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村上氏写真

村上 智彦(むらかみ・ともひこ)

1961年、北海道歌登村(現・枝幸町)生まれ。金沢医科大学卒業後、自治医大に入局。2000年、旧・瀬棚町(北海道)の町立診療所の所長に就任。夕張市立総合病院の閉鎖に伴い、07年4月、医療法人財団「夕張希望の杜」を設立し理事長に就任同時に、財団が運営する夕張医療センターのセンター長に就任。専門分野は地域医療、予防医学、地域包括ケア、チーム医療。

* このコラムは、無料メールマガジン「夕張市立総合病院を引き継いだ『夕張希望の杜』の毎日」の連載コラム「村上智彦が書く、今日の夕張希望の杜」を1カ月分まとめて転載したものです(それぞれの日付はメールマガジンの配信日です)。メールマガジンでは病院のスタッフ、関係者などの寄稿も毎号掲載しており、地域医療の現場最前線の取り組みが伝わってきます。


■6月6日 医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟

5月29日木曜日に永田町の参議院議員会館にて「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の第5回会合が開かれました。

この集まりは自民党、民主党、公明党の国会議員による超党派の連盟で、趣旨は

厚生労働省などを通すと、医療の現場の声が正しく伝わらない。これが医療問題を解決できない原因の一つであり、現場の声を反映した施策の立案・実行が最大の狙い

との事だそうです。

現場の私にとってはとても嬉しい動きであり、医療崩壊が進む北海道にとっても大切なものになると思います。

この会に私と城西大学経営学部准教授である伊関友伸先生が呼ばれて話をさせていただきました。

平日でしたので、午前中の診療を終えてから新千歳空港まで走り、飛行機と電車を乗り継いで少し遅れて到着しました。

最初に伊関先生が、夕張希望の杜の現状と問題点について専門家の立場から話をして、私は主として地域の現場の声として、医療の現状や問題点、解決策等について話をさせていただきました。

短い時間でしたので伝えたい事を全て話せたわけではありませんが、私個人や夕張だけの問題ではないので、疲弊する医療現場の声として精一杯メッセージを送ってきたつもりです。

たくさんのマスコミと、良くテレビで見るような国会議員さんと話をするのは緊張しましたが、さすがに長年の想いがありますので必死でした。

講演が終わってから、地元夕張の衆議院議員である飯島夕雁さんの事務所にお邪魔しました。

実はこの方は東京都で高齢者の福祉に関わり、その後病院で医療ソーシャルワーカー、ヘルパー1級、社会福祉主事、ケアマネージャ等の資格を取り、その後教育の現場で心理検査士、教育カウンセラー等をやっていたという変わった経歴の方で、医療現場をよく理解している方です。

伊関先生や事務部長と共に、今後の高齢化社会における保健・医療・福祉・教育の在り方について熱く語り、その後天王洲アイルのホテルに泊まり、翌朝5時起きで6時の飛行機で北海道へ帰り、午前中の外来に向かいました。

短い時間でかなりハードなスケジュールでしたが、中身が濃く、充実した時間を過ごす事ができました。

時々外へ出て、他の分野の方から刺激をもらう大切さを改めて感じています。

外見よりもすっかり年をとった私にはかなり厳しくて、腰の痛い毎日を過ごしております。


■6月13日 モンスター

モンスターペイシェント、モンスターペアレンツ、モンスターハズバンド等最近モンスターと呼ばれる人たちが増えてきているようです。

権利意識が強く、社会的常識がなく、自己中心的で不安を訴えてその矛先を病院や学校の先生、警察官や役場の職員等に向ける人たちの事だと思います。

マスコミの報道やインターネットで見ていると信じられない話がたくさん出て来ています。

  • 医療には不確実性があり治療をしても100%治るわけではありませんが、結果が思わしくないとどんなに丁寧に事前に説明しても「聞いていない」と訴訟をする人
  • 病院が混んでいるからと外来から救急車を呼ぶ人
  • トイレットペーパーが切れたとかゴキブリが出たからと警察を呼ぶ人
  • 子供が学校で怪我をしたことに対して「怪我をさせたら責任を取って辞めます」と先生に誓約書を書かせようとする親
  • 「子供のおむつ替えは保育所でやれ。そのために会社に遅刻したら損害賠償する」という親
  • 高級車は買えても給食費を払わない親

