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SaaSの台頭によって本格化したソフトからサービスへの流れは、今後さらに加速する。ソフトはITの価値を届ける手段の一つになり、利用者の目に触れるのは「サービス」になる。利用者には恩恵を、ソフトベンダーには痛みをもたらす世界が待っている。

 1976年2月、米国のコンピュータ雑誌に1通の投書が掲載された。投書の主はマイクロソフトを創業したばかりのビル・ゲイツ氏。「ホビイストへの手紙」と題して、自らが開発したBASIC処理系の不正コピーを糾弾した。

 「ほとんどのホビイストは私のソフトを盗んでいる。ハードにはカネを払うのに、ソフトを作った者への対価はだれが払うのか」。

 今では全世界で27兆円規模に成長したソフトウエア産業はここから始まった。1970年代には米IBMがメインフレーム用ソフトの「アンバンドリング(分離販売)」を推進。ソフトに料金を支払う習慣が完全に定着した。

 それから30年。ゲイツ氏が経営の一線から退くのと時を同じくして、ソフトの“価値”が揺らいでいる。インターネット経由でソフトを貸し出す「SaaS」の台頭がきっかけとなった。

 ソフトを購入するのではなく、必要なときにサービスとして借りる。そして料金は使った分だけ支払う。こうした時代が、すぐそこまで来ている。

 「ソフトは“売り物”ではなく、サービスを届ける“手段”にすぎなくなる」。米ガートナーでサービス関連リサーチを担当するリチャード・マトゥラス副社長は予測する。ソフトやハードからサービスだけを分離する「サービスのアンバンドリング」がもうすぐ起こる(図8)。

図8●ポスト ゲイツ時代は「サービスのアンバンドリング」時代でもある
図8●ポスト ゲイツ時代は「サービスのアンバンドリング」時代でもある
SaaSやクラウドコンピューティングによって、ユーザーは本来必要とする機能やデータだけを調達・利用できる
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大企業にも浸透

 ソフトからサービスへの転換はすでに始まっている。

 米ウォルト・ディズニーは昨年、グループの映画会社ピクサー・アニメーション・スタジオが利用するグループウエアをリプレースした。10年間使ってきたマイクロソフトの「Exchange」に換えて、グーグルの統合アプリケーションサービス「Google Apps」を導入した。

 大日本印刷は夏にも、日本IBMのグループウエア「ノーツ/ドミノ」の電子メールの利用を止める。約2万5000人が米ジンブラのSaaS型グループウエア「Zimbra Collaboration Suite」に乗り換える。「Webブラウザを起点に社内外のシステムやサービスを連携できる点を評価した」(情報システム本部の吉田幸司氏)。

 従量課金が主流で初期投資を抑えやすいSaaSは中小企業に向くとされる。だが、IDCジャパンの赤城知子ソフトウエア担当グループマネージャーは「現時点でSaaSに積極的なのは中小企業よりも大企業」とみる。今年3月に実施した調査では従業員1000人以上の企業におけるSaaSの利用率は財務/人事、販売、グループウエア、オフィスソフトの各分野で軒並み10%を超えたという。1000人未満の企業は多くの分野で5~6%にとどまった。

 「日本郵政ショック」。昨年10月に発足した日本郵政グループは米セールスフォース・ドットコムのCRM(顧客情報管理)を4万人規模で導入。それ以降、国内の大手企業にとってSaaSはシステム開発の有力な選択肢になった。

 IDCジャパンによると国内SaaS市場は年率18.2%成長を続け、2012年には738億円規模になる見通し(図9)。IT投資全体の伸び率1.8%、パッケージソフトの伸び率4.4%をはるかに上回る高い伸びを示す。

図9●国内SaaS市場の見通し
図9●国内SaaS市場の見通し
IT投資全体の伸び率が1.8%であるのに対して、18.2%と高い伸び率を示すとみられる