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 大人であるマイクロソフトの正論は、子供であるグーグルの暴論に勝てない。

 こう書くと、マイクロソフトもグーグルも面白くないだろう。マイクロソフトは「当社は若さを維持している成長企業であり、我々の正論はグーグルに勝つ」と言い張るに違いない。グーグルは「当社は近来希に見る早さで巨額の株主価値を創造した企業であり、オンライン(Web)ですべてをこなせるという我々の主張は未来を先取りしたものだ」と言いそうだ。

 このようなことを妄想したきっかけは、マイクロソフトのジェフ・レイクス プレジデントのインタビュー『PCはオフラインでもオンラインでも使う』を読んだことだ。インタビューの題名通り、レイクス氏は「マイクロソフトはオンライン(Webサービス)の世界でも、既存のオフライン(PCのパッケージ・ソフト)の世界にも対応できる。だからグーグルより上だ」と主張している。確かに、インターネットに接続できない状況下でグーグルのサービスは使えない。これまで通り、パソコンに搭載してあるマイクロソフト製品を使うしかない。

 また、いくらネットワークが高速になったからと言って常に接続することが得策とは言えない。頻繁に外出したり海外に出かけるビジネスパーソンであれば、電子メールを一括してパソコンにダウンロードし、移動中にまとめて返事を書き、インターネットが使える環境になったら、返信のメールを一括してアップロードする、という使い方をしたほうがよいだろう。

 だから「S+S(ソフトウエア+サービス)だ」とレイクス氏は主張する。筆者はレイクス氏の言う通りと思うが、この発言に膝を打つIT関係のプロフェッショナルはあまりいないのではなかろうか。むしろ「マイクロソフトはドル箱のパッケージ・ソフト事業を残したいから、そう言っているだけ。世の中の流れは、ソフトウエアをインターネット経由で利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に向かっている」と思う人のほうが多いだろう。

 「マイクロソフトはSaaSではなく、S+Sのリーダーです」というレイクス氏の発言を読んで、10数年前のIBMを思い浮かべた。ダウンサイジングが喧伝されていたころ、IBMが「ダウンサイジングの流れは確かにあるが、アップサイジングマネジメントも必要」といった主旨のメッセージを出したことがあった。ダウンサイジングは死語になったので念のため書くと、大型コンピュータ(メインフレーム)を小型コンピュータ(UNIXマシンやパソコン)に置き換えることを指していた。アップサイジングマネジメントは死語以前に普及すらしなかったが、「分散処理を進めるとシステム全体を効率的に管理する仕組みが必要になる」といった意味であった。

 今になって振り返ればIBMの言ったことは正論であったが、当時は相当に批判された。「大型コンピュータを守ろうとしているだけ」「主張はともかく、ダウンサイングが潮流と言われている時に、アップサイジングはないだろう」といった具合である。その結果、IBMはアップサイジングマネジメントという言葉を使わなくなった。今のマイクロソフトの主張は当時のIBMの主張にかさなってみえる。

 3月の本欄に『続・独禁法は妄想の産物』と題し、マイクロソフトとIBMの共通点を列挙したコラムを書いた。共通点の一つとして「悪役の印象が定着してしまい、それを払拭するために様々な手を講じたが、改心したことをなかなか信用してもらえなかった」ことを挙げた。当時のIBMも、今のマイクロソフトも、現実を踏まえた大人の主張をしているのだが、なにしろ現実が「両社による市場独占」であるので、現実を踏まえることは両社の独占を守ることにつながってしまう。「Webサービスですべてができる」といったグーグルの主張のほうが次世代のビジョンに見えるのは当然である。

 技術の潮流が変化している時、実際にITを利用する企業はなかなか難しい舵取りを余儀なくされる。WebサービスやSaaSに背を向け、マイクロソフトのパッケージ・ソフトに固執するのは賢明ではないが、といって企業情報システムのすべてをWebサービスやSaaSで実現できるわけでもない。メインフレームとクライアント/サーバー・システムが長い間混在したように、様々な技術が混在する環境にならざるを得ない。本来、企業は業務改革とそれを支えるアプリケーションに注力しなければならないのだが、どうしても技術のほうに振り回されてしまう。

 最後に、『続・独禁法は妄想の産物』で書き忘れたマイクロソフトとIBMの共通点を加筆しておく。「自社製品と他社製品をつなぐためのインタフェース情報の公開を拒んでいるうちに、オープンな別の技術が標準となり、自社製品は高いシエアを誇りつつも、徐々に孤立してしまった」という共通点を指摘した。その続きとして、「(孤立しただけではなく)自社製品の上で顧客が開発したアプリケーションが肥大化老朽化した」という問題を付け加えたい。

 いわゆる「レガシーシステム」の問題である。レガシーは遺産のことで決して悪い意味ではないが、レガシーシステムと言った時は悪い意味に使われる。IBMメインフレーム上のアプリケーションは肥大化老朽化したし、WindowsやOffice上のアプリケーションも肥大化老朽化している。後者はいわゆる「Excelレガシー」あるいは「Officeレガシー」という問題である(関連記事『Excelレガシー再生計画』)。