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 「夢多゛採(むだど)り推進部」。キユーピーは今年7月、ユニークな名称の組織を作った。全国に約80カ所あるマヨネーズ工場やドレッシング工場をわたり歩きながら、現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を撲滅するためのシステムを企画・開発する専任部隊だ。

 同社には、以前からシステム部門や生産技術部門があるが、「システムが業務の至るところで活用されるようになると、既存の組織だけでは対応できなくなってきた。システムの活用度を高めるには、現場に足を運び、現場と共に素早く対策を打てる支援組織が不可欠だ」(神路祇司部長)。

 生産計画などの業務経験者20人が在籍する夢多゛採り推進部には、年間で1000件を超える業務改善の相談が寄せられる(図1)。例えば、食品材料を計量する作業を1秒短縮するために操作画面のボタン・サイズを大きくすることから、工場内で商品や材料の取り違えをなくすためにバーコード・スキャナと連動する生産支援システムを1年がかりで構築することまで、担当する案件の規模はさまざまだ(写真1)。

写真1●キユーピーの工場で使われるシステムの多くは、現場の生産担当者の発案で作られている(写真は大阪府の泉佐野工場)
写真1●キユーピーの工場で使われるシステムの多くは、現場の生産担当者の発案で作られている(写真は大阪府の泉佐野工場)
図1●キユーピーは現場主導のシステム活用を支援する専任部門「夢多゛採り推進部」を2007年7月に設置
図1●キユーピーは現場主導のシステム活用を支援する専任部門「夢多゛採り推進部」を2007年7月に設置

ホワイトボードで対話する

 改善活動の源泉は、工場のあちこちに設置してあるホワイトボード「夢多゛採りボード」である。工場の作業員は、「○○作業画面の数字が見にくい」「○○作業と××作業を一緒に実施したほうが時間を短縮できる」など、とにかく改善したい作業を書き込む。

 各工場の改善担当者が週に1回程度チェックし、「ありがとうございます。すぐに対応します」「夢多゛採り推進部に応援を頼みました。ちょっと待ってください」などと返事を書き込みつつ、支援策を夢多゛採り推進部と検討。最長でも数週間以内に何らかの対策を打つ。「システム分野の言葉に置き換えずに伝えられるため、現場の抵抗感はない。必ず返事があるため、“言っても無駄”という雰囲気も生まれない」(栗原健志 泉佐野工場長)。

 基幹系システムの変更など専門知識が必要になる場合は、夢多゛採り推進部が現場とシステム部門との橋渡し役となる。「システム部門が現場に入り込むことは、人員的にも時間的にも難しい」(神路祇部長)からだ。

工場のIT活用を支援する夢多採り推進部の神路祇部長(右から2番目)。同部門経験者の高橋純也氏(右)は工場の生産技術課に異動し、現場サイドからIT活用を推進している
工場のIT活用を支援する夢多採り推進部の神路祇部長(右から2番目)。同部門経験者の高橋純也氏(右)は工場の生産技術課に異動し、現場サイドからIT活用を推進している

 現場中心のシステム企画・導入の場合、やはり工場ごとの部分最適なシステムに陥りがちだ。これに対し神路祇部長は、「ある工場で生まれ育ったシステムを全社に水平展開する際に、全体最適な形にデザインし直すのが現実的」と語る。それよりも、「とにかくアイデアを集めること。そして、即座に対応することが肝心だ」(同)。

 リロケーション・ジャパンやキユーピーのように、現場主導でシステムを企画・導入できる体制を築いたり、現場支援の専門組織を作ったりする企業が相次いでいる。狙いは、システムを活用して企業競争力を高めるために、現場に眠っている“知恵”を掘り起こすことだ(図2)。1990年代に注目を浴びた EUC/EUD(エンドユーザー・コンピューティング/ディベロップメント)に似ている。

図2●システム部門だけでは現場の知恵をITで生かすことができなくなっている
図2●システム部門だけでは現場の知恵をITで生かすことができなくなっている
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 当時はシステムが部分最適になったり、社内のITガバナンスを保てないといった理由から、次第にEUC/EUDは敬遠されていった。さらに最近では、内部統制強化の波により、システム企画・導入におけるシステム部門への中央集権化が進んでいる。

 しかし、本当にそれでよいのだろうか――。ユーザー部門のITリテラシは高まっているし、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のような新しいサービス形態も登場してきている。システム部門に求められる役割も、以前のようにシステムの開発・運用だけにとどまらなくなっているため、現場まで手が回らない。だからこそ、「現場発」のシステム企画・導入に、改めて注目が集まり始めた。

 次回からは12社の事例を「現場主導型」「現場支援型」の2つのパターンに分け、現場の知恵を掘り起こすための推進体制や勘所を紹介する。