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米アップルは2008年3月上旬,iPhoneやiPod touch向けのソフトウエア開発キット(SDK)を公開した。iPhoneの特徴的なユーザー・インタフェース(UI)を使ったネイティブ・アプリケーションを誰でも作成できる。傾き・加速度センサーなどを生かして使いやすくしたアプリや端末が,今後一層増えていきそうだ。

 今回のアップルの発表には二つの意義がある。(1)iPhoneが持つ特徴的なユーザー・インタフェース(UI)を生かしたアプリケーションを誰もが開発できるようになること,(2)アプリケーション流通の仕組みをアップルが整えたことである。これにより,iPhoneの特徴的なUIを生かしたサード・パーティ製アプリケーションが多数登場するようになり,他製品にも影響を及ぼす可能性がある。携帯電話におけるUI重視の傾向は一段と加速しそうだ(図1)。

図1●iPhone SDK公開によってUI(ユーザー・インタフェース)を生かしたアプリケーションが続々登場
図1●iPhone SDK公開によってUI(ユーザー・インタフェース)を生かしたアプリケーションが続々登場
アップルの発表に合わせ, 米マイクロソフトや米セールスフォース・ドットコム,セガ,米エレクトロニック・アーツなど多くのソフト・ベンダーが賛同を表明した。

自由なアプリ開発が可能に

 まず(1)については,既に多くのソフト・ベンダーがiPhone向けソフトウエアを開発すると表明している。例えば発表会場では,米エレクトロニック・アーツが人気ゲーム「SPORE」をiPhoneに移植し,実際に動作させた。iPhoneが持つ傾きセンサーを使い,本体を傾けながらゲームの主人公を操作するといった,iPhoneの機能を生かしたアプリケーションである。

 企業向けアプリケーションも登場した。例えばSaaS(software as a service)大手の米セールスフォース・ドットコムは,発表会場で同社の営業支援ツール「SFA」をiPhone上で動作させてみせた。一人のエンジニアが2週間で作り上げたという。

 同社のデモでは,iPhoneのグラフの描画性能や,タッチパネルを使ったナビゲーションの利点を強調。iPhone SDKは,端末にデータを保存できる仕様になっているため,ネットワーク接続が確保できない場所でもSaaS型アプリケーションを利用できるとした。

写真1●アップルが公開したiPhone SDK
写真1●アップルが公開したiPhone SDK
Mac OS X上で動作するiPhoneのエミュレータである「iPhone Simulator」(左),iPhone OS対応の開発環境「Xcode」(右)などで構成する。なお今回公開されたSDKはベータ版であり,発表時にアナウンスされたインタフェース開発ツール「Interface Builder」は含まれていない。正式版は6月に登場する見込みだ。
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 SDKの登場で,携帯電話向けのアプリケーション開発の敷居は一気に低くなる(写真1)。国内外の携帯電話向けソフトウエア開発に詳しい,ハドソンの柴田真人執行役員ネットワークコンテンツカンパニープレジデントは「アップルや通信事業者と交渉することなく自由にアプリケーションを開発できる点が何よりうれしい」と語る。

 携帯電話向けアプリケーションの開発では,通信事業者との交渉に時間がかかったり,既に同じ分野のソフトウエアがあるという理由で通信事業者が新規参入を拒絶することもあるという。今回アップルが,サード・パーティが自由にアプリケーションを開発できる体制を整えたことで,交渉に時間を取られず開発に専念できる。「iPhone向けのアプリケーション開発に本気で取り組みたい」(ハドソンの柴田執行役員)と言うソフト開発企業は少なくないだろう。

 組み込み機器やモバイル機器のソフトウエア開発に詳しいUIEジャパンの橋本弘太郎Service Design Engineerは「SDK自体には目立った特徴はないが,アップルは開発者を呼び込む仕組みを作るのが実にうまい。多くの開発者が集まるだろう」と語る。なおiPhone SDKで開発したアプリケーションはiPod touchでも利用できるため,iPhoneが未発売の日本でもその恩恵は受けられる。

世界で受け入れられる流通基盤も

 (2)のアプリケーション流通の仕組みとして,アップルはiPhoneやiPod touch向けアプリケーションを配布する「App Store」を用意した。ここが唯一の配布窓口であり,App Storeを経由しないアプリケーションはアップルから認証されていないことになり,端末にインストールできない。

 App Storeを通じてソフト開発者が有料でアプリケーションを販売する場合,販売収入の30%をアップルに支払い,開発者は残り70%を得る(図2)。無料でアプリケーションを配布する場合には,アップルへの支払いは生じない。この仕組みは国内の通信事業者の収益モデルに似ており,Windows MobileやシンビアンOSなどにはない。

図2●作成したアプリをiPhoneユーザーに配布する環境を準備
図2●作成したアプリをiPhoneユーザーに配布する環境を準備
SDK正式版公開に合わせてアップルは「App Store」というアプリケーション配信サービスを開始する。

 アップルが販売収入の30%を得る収益分配は,国内の通信事業者の取り分に比べると高い。しかし,意外にも開発者は納得しているようだ。「海外では,通信事業者などに収益の40%程度を支払うのが一般的」(ハドソンの柴田執行役員)だからだ。

 全世界のiPhoneとiPod touchが対象になることも開発者の支持につながっている。両シリーズのユーザー数が将来的に1000万人となると仮定し,開発者が1000円のアプリケーションを販売するケースを考えてみよう。全ユーザーの0.1%が購入しただけでも,開発者は700万円の収入を期待できる。

 アップルは,アプリケーションを一元管理する体制を整えることで,セキュリティ面で危険性のあるアプリケーションの拡大を事前に防げる。アップルは,公序良俗に反するものやプライバシー侵害,ネットワーク帯域を占有するアプリケーションに制限を加える方針だ。

正式版は6月登場,企業向けに強化も

 今回のiPhone SDKは,正確には6月に出荷予定のiPhoneとiPod touch向けOSの新版「iPhone 2.0」に対応したものになる。

 iPhone SDKは現時点ではベータ版であり,正式版は6月に公開される。現時点ではアプリケーションの開発とテストだけが許可されており,正式版登録以降に販売が可能になる。

 開発者は,アップルのサイト上で登録すれば,SDKを無償でダウンロードできる。ただし,アプリケーションを配布するには,有償の「iPhone Developer Program」に加入する必要がある。主に個人を対象としたスタンダード・プログラムが99ドル,企業を対象としたエンタープライズ・プログラムが299ドルだ。iPhone Developer Programは現在,米国内に限って受け付けているが,米国以外は今後数カ月のうちに広げる計画という。

 なおiPhone OSの新版2.0では,企業向け機能も強化した。新たにマイクロソフトのActiveSyncプロトコルをサポートし,メール・サーバー「エクスチェンジ・サーバー」との連携を可能にした。カナダRIM(リサーチ・イン・モーション)の「BlackBerry」が導入するプッシュでのメール受信や,iPhone内のデータを消去できるリモートワイプ機能も用意する。

 このほか,米シスコのネットワーク機器とのIPsec接続や,WPA2や IEEE 802.1Xといった無線LANの認証に対応,セキュリティ面でも強化が施されている。業務用アプリケーションを開発するサード・パーティの登場と合わせ,iPhoneは企業ユーザー向けの端末としても進化した。