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米国の連邦通信委員会と疾病予防管理センターの調査結果から,米国の固定電話離れの傾向が明らかになった。年齢層別では若い成人層にその傾向が顕著だが,世帯所得状況や飲酒・喫煙性向といった生活習慣との相関も見えている。

(日経コミュニケーション編集部)

 米国では固定電話を持たずに携帯電話だけを使うといった“固定電話離れ”の傾向が年々強まりつつある。2008年2月に発表された連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)の「第12回年次CMRS競争報告書」(12th Annual CMRS Competition Report, FCC, Released 2008.2.4:以下,FCC報告書)と,5月に発表された米国疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)の「ナショナル・ヘルス・インタビュー調査」(National Health Interview Survey,CDC/NCHS Released 2008.5.13:以下,NHIS,注1)に,その最新動向についての記載がある。

注1 2007年7月から12月にかけて1万3083世帯(世帯に含まれる成人[18歳以上]:2万4514人と子供[18歳未満]:9122人を含む)を対象に実施された調査。

2006年だけで固定電話回線が7%減

 FCC報告書によると米国全体の携帯電話普及率は約80%であり,年齢層を15~69歳に限定した場合,実質的にはすべての人が携帯電話を所有しているといった状況にある。携帯電話の普及率が高まる一方,固定電話回線は減少する傾向にある。RBOC(ベル系地域通信事業者)の総固定電話回線数は,2001年末の1億6100万回線から2006年末には1億2400万回線へダウンした。2006年単年では回線数全体の約7%を失った。こうした固定電話回線数の低下は,固定電話から携帯電話への移行(wireless substitution)が拡大しつつあることが主な要因となっている。

 NHISによると,米国において固定電話をやめて携帯電話だけを所有する世帯は,2003年上期にはわずか3.2%だったが,最新データの2007年下期(注2)では15.8%にまで増大していた(図1)。つまり約6世帯のうち1世帯は,携帯電話だけしか使っていないことになる。2003年からの数値で見るとこの携帯電話だけを所有する世帯率は年々上昇し,2006年上期にはついに2けた台に突入,その後も伸びが続いている。

注2 FCC報告書の中にもNHISの調査結果についての記載があるが,2006年下期までのデータとなっている。2007年下期の統計数値については,NHISに別途「95%信頼区分」(95% confidence interval)数値の記載あり。
図1●米国で携帯電話だけ所有する割合
図1●米国で携帯電話だけ所有する割合
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“携帯だけ所有”は若い成人層に顕著

 携帯電話だけを所有する割合を,携帯電話だけ所有する世帯に住む成人(18歳以上)と子供(18歳未満)の割合で見ると,それぞれ14.5%,14.4%となっている(図1)。さらにこの成人の割合を年齢層別に分析すると,若い成人層にとりわけこの傾向が強く見え,30歳を境に割合の増減に顕著な違いが表れている。18~29歳では,年齢層が高まるにつれて携帯電話だけを持つ世帯に住む割合が上昇しているが,30歳以上になるとその傾向が逆転し,年齢層が上がるに伴って割合が低下する。

 具体的には,18~24歳の成人が携帯電話だけ持つ世帯に住む割合は30.6%,25~29歳では最高値となる34.5%に上昇する(図2)。どちらの数値も成人全体の数値14.5%を大きく上回っている。一方,30歳以上の成人の場合,30~44歳では15.5%,45~64歳では8.0%,さらに65歳以上になるとわずか2.2%となる。年齢層が上に行くほど,携帯電話だけ所有する割合が段階的かつ急激に落ち込んでいる。

図2●米国で携帯電話だけ所有する世帯に住む成人割合(年齢層別,2007年下期)
図2●米国で携帯電話だけ所有する世帯に住む成人割合(年齢層別,2007年下期)
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世帯所得状況と生活習慣との相関も見える

 NHISでは携帯電話だけを所有する世帯に住む成人の割合を,ほかの切り口からも分析している(図3)。例えば性別の違いで見ると,男性が15.9%で女性が13.2%と,男性の方がやや高い。人種別では非ヒスパニック系アジア人(Non-Hispanic Asian, single race)が最も低い12.1%であるのに対し,非ヒスパニック系混合人種(Non-Hispanic multiple race)の22.8%が最も高くなっている。

図3●米国で携帯電話だけ所有する世帯に住む成人割合(カテゴリー別,2007年下期)
図3●米国で携帯電話だけ所有する世帯に住む成人割合(カテゴリー別,2007年下期)
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 世帯所得状況によっても割合に大きな差異が出ている。貧困層(poor)では,携帯電話のみの割合が27.4%と高いが,非貧困層(not poor)ではその約3分の1(11.9%)にまで落ち込んでいる。この傾向から非貧困層では,固定と携帯を併用している割合が比較的高いことをうかがえる。

 生活習慣と関連させた調査結果では,飲酒回数の多い者(Five or more alcoholic drinks in 1 day at least once in past year)が,携帯電話だけを持つ世帯に住む割合は37.3%にも及ぶ(図4)。これは固定電話を持つ世帯(携帯電話を併せ持つ世帯も含む)に住む数値(17.7%)のほぼ2倍である。喫煙者(Current smoker)における割合も30.6%と高い。NHISのレポートは「携帯電話だけ所有する成人には,より高い喫煙傾向が見受けられる(Wireless-only adults were also more likely to be current smokers.)」とコメントしている。

図4●米国で世帯における成人の電話所有状況(生活習慣別,2007年下期)
図4●米国で世帯における成人の電話所有状況(生活習慣別,2007年下期)
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 むろん,この調査報告だけで携帯電話だけを持つ人が健康でない可能性が高いと仮定することは難しい。それでもNHISが携帯電話の所有と生活習慣を結びつけた調査結果は非常に興味深い。

携帯の料金プランが固定離れを後押し

 米国で固定電話離れの拡大を後押しした携帯電話の特徴として,FCC報告書は,相対的に低料金化(the relatively low cost)が進んだこと,広範囲の利便性(widespread availability)が備わっていることを挙げている。料金について言えば,長距離通話の場合にはとりわけ,携帯電話が固定電話よりも安くなるケースがあるという。さらに多くの通信事業者が,固定電話と真っ向から勝負する無制限の定額制プランや長時間・曜日時間限定の定額制プランを打ち出してきている。

 2008年2月には,AT&Tモビリティのほか,ベライゾン・ワイヤレス,スプリント・ネクステルそしてT-モバイルUSAといった米国大手携帯通信事業者が,たて続けに無制限の定額制プランを発表した。大手4社の動きは,米国における現在の固定電話離れのトレンドを,一層加速化させることになるだろう。

松本 祐一(まつもと ゆういち)
情報通信総合研究所 研究員
国際通信会社を経て,2000年にNTTコミュニケーションズ入社。在日外国人市場における国際電話サービスの販売促進業務に携わる。2008年4月から現職。現在,海外の移動体通信市場に関わる調査・研究に取り組む。

  • この記事は情報通信総合研究所が発行するニュース・レター「Infocom移動・パーソナル通信ニューズレター」の記事を抜粋したものです。
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