![]() |
うつ病で3カ月会社を休みましたが,主治医から復職可能と言われたので,1月に職場復帰しました。産業医や上司とも話し合って仕事量を減らしてもらっていますが,周囲の目が気になって仕事が手につきません。同僚や上司から「無能」と思われている気もします。 (28歳,男,SE) |
うつ病の回復は,なかなか思うようにいかないことが少なくありません。職場復帰しても,元気に働いていた頃の50~70%くらいの能率にしかなりません。
人によっては,従来と同じ仕事や作業は無理,という場合もあります。しかし,一進一退はあるものの焦らずじっくり取り組めば,必ず治る病気です。
職場復帰後,すぐ以前のように働けないのは,完治していないことが多く,薬も服用し続けることが一般的だからです。薬を服用していると,薬の種類によっては思考力や判断力が鈍くなり,動作も緩慢になることが多々あります。逆に,職場復帰すると極端に躁状態になって再び適応困難になる人もいます。
質問者は,周囲の目が気になって仕事が手につかない,ということですが,うつ病に限らず精神障害の場合は,職場復帰後にこのような訴えをする人が多いものです。
原因は,頭の回転が落ち,考えや気持ちを素直に表現できないために感情をうっ積させてしまっていることです。性格的に外向的な人は攻撃的になったり,居直ったりして考えや気持ちを表現できるのですが,内向的な人はそれができず,マイナスのイメージを持ってしまいます。「自分は迷惑をかけている人間だ」,「こんな働き方じゃどうしようもない」,「本当は必要のない人間なんじゃないか」,「弱い人間だ」などと思い巡らし,「自己価値観」が低くなってしまうのです。
その結果,周りの同僚や上司も自分のことを「無能な人間」,「迷惑をかけている人間」,「必要のない人間」と考えている,と思ってしまいます。これを心理学用語で「投影」と呼びます。投影は自己嫌悪や自己否定が強いほど,またコミュニケーションが少なければ少ないほど,起こりやすくなります。
休憩時間や昼休みなど「インフォーマルな時間」が苦手だ,という声も,うつ病から職場復帰した人たちのカウンセリングをしていてよく耳にします。仕事に夢中になるなど行うべきことがある時はいいのですが,インフォーマルな時間に「何をしていいのか分からなくなり,居場所を失ってしまう」というのです。
職場によっては,同僚もその人の周りからさっと姿を消してしまったり,“はれものに触る”ような感覚で接することがあります。そうすると,ますます本人は「自分は必要とされていない」というマイナスのイメージを持ってしまいます。本当はそういう時に「○○さん,食事でも行かない」などと同僚が声をかけると,その人も「居場所がある」と感じることができるものです。
つまるところ,否定的な投影を避けるには,周囲の同僚や上司と「コミュニケーションをしてみる」しかないのです。筆者の経験でも,周囲の人たちに挨拶ができたり,自分の状況をきちんと説明できたりする人の方が,スムーズに職場復帰を果たしています。その意味では,周囲にいる同僚や上司の理解と協力も重要と言えます。
東京メンタルヘルスアカデミー所長