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村上氏写真

村上 智彦(むらかみ・ともひこ)

1961年、北海道歌登村(現・枝幸町)生まれ。金沢医科大学卒業後、自治医大に入局。2000年、旧・瀬棚町(北海道)の町立診療所の所長に就任。夕張市立総合病院の閉鎖に伴い、07年4月、医療法人財団「夕張希望の杜」を設立し理事長に就任同時に、財団が運営する夕張医療センターのセンター長に就任。専門分野は地域医療、予防医学、地域包括ケア、チーム医療。近著書に『村上スキーム』。

■7月4日

先日60代の女性が「血圧が心配」という主訴で来院しました。

特に症状もなく生活に支障がないので、検診は一度も受けたこともなく、通院しているような持病もない方です。

一通りの内科の検診をしてみて、血圧はそれほどでもなかったのですが、血糖値が300を超えていて、1~2か月の血糖の平均値を示している HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は11でした。(正常値は4-6位で、糖尿病でも5.8以下なら良好とされていますが、7を超えると合併症が進行すると言われています)

すぐに入院していただき食事療法と栄養指導、運動療法を開始し、最初はインスリンを使って血糖を下げました。

本人も最初はかなりショックを受けていましたが、入院後は食事の勉強をして毎日院内を汗をかきながら歩いていました。

今ではすっかり体重も減り、見違えるように元気になり、インスリンもほとんど不要なくらいになっています。現時点では合併症も無く、もうすぐ飲み薬だけで退院の予定です。

夕張へ来てからこのように初診で糖尿病を指摘されて入院した方は5人目になります。病院に来て下さったことをとても感謝しています。

「症状が無いから」  「病院が嫌いだから」  「面倒だから」等、理由は様々でしたが、「具合が悪くなったら病院へ行けばいい」というのが今までの夕張の発想でした。多くの場合それでは手遅れです。

最近太ってきた、身内に糖尿病の人がいる、やたらにのどが渇き尿が増えている等、兆候は様々ですが、診断には高度な医療も大きな病院も必要なく、ほとんどの場合検診や医療機関で尿検査をすれば数分で分かることです。

このような方を見ていると案外検診というのも大切だということが分かります。

放置していて透析になれば年間数百万の医療費がかかり、ご本人にとってもとても不幸なことです。

「知らなかった」ではなくて「知ろうとすること」が大切だと、この方を見ていて感じています。


■7月11日

先日夕張市役所から呼び出しがあり、医師3名、歯科医師、事務部長の5名で出かけてきました。

今回の議会で議決された2700万円の財政支援の授与式だったのですが、その後が大変でした。

市からは書類が渡され、その文章には以下のような要望が書かれていました。 

  1. 救急患者の受け入れ拡大
  2. 開業医との連携強化
  3. 更なる暖房光熱費の節約の努力

要するに「金を出してやるのだから、破綻した今までの夕張のやり方に戻りなさい」という頭の中を覗いてみたくなるような内容です。

「1.救急患者の受け入れ拡大」については、他の地域より明らかに多かった“救急車のタクシー代わりの利用”が減ってきています(人口1万人あたりの救急車の出動件数は全国平均で月350件で夕張市は900件近くあったのが500件くらいに減りました)。重症者や死亡者も減っています。

「2.開業医との連携強化」については、今までの夕張では薬だけ受診を繰り返し悪くなったら救急車を呼び、医療機関が5軒あるのに診療情報もなく医師2名しかいない夕張市立総病院を時間外に受診するのが普通でした。

そこで、このような方を少しでも減らすために、薬だけ受診を止めて、受診時に診療情報を持ってかかれるように「かかりつけ医」を持つことをお願いして来ました。

「3.更なる暖房光熱費の節約の努力」についても苦しい中、以前は年間7000万円だったのを5000万円まで節減していますが、医療機関で冬に暖房を切るわけにはいきません。

夕張医療センターは公設民営化の医療機関ですから、努力すべきは大家であり、財政再建団体を言い訳に何もしない行政の方たちではないでしょうか?

