日になります。

自分一人で解決することはできませんので、周囲の力を借りて方針を決めて進んでいこうと思います。

多分次回のメルマガでは新たな展開が書けるのではないかと思います。


■5月16日 正念場

今月は夕張医療センターが開業して最大の危機を迎えています。

開業当初から行政の対応の遅れや、老朽化して充分なメンテナンスを怠ってきた建物の補修、整備をしてこなかった医療機器の修理といったことで莫大な損害を被ってきました。

例えば開業数カ月でボイラーが故障して、その修理に90万円以上の経費がかかりました。

公設民営という運営方法は、公が建物を提供し医療の方針を決めて、運営を民間の指定管理者が効率的にやるというのが基本ですが、医療機関の診療報酬は2カ月遅れで入るので、通常は最初に数億円の運転資金を準備して民間の指定管理が運営しやすいようにするのが一般的です。もちろんこれは行政が住民の安全・安心を守るという気持ちがあればの話です。

夕張市は財政破綻している関係で資金がない、というか本来住民の安全保障のためには資金を準備すべきだったはずなのですが、丸投げにしてしまいました。

暖房光熱費が以前は年間7000万円という莫大な金額でした。

これは燃料が石炭で無料だった時代の建物と暖房方法のままにしてあったためで、環境問題で炭酸ガスの排出を抑えようという今の流れからは考えられないものです。

道庁や市はこれに対して暖房費を節約するための改修工事をしてくれましたが、実際には専門家の分析で10%程度の削減にしかなりませんでした。

北海道のガラスメーカーであるフクソーガラスさんが断熱2重サッシを寄贈して下さり、これにより断熱効果が30%上がりました。あとは現場の節約により暖房光熱費を節減しても年間5000万円にもなりました。

これは収入の12%くらいに相当し、通常の病院では暖房光熱費が5%程度で新しい建物であれば3%程度ということを考えますと、とても運営を続けていける数値ではありません。

その分従業員の給与を抑えて苦労を強いて来ました。

もちろんこのようなことは開業当初からある程度予想されたので、契約時に話をしたのですが、当時の首長や役場の幹部職員は「公的な医療機関は必要なので何とかします」といってぎりぎりまで先延ばしをして、契約を結びました。

その方たちは全員退職して、残った職員の皆さんは知らぬ存ぜぬを繰り返すことになりました。

言い方を変えますと「嘘をついて欠陥住宅を売りつけて、契約書を盾に入居者に補修を押し付けている」状態です。公設民営方式の公の役割を全て放棄してしまっている訳です。

抗議をしたところ「人件費が高いからだ」「運営が悪いからだ」と言われましたが、うちの法人は暖房光熱費が5%程度なら十分黒字になっています。

経営の専門家に運営状況を評価してもらったところ、1年目にしたら十分に優秀で今後は黒字が見込めると言われました。

患者数も3000人を超えて在宅医療が増えて、10月には医師の数も4人に増えて他の医療機関への支援も可能になる様な状況です。

しかし過大な維持管理費のために資金ショートしそうになっています。

今は夕張市、道庁、国に現状を報告して対応をお願いしています。職員には住民の1人として他の住民の皆さんに正しく状況を伝えて、住民自身がここの医療が必要なのか考えて声を出して欲しいとお願いしました。

1人よりも70人以上いる職員とその家族が真剣に自分達の地域の将来を考え、それを周囲に伝えることが必要だと思いました。

地域を守るのは最終的には住民自身です。誰かに責任を押し付けて自ら行動しないと破綻するということを経験しているのは夕張市民だけです。

まだ先は見えませんが、これができなければこの町は消えていくのだと思います。行動せずに批判だけしているのは簡単ですが、そのことが地域を疲弊させているように私には思えます。


■5月23日 出張と講演だらけの週末

今週の土曜日は金沢へ講演に行ってきました。

夕張の自宅から車で1時間少し走って、朝7時の第一便で新千歳空港から東京経由で小松空港へ行き、講演を1時間してからそのまま同じ経路で夜に夕張へ戻りました。

私は金沢で6年間過ごしましたが、15年ぶりの金沢では懐かしい風景や再会があり、慌ただしい移動中にお土産を必死で探していました。食事も空港や飛行機の中という状態で、後は移動ばかりでした。

瀬棚町時代には空港まで3時間かかったのでそんなことはできませんでしたが、夕張が空港に近いおかげで東京等への出張が随分楽になりました。

5月、6月は平日の夜も講演や取材、学会や来客があり、週末はほとんど出張で予定が埋まっています。これからの予定はほとんどが道内なので移動はそれほど苦にはなりません。

