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 「効率って何だろう。常識って何だろう」---。そんな気持ちになる,2つの価値の転換に出くわした。1つは,2カ月前に訪れた中国でのことだ。中国では,ガソリンの代わりに電気で走る電動自転車が,その走行コストの経済性を理由にポピュラーな存在となっていた。もう1つは,1カ月前にSOHOやサテライト・オフィス向けのインターネット接続環境を検討したときのことで,無線である携帯電話を用いた定額データ通信の価格が,有線とさほど変わらなくなっていた。

ガソリンよりも電気の方が安い?

 中国で目撃した電動自転車には衝撃を受けた。姿かたちは日本のスクーターと同じ。違うのは,内燃機関(エンジン)を搭載せずに,代わりに電気モーターと充電池を動力として積んでいる点だ。一般家庭の電気コンセント・プラグから充電して使う。私が訪れた地域では,電動自転車を販売している店は街中にあり,その価格は2250元(1元15円換算で3万3750円)程度と,さほど高くない。事実,街では一般消費者が日常の移動手段として電動自転車を利用していた。

 現地の人に聞いてみたところ,ガソリンを買うよりも充電した方が,少なくとも利用者(エンドユーザー)が支払うコストは,安くなるのだという。エンドユーザーからしてみたら,特別な理由がない限り,経済的に有利なほうを選ぶのは当然のことだ。

 中国は世界に名だたる資源国である。石炭大国であり,石油の生産量もそれなりに多い。だが,その一方で,石油の消費量は生産量を上回るペースで増えており,石油供給の半分程度を輸入に頼っているという。中国の石油価格は政府の基準価格をベースに決められるらしいが,それでも世界的な原油高につられて,以前よりも高くなっているのだろう。

 現実に価格を比べたら電気の方が安いのだから仕方がない,と言われればその通りなのだが,心情として,電気を使ってモーターを回すことが,ガソリンを燃やしてエンジンを動かすことよりも安価になるという事実に,なんとなく違和感を感じてしまう。石炭を燃やしたり石油を燃やして作った電気をガソリンの代わりに使うのは果たしてアリなのか,と不思議な気持ちになってしまう。

有線よりも無線の方が安い?

 一方,日本におけるインターネット接続コストの現状にも衝撃を受けた。自宅の引越しにともない,SOHOやサテライト・オフィス向けに適したインターネット接続サービスを比較検討するうち,従来であれば高額過ぎて選択肢とはなり得なかった携帯電話による定額データ通信サービスが,思いのほか安価になっていることを知った。

 例えば,イー・モバイルが提供するコンピュータ向けの定額データ通信サービスが,税込み定価で月額5980円。この値段は,記者が現在使っているNTT東日本のBフレッツの,プロバイダ料金込みの税込み価格とまったくの同額である。携帯電話の安さが光ファイバに追い付いた,ということだ。もっとも,同じ有線でもADSLであれば数字の上ではBフレッツやイー・モバイルよりも若干安価にはなる。だが,光ファイバとADSLの価格差はそう大きなものではない。

 つまり,現代において携帯電話は,料金の上では,ADSL,光ファイバ,携帯電話,ケーブル,PHSなどとともに,自宅向けのラストワンマイル回線サービスの選択肢の1つとなっているのだ。確かに,現状では携帯電話をUSB経由でつないで利用するブロードバンド・ルーター機器が高額という問題は残されている。これはメイン回線のバックアップ用回線などのニッチな用途しか考えられていないためだろう。だが,携帯電話がラストワンマイルとして幅広く使われるようになれば,そのうちに安価な機器が登場するかも知れない。

 携帯電話にはケーブルの敷設工事が不要で,開通までの手続きが簡単というメリットもある。利用者が自身の権限で自由に開通させることが可能である。申し込んでから数十分で開通し,料金の上でも有線と変わらない。そう考えると,有線には帯域の広さや接続の安定性くらいしか,メリットがない。イー・モバイルは自社の携帯電話ユーザーに対して,自宅用の電話共用型ADSLを事実上無料としている。だが,加入電話回線を持っていないユーザーからしてみれば,ADSLは携帯電話の競合相手でしかない。

 だが,記者は最終的にはADSLを選んだ。理由は,特定のプロバイダを経由してインターネットにつなげればよい状況で,無線を世界に向けてブロードキャストすることに,何の必要性も感じなければ,美しさの欠片も感じなかったからである。PCを自宅から移動させる気が毛頭なく,24時間常時接続するつもりなのに,価格が安いからという,ただそれだけの理由で無線を使う気には,どうしてもなれなかった。もっとも,無線の価格が有線の2分の1以下というように圧倒的に安価になったとしたら,有線を捨ててしまうのだろうけれども。