PR

 “arrogant”という英単語がある。手元にあるOxford Advanced Learner's Dictionaryには,“behaving in a proud, superior manner; showing too much pride in oneself and too little consideration for others”とある。要するに,「他人への配慮がなく,プライドをむき出しに偉そうに振る舞う」ような人や組織に対する形容詞である。日本語に訳すと「傲慢な」や「横柄な」という言葉がしっくりくるだろう。

 もう10年以上昔の話だが,ある米国企業を訪ねたとき,その本社敷地内に併設された「当社の製品・歴史を紹介するミュージアム」の入り口近くに,“don't be arrogant(傲慢になることなかれ)”と書かれていたのを見たことがある。当時,その企業はIT業界で“最もarrogant”という評判を得ていた。作家の山口瞳氏のコラムに「地方都市の駅前などに『暴力追放宣言の街』という看板があると緊張を覚える(なぜなら,そう宣言している街の歓楽街には暴力団がいると想像できるからだ)」という意味の一文がある。そういうコラムを読んだばかりだったせいもあって,“don't be arrogant”を社員および自分自身への戒めとして掲げる経営トップの心中を想像して,「いろいろ言われているけど,それなりには気にしているんだな」という感想を持った記憶がある。

 さて2008年7月現在,IT業界で“最もarrogant”という評判を得ている企業はどこだろうか。古くからの常連企業を押しのけて,ここ数年で上位にランクインした企業の一つに,米Googleを挙げる人も多いのではないだろうか。試しに“Google”,“arrogant”という2つのキーワードを使ってGoogleで検索すると,2008年7月23日現在,300万件以上の検索結果がヒットする。ちなみに“Microsoft”,“arrogant”の検索結果が118万件だから,その3倍近い件数がヒットしたことになる。

 もちろん,それらの検索結果すべてがGoogleをarrogantだと非難しているわけではない。それでも,いくつか拾い読みしていくと,GoogleのCEO(最高経営責任者)であるEric Schmidt氏が,同社がarrogantと見られていることに反論する記事なども見受けられる。Googleが本当にarrogantかどうかはともかくとして,急成長企業につきまとうやっかみも含めて,競争相手やパートナーから陰口をたたかれるケースは増えているようだ。ITpro Watcherの「東葛人的視点」にもあったが,最近のGoogleが「謙虚さの演出」に心を砕いているのは,そうした声を気にしているからだろう。

交渉では論理面以上に心理面の考慮が重要になる

 ITproでは2008年7月末,ITpro Watcherの「ひとつ上のヒューマンマネジメント」をベースに大幅に加筆・修正した「ITエンジニアのための仕事を速くする9の基礎力と7のエクササイズ」という書籍を発行する。ITエンジニアが実際に直面する様々な局面(稼働直前のシステムの仕様変更をどうやって断るかetc)を例にしながら,自分の意見を理解してもらう,交渉相手を説得する,といった目的別の基礎力や具体的なエクササイズを取り上げている。

 著者の芦屋広太氏が書籍の中で強調していることの一つに,「提案を通すためには,論理面だけでなく交渉相手の心理面を考えることも必要だ」がある。いくら正しい提案でも,交渉相手に「俺はあいつがキライだ。だからあいつの言うことは聞きたくない」と思われたら,うまくいかない。そこで,交渉相手に「こいつは味方だ」,「こいつの言うことを聞けば得をする」と思わせるためのテクニックについても取り上げている(書籍の内容にご興味のある方は,記事下のリンク先でご確認ください)。処世術と言えばそれまでだが,こうしたことをおろそかにしているために,いらぬ苦労をしている人はITpro読者の中にも案外多いのではないだろうか。

 企業レベルでも,多くのパートナーを巻き込んで成立するビジネスモデルを持つ企業にとって,arrogantといった悪いイメージを持たれることは,長期的に見ると死活問題にかかわる。そこで,対個人の交渉と同じように「この企業が発展すると我々にもメリットがもたらされる」というイメージを広めることが重要になってくる。Google本社に“don't be arrogant”という社訓が掲げてあるかどうかは知らないが,少なくとも先行企業を反面教師にしながら,「謙虚さの演出」に心を砕いている様子は見て取れる気がする。

ITエンジニアのための仕事を速くする9の基礎力と7のエクササイズ(ITproBOOKS)