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秋山 進
プリンシプル・コンサルティング合同会社代表社員

 これまで見てきたように、日本企業はこれまでにない新しい環境の中、コンプライアンスや内部統制の体制をきちんと構築し、浸透させていかなくてはなりません。そこには、大きく分けて2つのアプローチがあります。

ハード志向な「管理部長のコンプライアンス」

 その1つは、巷間いわれるコンプライアンス体制で、業務に関わるルールを明確にし、そのルールを守ることができるようなプロセスを埋め込んでいくことです。このハード志向な方法を「管理部長のコンプライアンス」と呼んでいます。

 一方、組織そのものの存在意義や価値判断基軸を明確にし、従業員全員で共有していくソフトな分野のコンプライアンスがあります。私は、先ほどの管理部長のコンプライアンスの重要性を強く認識した上で、それよりも基本的なものと位置づけ、こちらを「社長のコンプライアンス」と呼んでいます。

 法令に基づいた社内ルールを作成するとともに、プレッシャーが少々強くなっても安易に問題行動をさせないようなプロセスやチェックの仕組みを作ること。これらは、不祥事を起こさせないためにも、組織を円滑に運営させていく上でもたいへん役に立つものです。

 昨今のJ-SOX対応もまた、このコンプライアンス・プログラムです。会計に関係する企業のフローを明確にし、そこに潜むリスクを明らかにした上で、1つひとつの統制を確認するという行為を行うことで、多くの問題点を発見することが可能になったわけです。

 これによって決算の数字が確かなものになり、事故やミスが大幅に少なくなることが期待されています。特に最近上場したばかりの企業にとっては、たいへんよい棚卸作業になったことでしょう。きちんとやっておけば、使い込みの類やオペレーションのミスからお客様の不満を増幅させた事故などを押さえこむことができます。

 管理部長のコンプライアンスは、特に定型的、安定的な業務にはフィットします。プロセスのどこに問題を発生させる余地があるかを事前に知っておければ、対策も立てやすいわけです。

創造を阻害する危険性に注意

 しかし、このアプローチには不得意な領域もあります。

 過去問題を起こしたある放送局が、番組に関する発注の適正化のためにルールを明確にした入札制度を導入するようです。これは、内部統制でいうところの「正しいルールとプロセス」の導入です。
ただ、この新制度はいったん発注価格が下がったという評価を受けた後、最終的には、制作現場の質の低下を招き、残念な結果を生むことになるでしょう。番組制作は、建築物のように仕様が明確になり、その仕様を満たすものを安く作るという話ではありません。お互いに企画案を出し、現場でもキャッチボールをしながら、よりよいものを創り出す協働のプロセスです。

 知恵の出る人は出るし、出ない人は出ないわけで、それを公共工事や建設業のようなプロセスを入れてコントロールしようというのは、ソフト制作にはなじまないやり方です。やがて修正が加えられることになるでしょう。

 また、新規事業を起こすという業務と、管理部長のコンプライアンスの相性もたいへん悪いものです。新しいものへのチャレンジとは往々にして、これまでの常識を疑うことから、新しい価値の創造を行うものです。日々試行錯誤をし、失敗が連続するのが新規事業の開発プロセスです。これをミスがないことを前提にするできあがった既存事業のオペレーションと同じ方法で管理すれば、不要な報告などの面倒くさい業務が増えるだけになって、現場のモチベーションを大きく下げます。

 とはいえ、企業の中で定常業務の割合はかなり高いものですから、管理部長のコンプライアンスは、事故を防ぎミスを減らします。きちんと運営すれば標準化により収益性もアップさせることができるたいへん有効なものです。