「質問はないですか?」と言われたので、

「夕張医療センターが公設民営化して残ったお陰で、病床削減の経過措置として年間8000万円の交付金が5年間入ります。医療機関が残ったからこそ入った交付金をどうして建物の補修や暖房費に使わないのですか?」

と質問したところ、一般社会では通用しない屁理屈をこねていましたが、要するに「交付金は夕張市の裁量で使えるのだから財政再建計画で決めた通り、借金の返済に使うものだ」ということでした。

しまいには「そんなことは財政再建計画の根幹に関わる!」と住民の安全を無視して逆切れする人までいました。どうも役場の方は仲間である住民の安全より財政再建計画を遂行することが最優先のようです。

せっかく総務省の担当者の方や国会議員の方達や道庁が地域医療再生に応援してくださっているのにとても残念です。

地域住民の安全保障の責任は行政にあります。当然日本一高齢化した市の保健・医療・福祉のビジョンを持ち、将来を考えるのが仕事です。

自分の裁量で、住民の生命や安全より自らの責任で作った借金の返済を優先しておいて、そのツケを再生に取り組む指定管理者に丸投げしているという話です。

数カ月前に「全国の他の自治体で公設民営化した医療機関があるので、どの程度の規模でどれ位公が負担していて、夕張市の規模ではどれ位が適正か調べておいて下さい」とお願いしてあったのですが、市役所の保健福祉担当者は全く調べてはいませんでした。

調べられないのか、調べる気が無いかは知りませんが、民間では解雇されていると思います。

こちらの提案は、以下の3点です。

  1. 公的な役割として不採算でも19床の入院ベッドを維持しているが、在宅も増えてきたので更なる経費削減というのであれば、残念ですが診療所の病床は廃止します。
  2. 交付金が存在する事実や、税金の使い道は誰がどのように決めたのかを住民に公開すべきことなので、以前の隠蔽体質をやめて公開してほしい。
  3. 破綻した自分達のやり方ではなく、他の地域のやり方を学んでほしい。

せっかく破綻したのに(破綻後に新しいやり方で結果が少しずつ出てきているのに)、以前のやり方に戻るのではまた破綻することは誰にでも理解できます。

一緒に行った2名の先生方が「この人達は本当に我々を必要としているのか疑問だ」と呟いていました。

夕張医療センターは調剤薬局を含めると100名くらいの雇用を守り、税収を確保している側面もあります。

重油代の値上がりで暖房光熱費はさらに増えることになります。ますます夕張医療センターがピンチになりますが、公設民営化は公が無関心で無責任だと全く意味がないということがよく分かると思います。

夕張での地域医療再生は行政の不作為との戦いと住民の意識改革が一番の課題です。


■7月18日

夕張医療センターが19床の有床診療所と40床の老人保健施設、デイケア、訪問診療を組み合わせた今のスタイルで運営を始めて1年になります。

平成18年度から19年度にかけての国民健康保険における診療費として結果が出てきたのでご報告します。

市内の状態をまとめますと、病床の減少に伴い市内の入院は720件から353件と半減していますが、医療費は1/5に減少しています。

市内全体の外来も8560件減少していて診療費は約3億3000万円減少しています。市内全体の歯科も含めた医療費は1年間で約5億4000万円減少しています。

これに対して市外の入院は19件減り、外来は1953件増えています。市外での歯科を含めた診療費は2億5691万5000円増えています。

まとめますと、市内の入院と外来は減少し医療費も減りました。これに対して市外での入院患者は減っており、外来患者が増えていてその分では医療費も増えています。

平成18年度と19年度を比べると全体の診療費が2億8356万7000円減少しています。人口の減少を考慮しても約2億7000万円の診療費が減っています。

単純に夕張の人口で割りますと、この1年間で1人あたり2万円の医療費が削減できたことになります。

この医療費の中には予防医療の推進での削減分、在宅医療に移行したことで減少した医療費や、老人保健施設でリハビリをして減った分は含まれていませんので、実際にはもっと多くの医療費が削減されています。

救急医療につきましては、過去5年間の救急出動件数は平成16年度912件と最多ですが平成19年度は650件に減少しています。

救急車の件数は減少していますが、死亡は24人から11人、重症者は107人から86人とそれぞれ減少しています。

平成19年度の夕張医療センターの時間外の受診者数は月平均で11人、1日平均では0.39人で当直でも2-3日に1人程度まで減りました。これには看護師さんが頑張ってくれている電話相談や往診等の数は入っていません。

医療センターの医師は3人ですが検査技師や放射線技師は1人ですから、検査が必要な場合にはそれぞれの技師の方は24時間、365日の勤務になってしまいます。

医師にしても3人で365日当直していますと1か月で10日間は当直です。人口1万人規模の自治体で24時間体制で急患を受けるためには、少なく見積もっても1億円位の経費がかかります。