等、程度の差はありますが、いずれも今までの日本人には考えられないような話です。

夕張で医療を始めた時にも色々な事がありました。

「自分は難病なのだから薬だけ受診を認めろ」「患者の欲しい薬を出すのが病院の仕事だ」「24時間好きな時に専門医にかかれるのが患者の権利だ」等、働いている現場の職員が疲弊してやる気がなくなるような行動や発言をする人がたくさんいました。

救急車の使用も明らかに緊急性はないのに「タクシーではお金がかかるから」「救急車を呼べば待ち時間もなく入院出来るから」等と公言して使う人が沢山いました。

しかし大声を出す人に限って病気の自己管理が悪く、検診も受けないし医療費を踏み倒す人が多いという印象があります。

病院や学校、役場などはこの手の発言に意外に弱く、真剣に対応しようとしますが、その時間やエネルギーをかける事で常識的に振舞っている人たちに迷惑がかかります。

言い換えれば頑張っている人たちが報われないで、自己中心的な人たちが得をする世の中になってしまうように思えます。

夕張ではこの手の権利意識の高い人たちに対して毅然と対応してきました(他の町と違い破綻していた事で、対応するだけの人的、経済的な余裕もなかったのですが)。

「必要のない薬は出しませんし、皆さんの税金で守られているので大切に使って下さい」「救急車をタクシー代わりに使うのは無駄遣いです」「決まりを守らないから破綻したので守りましょう」「他の人の迷惑を考えましょう」「医療機関が無くて困るなら自分の町の医療機関を使いましょう」等、明らかに営業的には好ましくなく感じますが、施設の運営ができなくなれば地域の医療機関は維持できないですし、どんなに求めても医療資源は有限です。

1年間このような対応をしてきましたが、患者さんが減るわけではなく、むしろ普通の真面目に医療機関を使っている人たちが通いやすくなるようで、患者さんは増えています。

救急車の出動も時間外受診も激減しましたが、重症者や死亡者はむしろ減っています。

医療は目的ではなく生活のための手段ですし、医療機関は病気を治す場所であって不安や不満を解消する場所ではありません。

不安や不満を解消する一番の方法は自分自身が知識や常識を持つことで、情報を得る場所は必ずしも医療機関だけではないと思います。

日本のように他の国と比べて少ない医療スタッフで支えている場合には、本来の業務以外の仕事を増やすと壊れてしまいますし、特に人員の確保が難しい地域の場合はさらにその可能性は大きくなります。

