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山本 直樹
べリングポイント
テクノロジーソリューションチーム シニア マネージャー

 最初に、ある調査の結果を紹介したい。6月16日付け日本経済新聞によると、5月12日に発生した中国・四川大地震により操業停止に追い込まれた現地企業(国有企業または年商500万元以上の一般企業)のうち、27%に相当する1482社は、1カ月余り経過した時点でも生産を再開できずにいる、という。このうち24%は、稼働再開まで3カ月以上かかる見通しである。

 生産ラインが停止している企業がこれだけの数に及ぶということは、既に稼働を再開している企業にも、何らかの影響が残っている可能性が高い。なぜならば、現代の企業は調達や業務委託などで相互に依存する関係にあり、自社の事業が完全に復旧したとしても、100%の回復になることはないからだ。

 こうした「事業の中断」によってもたらされるダメージ(損失)を、いかに最小化するか。この経営課題に対する企業の挑戦が「BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)」である。本連載では、企業が競争力を向上させるために、どのような観点でBCMに取り組むべきなのかを、全9回にわたり解説していく。

 第1回と第2回では、「BCMとは一体どのようなものか」を解説する。BCMはこれまで様々な解釈がされてきた。情報システムの障害時復旧対応、自然災害時の緊急連絡網など、BCMの構成要素が単体で取り上げられることが多かったのである。しかし、本来のBCMの全体像はもっと大きい。読者の方々には、今回と次回の解説を通じて、BCMの大枠を理解していただきたい。

BCMはERMの一つの側面

 成熟した市場において、企業がより優位なポジションを勝ち取るためには、「予測困難な事象に直面しても冷静に対処する能力」を備えていなければならない。そのためには、事業運営に伴うビジネス・リスクのすべてを対象としてとらえ、自社のビジネス戦略に照らして包括的にリスクを識別・対応する必要がある。最近では、こうした取り組み全体のフレームワークである「ERM(Enterprise Risk Management)」が注目を集めている。

 ERMの包括的なアプローチで浮き彫りになった個別のリスクに対しては、それぞれの特徴や重要性を考慮して適切に、時には手厚く対応していくことが必要である。実際に企業が取り組んでいるERMを見てみると、それぞれの企業が注意を払っている個別リスクとその対応は、実に様々である。

 例えば、社員による横領を防ぐプロセス作りや誠実性を培う教育に力を入れる総合商社もあれば、業界内で繰り広げられるM&A(合併と買収)への戦略的な対応に重点を置く製薬会社もある。また、社員のモチベーション低下を最大のリスクと考えるサービス業者もあれば、顧客情報のセキュリティ強化に投資する通販事業者もある。これらの企業は、その事業内容、規模、市場におけるポジション、事業の公共性、社風、歴史などがまったく異なるため、必然的にケアすべきリスクも異なるのだ。

 BCMは、このような個別リスクの一つである「事業の中断」への対応であり、その意味でERMの一つの側面と考えることができる。すなわち、「事業の中断によってもたらされるダメージを最小化する」ことを目的とするリスクマネジメント、それがBCMである。

 ダメージ最小化の概念を視覚化したものが図1である。災害や事故などが発生すると、工場の生産ラインが止まったり、顧客からの注文を受けられなくなったり、操業のパフォーマンスが一気に低下したりする。災害や事故の発生を完全にコントロールすることは不可能であるため、企業は発生後の対応を考えておくしかない。これこそがBCMである。この図は、一時的な業務プロセスの切り替えや本格的な復旧作業がスムーズに進めば、結果として損失が小さく抑えられることを表している。

図1●BCMの成熟度を高める目的は、損失を許容範囲内に収めることにある
図1●BCMの成熟度を高める目的は、損失を許容範囲内に収めることにある
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 BCMそのものは決して新しい概念ではない。しかし、これまでは、サーバーや通信回線の二重化、データのバックアップなど、主に情報システムに関連した対策という位置づけで議論されることが多かった。確かにこれらは、現在も今後もBCMの重要な要素である。しかし、BCMの全体像ではない。

 BCMは、その名の通り、ビジネス(Business)をいかにして継続させるか(Continuity)を管理するスキームである。たとえ情報システムが問題なく稼働していたとしても、業務プロセスに中断が発生すれば事業への影響は避けられない。

 また、例えば製造業であれば、サプライヤからの部品供給が止まれば、自社の生産ラインも停止せざるを得ない。それゆえ、BCMでは社内の業務プロセスだけでなく、サポート部門やサプライチェーンを含む事業領域すべてのプロセスを対象としなければならないのである。

 なお、読者はこれまで、BCMよりも「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」という言葉を耳にする機会が多かったかもしれない。BCPというのは計画そのものを指す言葉であり、企業による取り組みを指す名称としてはBCMという言葉を使うのが一般的である。BCMの中でBCPを策定することになる。