PR

 通信費としてユーザーから徴収できる金額には限界があるものの,付加サービスでARPUの減少を食い止める取り組みは依然として重要である。例えば NTTドコモの情報配信サービス「iチャネル」は月額150円と少額だが,トラフィックの収入を含めたユーザー当たりの平均収入は月額330円(2007 年12月末時点)。契約数は1500万件を超える。「毎月数百円の平均収入があれば年間数千円。5000万人以上の顧客ベースがあるので,20~40%のユーザーが契約したくなるサービスを開発できれば大きな収入源になる」(辻村常務)。

 これらトラフィックの増加につながるサービスを積み重ねていけばデータARPUの底上げになる。データ通信のARPUは徐々に増えているとはいえ,まだ少ない。NTTドコモのデータARPUを例に挙げると,2007年第3四半期で2200円。パケット定額サービスの料金である4000~6000円程度との差は大きく,データ通信の利用頻度の高まりとともに収益を拡大できる。しかも,パケット定額の契約率はNTTドコモの「パケ・ホーダイ」の場合で29%(2007年12月末時点)。まだ十分に伸びしろはある。

ソフトバンクモバイル 吉田 雅信 常務執行役員 プロダクト・サービス本部長「業務のモバイル化で企業の生産性を高めていく」
ソフトバンクモバイル 吉田 雅信 常務執行役員 プロダクト・サービス本部長「業務のモバイル化で企業の生産性を高めていく」
写真:辻 牧子

 付加サービスで今後大きな伸びを期待できる分野は法人向けサービスだ。例えばKDDIは,auの携帯電話でMicrosoft Office Outlook 2007相当の機能を利用できる「KDDI Business Outlook」を2008年3月に開始した。法人向けは個人向けに比べて需要は少ないが,単価が高くなる傾向にあるので収入源として軽視できない。ソリューションの展開も期待できる。「IT化の次は,モバイル化による生産性向上が進む。ビジネス・ユーザーの生産性を高めるための取り組みはまだ開拓の余地がある」(ソフトバンクモバイルの吉田常務)と各社が期待を寄せる。

 トラフィック収入には結びつかないものの,セキュリティ分野も期待できる。「携帯電話は様々な世代のユーザーが利用するので(自己責任が問われる)パソコンでの常識は通用しない。最近は安全・安心を提供する“ライフライン”としての役割も高まっている」(ジェミナイ・モバイル・テクノロジーズの太田社長)。各事業者は,携帯電話を紛失・盗難した際に遠隔からデータを消去したり,端末をロックしたりするサービスを展開している。

独自性の強いサービスに期待

 このほか,1台の携帯電話機で二つの電話番号とメール・アドレスを使えるNTTドコモの「2in1」のように独自性を強く打ち出したサービスも登場している。2008年1月にはKDDIが携帯電話で日常のスポーツ・運動を支援する「au Smart Sports」を開始した。第一弾となる「au Smart Sports Run&Walk」では,GPS(全地球測位システム)と連動してランニング・コースの地図を確認できる仕掛けを用意している。   こうした付加価値サービスは,まだ十分に開拓の余地がある。携帯電話の特徴である(1)ユーザーを特定しやすい,(2)ユーザーから料金を回収しやすい,(3)ユーザーの位置情報を把握できる,(4)コンテンツの著作権を保護できる──といった点を生かせば,アイデア次第でARPUを高める手段はいくらでもある(図1)。

図1●携帯電話の主な特徴<br>ユーザーを特定しやすく,料金を回収する仕組みが完成している。位置情報や著作権保護の機能も備える。
図1●携帯電話の主な特徴
ユーザーを特定しやすく,料金を回収する仕組みが完成している。位置情報や著作権保護の機能も備える。
[画像のクリックで拡大表示]
KDDI 高橋 誠 取締役執行役員常務 コンシューマ事業統轄本部長「認証・課金や位置情報が強み」
KDDI 高橋 誠 取締役執行役員常務 コンシューマ事業統轄本部長「認証・課金や位置情報が強み」
写真:新関 雅士

 KDDIの高橋常務は「事業者は今後,プラットフォーム提供者のような存在になっていく」と話す。認証・課金や位置情報といったプラットフォーム機能を活用して新たなサービスを開発,提案していく存在になるというわけだ。

 ただ,総務省は通信プラットフォーム研究会を開催しており,こうしたプラットフォーム機能をコンテンツ・プロバイダが事業者と同等の条件で活用できるようにする議論を進めている。他のプレーヤが携帯電話事業者と同様の機能を組み込んだサービスを提供しやすくなることが予想される。

 それでも事業者にはこれまで蓄積したノウハウと,他社に先駆けてきた自負もある。KDDIの高橋常務は,「位置情報に関しても『EZナビウォーク』のような形で当社が活用シーンを提案していかなければ,なかなか進まないような状況だった」と事業者がサービスを先導してきたことを説明する。

組み込みで収益共有モデルも

 市場は飽和しつつあるとはいえ,2台目需要で契約数を増やす余地もまだ残っている。ユーザーの趣味・嗜好に合わせた多種多様なラインアップを展開し,2台目需要を積極的に狙っているのがソフトバンクモバイルだ。今後はラインアップのさらなる拡充を計画する。吉田常務は「我々が仕様を決める現在のスタイルには限界がある。メーカーの方がはるかに独自性を持っている」と説明。メーカーに仕様を任せるところまで踏み込む考えを明かす。

 イー・モバイルはデータ通信を中心としたアプローチで2007年に携帯電話事業に参入した。「データ通信の端末を2台目として持ってもらうことを考えている。データ通信の端末に通話機能があり,かつ安ければ便利。DVDプレーヤが一つの家庭に複数台あるように,プラスはあってもマイナスはない」(イー・モバイルの阿部基成執行役員副社長)という考えである。

 今後はデータ通信機能を搭載したデバイスが増えていく。「音楽プレーヤやゲーム端末,電子辞書,カーナビゲーション・システムが“主”で,通信が“従” というケースも出てくる。トヨタ自動車の『G-BOOK』をはじめ,アップルのiPhoneやソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの『ウォークマン携帯』もこれに近い」(KDDIの高橋常務)。米アマゾンが2007年11月に発売した無線通信機能付き携帯型書籍リーダー「Amazon Kindle」もある。

イー・モバイル 阿部 基成 執行役員副社長「収益を共有できれば低ARPUでも十分成り立つ」
イー・モバイル 阿部 基成 執行役員副社長「収益を共有できれば低ARPUでも十分成り立つ」
写真:辻 牧子

 もっとも,こうした組み込み分野はそもそもARPUが低い傾向にある。しかし,イー・モバイルの阿部副社長は「例えば(音楽プレーヤやゲーム端末などの)提供者と事業者の間で分業できれば,ビジネスとして十分成り立つ。顧客から徴収する通信料単体のARPUが低くても,分業した相手から支払われる金額を合わせて月額4000~5000円の収入を維持できれば構わない」と話す。

 実はアマゾンのKindleは「ユーザーから通信料金を徴収しておらず,販売した書籍に対する収入の一部を事業者に払う収益共有モデルを採用している」(業界関係者)という。メーカーやコンテンツ・プロバイダとwin-winの関係を築くことができれば,収益共有モデルでビジネスを拡大するチャンスはありそうだ。