公共サービスや医療機関を住民が自ら壊しておいて、その責任を国や行政に押し付けても二度と再生はできません。

医療機関に限らず自治体の公共サービスは有限ですので、住み慣れた地域に住むためには義務として住民が他の人の事を考え、大切に使う事が求められていると思います。

そんな住民であれば、行政や国の不作為に対して説得力を持って交渉できると思います。

夕張でさえこの1年で随分変われたのですから、他の町でも可能だと思います。

制度の不備や国の責任を問う事も大切ですが、地域を守るためにまず自分の出来ることから始めたいと思います。


■6月20日 第31回日本プライマリケア学会学術会議

6月13日から15日にかけて、岡山で日本プライマリケア学会が開かれました。

この学会は医師ばかりではなく、薬剤師、保健師、看護師、理学療法士や行政の関係者等地域医療に関わる幅広い分野の方が出席するのが特徴です。

夕張医療センターからは、医師の永森先生と歯科医師の八田先生が発表しました。

永森先生は北海道外から来た医師として破綻した夕張の医療再生全体についてまとめて発表し、八田先生は医療と密接に連携した口腔ケアの実践を報告しました。

いずれも多くの方が興味を持って聞いて下さいました。

自分たちの発表とは別に、他の地域の方の先進的な取り組みや、興味深い話をたくさん聞くことができました。

今回の学会では看取りや口腔ケア、地域包括ケア等の取り組みについての話が多かったように思います。

学会で一番大切なのは自分たちの取り組みを第三者に客観的に評価してもらう事です。

今後も各種の学会に医師ばかりではなく事務局の方も含めた職員の皆さんに発表していただく予定でいます。

内部の事も大切ですが、それ以上に自分たちの取り組みを客観的に見つめて自己満足になったり、マンネリ化しないようにすることの方が大切だと思っています。

こちらへ来てから随分講演等で出張していますが、さすがに北海道から岡山は遠く感じました。初めて神戸空港へ行き、新神戸から新幹線で岡山に入りました。

地域で仕事をしていると、たまに出かける都会の有難味や便利さがよく分かり他の地域を楽しむことができます。毎回職員にお土産を買って帰るのも楽しみの一つになります。

岡山の名物はきび団子や桃やブドウと思っていましたが、今回は「ままかり」という魚の干物を見つけました。

イメージとしてはさんまの味醂干しに似ていますが、鰊の仲間の魚です。「ままかり」という名前の由来は「まんま(ごはん)を借りてくるくらい美味しい」という意味なのだそうですが、本当に借りたくなるくらい美味しくいただきました。

今回の学会で得られたアイディアをここの取り組みに少しでも具体化して生かせるように、また知恵を絞りたいと思います。


■6月27日 薬学部の学生が夕張医療センターで研修

夕張医療センターでは先週から薬学部の3年生の研修が始まりました。

夕張医療センターと提携している北海道薬科大学から7名ずつ、夕張に1週間交代で来ていただき、地域医療の現場でこれからの薬剤師の役割について考えてもらう機会にしようと思っています。

おそらくこのような試みは日本初で、従来の病院研修のように調剤をやるだけではなく、医療人として現場を知り、地域の健康づくりに関わってもらうつもりでいます。

もちろん研究でも協力して結果を出して、医療経済的な評価をしていこうかと思います。

意外に知られていない事ですが、薬学部は医学部と同じ6年制となり、今の3年生から適用されることになりました。

6年制になって4年生の時と薬剤師がどのように変わり、何ができるのかというのは実はあまりはっきりとはしていません。

6年間大学へ行き、4年生の時と仕事も役割も同じであっては意味がありません。

そんな課題にも取り組んでいこうと思っています。

夕張市にとっても、年間数十名の学生さんが来て、夕張で過ごしてくれる事で刺激になり、活性化にもつながるのではないかと思います。

研修内容も医師の外来診察の段階から患者さんに同行して、帰るまで付き合ってもらい、患者さんの気持ちや行動を知ってもらう研修や老人保健施設や特別養護老人ホームで介護を学んだり、救急隊から救命救急訓練を学んだりと、かなり豊富でスケジュールは大変です。

その合間に夕張の恵まれた自然環境や歴史に触れて、健康作りや北海道について考えてもらうようにしています。

私も薬剤師でもあったので感じていた事ですが、今までの薬剤師は医療人としては中途半端で、商売人としてもいま一つといった印象がありました。

これに対してアメリカでは最も尊敬される職業が薬剤師です。

薬剤師は病気を探す教育ではなく、公衆衛生や食品衛生、環境衛生、薬理学、栄養学といった人の健康にかかわる教育を受けています。ですから、薬だけではなく環境や食物といった視点で地域住民の健康に関与したり、医療機関での活動をまとめてエビデンスを作ったりといった役割を担えたら良いと思っています。

職員も若い学生さんが研修に来ている事で随分刺激になっている様子です。指導する事で多くの事が学べるのではないかと思います。

また、丁度夕張メロンのシーズンで来ている学生さんも楽しんでいってもらいたいと思っています。

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財政破綻した夕張市と共に破綻した夕張市民病院。その経営を引き継いだ「医療法人 夕張希望の杜(もり)」を広告収入で支援するメールマガジン。購読は無料。運営コストを除いた広告掲載料が「夕張希望の杜」に寄付される。発行者は木下敏之氏(前・佐賀市長/木下経営研究所所長)。村上智彦医師のコラムのほか、病院のスタッフ、関係者などの寄稿を掲載している。