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 それは,国内携帯電話市場のシェアの半数を押さえる会社の会見としては異例と言える,危機感に満ちたものだった。NTTドコモは「新ドコモ宣言」を4月18日に発表,同社が変わるべき方向を示したのだ。中村維夫代表取締役社長はこう説明する。「新規ユーザーを増やすために奨励金を使って安く端末を売る時代は終わった。これからは現ユーザーのニーズに応え,長く愛されるブランドにする」──。

 NTTドコモの発表は,日本の携帯電話業界が転換期を迎えていることを象徴している。いよいよ市場が成熟し,事業者だけでなく端末メーカーも戦略の見直しを迫られているのだ。携帯電話の普及率が高まった今,契約数や販売台数が順調に増え,事業者もメーカーも成長を続けるという“楽園”の時代はもうすぐ終わる。これからは新規契約数や出荷台数といった「量」に成長を求めるのではなく,「質」の成長へ切り替える必要がある。

ついに訪れた「数の成長」の終わり

 現在の携帯電話業界は,一見すると好調に映る。「いずれ頭打ちになる」と言われてきた契約数は,2007年12月に1億件を突破し,いまだに伸び続けている。端末の年間販売台数も過去3年連続して増え,2007年度は5000万台の大台を突破した(図1)。

図1●転換期を迎えた日本の携帯電話市場<br>携帯電話の契約数はついに1億件を突破した。分離プランの導入で端末の買い替えサイクルが長期化しつつあり,年間販売台数は今後減る可能性が高い。携帯電話事業者は競争激化で消耗戦が予想される。
図1●転換期を迎えた日本の携帯電話市場
携帯電話の契約数はついに1億件を突破した。分離プランの導入で端末の買い替えサイクルが長期化しつつあり,年間販売台数は今後減る可能性が高い。携帯電話事業者は競争激化で消耗戦が予想される。
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 だが,ここに来て成長にブレーキがかかっている。端末メーカーにとっては,通信料金と端末価格の「分離プラン」,通信事業者にとっては相次ぐ「料金値下げ」が契機となり,将来に暗雲が立ち込めてきたのだ。

 まず,端末市場は契約数の頭打ちを待たずして縮小傾向が見え始めた。総務省が2007年9月に分離プランの導入を各事業者に促して以来,端末の買い替えサイクルが長期化する傾向にある。端末メーカーが海外ではほとんど活躍できていない現状では,国内市場が縮小すれば,事業が立ち行かなくなる恐れがある。

 事業者の料金競争も激しさを増している。ソフトバンクとイー・モバイルの参入で料金の値下げ合戦が加速。これまでは“聖域”とされてきた基本料をついに値下げするに至った。この調子で料金の値下げ競争が続けば,お互いの体力を削り合う消耗戦に突入する。

 携帯電話業界の停滞は,ユーザーにも大きな影響を及ぼす。携帯電話はこれまで,ユーザーの生活や仕事の質の向上に大きく貢献してきた。インターネットへの接続に始まり,写真付きメール,着メロ/着うた,おサイフケータイなどだ。成長が止まれば,さらなる通信の高速化や端末の高機能化に向けた投資もままならない。

 事業環境が大きく変わろうとしている今,従来の事業のあり方を改めて見直し,新しい戦略に大きく舵を切る時期が来たのだ。

国内で残る端末メーカーは4~5社?

 実際,2008年を迎え相次いで端末メーカーの退場が始まった。2008年1月に三洋電機が携帯電話事業を京セラに売却することに最終合意,2008年3月には三菱電機が携帯電話端末事業から撤退すると発表した。

 同じ3月には,ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(以下,ソニー・エリクソン)がNTTドコモ向けの端末開発から手を引くと報じられた。同社は「商品化計画を見直しているのは事実だが,撤退は考えていない」と否定しているものの,その説明を鵜呑みにする業界関係者は少ない。

 背景には,新規開発で1機種当たり数十億円と言われる開発費の高騰がある。それでも,これまでは事業者が1機種あたり数十万台単位で買い取っていたが,大量買い取りはもう期待できない。契約数が飽和状態になっていることに加え,端末買い替えサイクルが長期化しつつあるからだ。「ちょうど1年前から各事業者が端末の発注を渋るようになった。これが分離プラン導入でさらに顕著になった」(ガートナー ジャパンの光山奈保子・リサーチテクノロジ&サービス・プロバイダー コミュニケーションズ・主席アナリスト)。

 分離プランの影響は甚大だと指摘する声は多い。2007年の国内端末出荷台数は約5200万台だったが,「最悪の場合は2008年に15~20%減り,2010年に4000万を割る可能性すらある」(IDC Japanの木村融人・コミュニケーションズ・シニアマーケットアナリスト)。

 たとえ端末の出荷台数が落ち込んでも,事業者は端末メーカーに救いの手を差し延べてはくれない。日本のメーカーが減った場合には「海外メーカーからの調達を増やしていく」(NTTドコモ プロダクト&サービス本部長の辻村清行・取締役常務執行役員)だけである。

 こうした状況で多くの日本メーカーは,国内での出荷台数の中期目標を「1000万台」に据える。国内の端末メーカーは現在9社あるが,この数値をクリアしているのは国内シェアがトップのシャープだけ。仮に年間の出荷台数を4000万台前後とし,その市場を大手海外メーカーも交えて奪い合うとなると,日本メーカーで残るのは甘く見ても4~5社というシナリオさえ浮上してくる。