当直医は法律上入院患者を守るためにあるもので、外来患者を診たり、十分に睡眠がとれない環境での労働は禁止されています。

医療崩壊の原因は様々ですが法律を守っていなくて、当然のように医療資源を使っているために医師が疲弊して辞めていくことにあります。

夕張市では当然のように「市立なのだから24時間体制で急患を受けるべきだ」という声を聞きます。しかしそれをやっていて医師が10人以上辞めていき病院が破綻しました。

以前のやり方ではまた破綻しますし、望むのであればそれに見合った十分な負担をすべきですし、限られた資源を大切に使うべきだと思います。

医療費が削減されるということは、町の負担が減り、税金が減ることを意味しています。

医療センターは重油の値上がりでこのままでは秋には1か月の暖房費は500万円を超え、現在の人数でも運営が困難な状況となります。

私を含めて職員は夕張で仕事を続けたいのですが、破綻してしまえばそれも不可能な情勢です。非常に残念ですが、破綻した町ではそれを我儘と評価されるのが現実のようです。


■7月25日

7月も気がついてみますとあっという間にもう半分以上過ぎています。今年の夏のスケジュールはかなり過密でした。

すでに取材が3件、打ち合わせや会議が5件、講演が5件、これから講習会が1件と7月27日に地域医療を守る地方議員連盟 第2回勉強会が夕張で開催されます。

北海道各地の多数の議員の皆さんが夕張で地域医療の勉強会を開いて下さるのですから、ありがたい限りです。

7月12日に東京でカタログハウスの学校での講演があり、7月16日には東京国際フォーラムのモダンホスピタルショウの医療崩壊に関するシンポジウムに出席しました。

いずれもちょうど暑い日で、涼しい北海道から東京へ行き、電車を乗り継ぐ間に歩いていると汗が噴き出て来ました。こんな生活をしていると改めて北海道の涼しさを実感できます。

19日~20日は仙台へ飛び、新幹線で那須塩原へ移動し、自治医科大学の1年生に地域医療を語り、大急ぎで帰って来て、海の日は当直をしています。

私が医師になった頃、どちらかというと影ものであった「地域医療」という言葉が、多くの方に認知されて、それを目指す若い医師や医学生が増えたことは嬉しいことです。

後は受け皿となる地域がこのような人達を大切にしてくれたら、きっと地域医療は崩壊しないで済むように思えます。

8月は講演依頼が6件入っていて、当直も通常の勤務もありますから週末が無くなります。

どう考えても夏休みを取るのは難しいことに気がつくのですが、今はまさに法人の正念場でそんなことも言っていられません。

こんなことができるのも、病棟や老人保健施設を守ってくれている2人の先生が頑張ってくれているからで、ありがたい限りです。

私の場合移動することも乗り物も話すことも嫌いではないので、それほど苦にはなりません。

時々夕張から出て、冷静に考えたり、本を読んだり、他の立場や職業の方と話をすると随分励まされたり、アイディアや知識をいただきます。

出張の時の方が食事を3度とりますし、良く歩くので日頃の運動不足が解消されています。

私が多くの地域で呼ばれている理由は、ほとんどの場合地域医療が崩壊し、あるいは崩壊の危機に瀕していて必死で解決策を模索しているといったものが多いという印象があります。

本当は破綻する前に気がついて、何とかした方が良いに決まっています。

夕張での取り組みは決して楽ではないし、楽しいことばかりではないのですが、医療費の削減などそれなりの結果が出てきていることが唯一の救いです。

繁栄の歴史がある分、旧態依然とした破綻したやり方に戻そうとする人達がいるのも仕方ないことですが、町が消えて北海道が破綻する前に気がついて、次の世代に迷惑をかけないようにしていきたいものです。

このコラムは、無料メールマガジン「夕張市立総合病院を引き継いだ『夕張希望の杜』の毎日」の連載コラム「村上智彦が書く、今日の夕張希望の杜」を1カ月分まとめて転載したものです(それぞれの日付はメールマガジンの配信日です)。メールマガジンでは病院のスタッフ、関係者などの寄稿も毎号掲載しており、地域医療の現場最前線の取り組みが伝わってきます。メールマガジンの発行者は木下敏之氏(前・佐賀市長/木下経営研究所所長)。運営コストを除いた広告掲載料が「夕張希望の杜」に寄付されます。