PR

 メンバーのモチベーションが高いか低いか。それは,プロジェクト全体のパフォーマンスに大きく影響する。複数の人間がチームを組んでプロジェクトを遂行する場合,一人ひとりの単純加算よりも大きなパフォーマンスを生み出すこともある。逆に,非生産的なコンフリクトがあると,単純加算よりもパフォーマンスを落とす。プロジェクト・マネージャ(PM)次第で「1+1+1」が「3」になるとは限らず,「4」や「5」,場合によっては「2」にもなる。

 メンバーの多くは,プロジェクトを通して技術力や業務知識,マネジメント力といった何らかのスキルを向上したいと考えている。そのようなメンバーが向上させたいと考えているスキルをPMがつかんで,仕事に結びつけられるかどうかが,メンバーのモチベーションを大きく左右する。メンバーのモチベーションやプロジェクトのパフォーマンスを向上させることは,PMの責任だと考える人は少ない。なぜなら「プロジェクトのメンバーは会社や組織から与えられたもので,自分に責任はない」と考えてしまうからだ。プロジェクトの成功率を上げるためにやらなくてはいけないことは,すべてPMの責任である。PMはプロジェクトを通して,メンバーの育成を行う必要がある。よって,プロジェクト完了時にはメンバーを評価し,メンバーへのフィードバックを怠ってはいけない。

プロジェクト開始時にコミットする

 PMは,プロジェクト開始時にメンバーの人財育成計画を策定する。策定に当たっては,メンバーが本プロジェクトを通して,どのようなスキルを向上させたいと望んでいるのかを聞き取っておく。また,PMがメンバーに対して,何を期待しているのかを伝える。そして話し合いの中で,モチベーションの向上が図れる育成計画を策定する。

 ただし,メンバーのすべてが同じようにスキルを向上させたいと思っているわけではない。モチベーションの上げ方は,個人ごとに異なることには留意しておきたい。重要なのは,個々に合った育成計画を策定し,プロジェクトを通し,どのようなスキルや技術を身に着けるのかをコミットして,個人の目的や目標を明確にすることである。

権限委譲が育成に役立つ

 筆者の経験では,PM候補やリーダーを育成する場合,権限委譲が効果的である。判断や意思決定を自分自身で行う場面に多く遭遇し,考えることになるからだ。育成したければ,徹底的に意思決定や判断をさせることが効果的である。

 しかし,権限は委譲できても責任は委譲できないということは注意したい。責任まで委譲してしまえば,そのPMは既に不要ということだ。PM候補やリーダーに権限を渡した結果,判断を誤り,トラブルを起こす可能性がある。その責任を負う覚悟がPMに無いのであれば,権限を委譲してはいけない。

 もちろん権限を委譲されたPM候補やリーダーも責任を負うのだが,それは権限委譲を行なった社内のプロジェクト内の限定的な範囲である。プロジェクトの外部に対して責任を負うのはあくまでもPMであることを忘れてはいけない。

 また,何も見ていなかったり,失敗した場合に指導しなかったりするのも駄目だ。これは,PMが管理を放棄しているのと同じである。PMとして押さえておくべきことは押さえておく必要がある。意思決定や判断が正しいかなどチェックは必要である。PMはこれらをどのように効率よくチェックするか(例えば,縦横のクロスチェックなど)を常に考え,適切な指導を行い,メンバーを育成することが重要である。

日々のフィードバックも重要

 顧客への説明資料など報告資料の承認をリーダーが求めてきたときに,資料の細部の不具合はともかく構成全体が思わしくないとき,PMはどのような対応をしているか。「昔は,苦心して手書きで作成した資料に,赤鉛筆で大きくバツを描かれ黙って突っ返された。仕方なく自分で考え直し,書き直し,再度見てもらう。このようなプロセスを数回経て,ようやく承認された」という話を諸先輩からよく聞かされた。

 このような対応は,リーダーが必死で考えざるを得ないので,理解力も深まるし,精神力の訓練にもなり,育成に効果があることはよく理解できる。しかし,現在のようにスピ-ドを要求される時代は,時間をかけない指導方法をとらざるを得ない。そのためには単に部下の作成した資料を批判するだけでなく,改良のための具体的なヒントやアイデアを与えることが必要である。

 顧客への提出資料やプレゼンテ-ション資料の作成などは,創造性も要求される。計算問題のように単一の解があるわけではなく,いろいろな解が考えられる。単に承認/不承認の判定だけでは指導にならない。「この資料はこう直したら?」「こう変えると分かりやすい」という指導が必要になる。批判するだけでなく,代案を与え,知恵や思想を伝達し育成することが重要なのである。

育成を通してPMもスキルアップを

図●プロジェクト・マネージャ認定制度の概要
[画像のクリックで拡大表示]

 プロジェクトが成功するか失敗するかは,PMの腕にかかっているといっても過言ではない。しかし,マネジメント・スキルやリーダーシップなどをすべて兼ね備えた優秀なPMばかりではない。PM自身も,プロジェクトを通してスキルアップをしていく必要がある。そのためには,プロジェクト完了後に自分のマネジメントを振り返り,弱い部分のマネジメント・スキルを向上させていかなければならない。

 筆者の会社では,組織的にPMの育成に取組んでいる()。PMを三つのランクに分け,認定要素を満たしていくことで,スキルアップしていく仕組みである。認定要素には,社内の教育・研修や公的資格と言った知識に加え,プロジェクトの実績評価とPMの行動特性(8項目のコンピテンシー評価)で最終的に認定される。最上位のPMについては,幹部面接で総合的に評価され認定となる。


千種 実(ちくさ みのる)
日立システムアンドサービス
プロジェクト推進部 部長
1985年,日立中部ソフトウェア(現 日立システムアンドサービス)に入社。入社以来,一貫してプロジェクト管理に従事。PMOの立場でトラブル・プロジェクト支援を数多く経験した後,社内のプロジェクト管理制度の構築やプロジェクト管理システム(PMS)開発およびプロジェクト支援,プロジェクト・マネージャ教育講師に携わる。また,他社のプロジェクト管理に関するコンサルティングや研修講師,講演などを経験し,現在もPMOの立場からITプロジェクトを成功へ導くために幅広く,社内外で活動中。1962年,三重県出身。岡山理科大学理学部応用物理学科卒。