近頃の法人の危機がマスコミで報道された関係もありますが、ほとんどの講演依頼が医療崩壊の危機に瀕した地域や医療関係者からの依頼です。

私の講演で危機が回避されるとは思えませんが、夕張がある意味破綻の先駆けであったことが大きく影響していると思います。

講演に行くとそれを聞いていた方からまた講演依頼があるという悪循環?なのですが、少しでも役に立つのなら時間を作ってお受けしようと思います。

最近夕張市の住民の皆さんが医療機関の継続を訴えて署名活動をしたり、住民と行政との懇談会で医療の必要性を声に出したりといったことが増えてきました。

忙しい毎日でも、そんな声が続くのであれば我々も頑張ってここの運営を続けていこうと思えます。

出張のおかげで羽田空港の第2ターミナルの中にとても詳しくなりました。どこへ行けばどんなお土産が置いてあり、どこへ行けば蕎麦やラーメンが食べられて、どんな種類のお弁当が買えるのか分かるようになりました。ちなみにソフトクリームを置いてある売店は2カ所あります。

旅支度も早くなりました。いつもの鞄にパソコンと着替えを入れて、5分もあれば荷作りが完成します。

元々旅が大好きな私ですが、流石に毎週になると疲れてしまうようになったのは年のせいかもしれませんね。


■5月30日 住民懇談会

5月中に6回シリーズで夕張市の各地区で住民懇談会が開かれました。行政が広く住民の意見を聴き、話し合う機会を作るために今の市長さんが提案して毎年1度開かれることになっています。

破綻後1年して、住民の多くから前向きな意見が出されている反面、ある政党の方々から相変わらずの要求のみの意見も出されていて、少々がっかりしました。

公衆トイレを再開しろ、透析を再開しろ、あれをしろ、これをしろ、要するに自分達は何一つしないし負担も嫌だけど、前の夕張に戻してほしいと権利ばかり主張していました。

それを聞いていたある高齢者から「受益者負担だ!」といった声も上がりました。

元市議会議員の方も同じような発言していましたが、彼らは600億円以上の負債を見落として「知らなかった」で済ませてしまった人たちです。

夕張の破綻では決定権を持っていた立場の方々は誰も責任を取らずに「国と道が悪い」で済まされてしまっています。

責任のある人たちが何らかの決定をして、その結果破綻しても何も責任を取らずに過ごしていて、その人たちが相変わらず破綻を受け入れていないで権利ばかり主張して、自分では何もしない姿を見ていると情けなくなります。

それに比べて一般の住民の皆さんは立派だと思います。毎日歩いて健康作りをして、人に迷惑もかけずに自分自身で汗を流してボランティア活動等にも積極的に参加しています。

このような席で文句ばかり言っている人にはボランティア活動の席ではお会いできません。

どこの地域にもいるのでしょうが、明らかにこの手の人たちは町の破綻を招き、再生も妨害しようとしています。イデオロギーに関係なく人として見習いたくはありません。

うちの法人も随分批判されていました。救急を全部受けろ、透析をやれ、前のように戻せなどと言いますが、前のように戻すと破綻するだけです。

住民の皆さんが権利ばかり主張し、要求ばかりする以前の状態を良かったとは思えませんし、現実的にその要求に答えるだけの資金も余裕もありません。

嫌なことばかりではありませんでした。

「希望の杜の医療は必要だ!」「入院出来るベッドを守るために行政が何としても支えるべきだ!」といった応援のメッセージも多数ありました。

私は本当に自分の町を守りたいのなら地域の医療は必要であり、住民がそれを声に出して言わない限り守れないと思っています。

何でも批判するのは簡単ですが、自分の考えと違うと文句ばかり言って自らは行動しないのであれば子供と一緒です。大人は自ら行動して責任を取るべきだと思います。

相変わらず批判ばかりしていないで代案を出してリスクを負い自分自身でやるべきではないでしょうか?そうすれば社会的に信用されると思います。

私はここを始めた時から住民が望まないのであれば、指定管理者としてここにとどまる必要などないと思っています。

職員にも「皆さんが町の医療や職場を守りたいなら協力するけど、お任せされるのなら嫌です」といつも言っています。

地域を支えるのはそこの地域住民なのですから、そのスタンスは地域医療を続けていく上で大切だと考えます。

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財政破綻した夕張市と共に破綻した夕張市民病院。その経営を引き継いだ「医療法人 夕張希望の杜(もり)」を広告収入で支援するメールマガジン。購読は無料。運営コストを除いた広告掲載料が「夕張希望の杜」に寄付される。発行者は木下敏之氏(前・佐賀市長/木下経営研究所所長)。村上智彦医師のコラムのほか、病院のスタッフ、関係者などの寄稿を掲載している。