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社員全員で情報を共有しようと考えてシステムを構築したものの,結果はまったく役に立たなかったケースは多い。人間にしかできない業務とコンピュータにやらせる処理の棲み分けがしっかりできていないことが原因である。コンピュータがいかに詳細なデータを提供しても,その中から必要な情報を選別し何かをつかむのは人間の感性である。人間の感性を画一的な分類に置き換えてデータの集合体にしてしまったら,「情報」の価値は失われてしまう。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 損害保険業界では規制緩和が進む一方で,企業間の競合が激しさを増している。M社の代理店営業部では,営業力強化のために,従来以上にきめ細かな代理店ケアを行うことになった。

 計画の目玉は営業部員を対象にした代理店管理システムの構築だ。M社の代理店営業部は地区ごとに担当制を敷いているが,個々の担当者が保有している情報の共有がうまくいっていない。そのために電話で簡単に対応できるような問い合わせでも,担当者に伝えなければならない。そうこうしているうちに時間がたってしまったり,担当者が長期出張の時などは何日もそのままになってしまうこともあった。担当者自身が外出中に入った情報を知らずに代理店を訪問して,依頼や案内が重複するようなちぐはぐな対応が頻発していた。

 新たに構築する代理店管理システムでは,代理店の属性,経歴,得意分野,営業成績,契約顧客情報,取扱商品はもちろん,趣味や家族情報,営業担当者がコンタクトした時の状況まで,可能な限り生の情報を管理することになった。この実現のためにさまざまな文字情報も分類して入力できるようにした。代理店営業部のだれでも自由に参照できるようにして,遅滞のない代理店対応が可能になるはずだった。

 新しい代理店管理システムの構築は,営業部員が日ごろから感じていたさまざまな要望を情報システム部にぶつけることから始まった。それを受けて,具体案を情報システム部で作成するという手順で進んだ。

 代理店営業部では,せっかく新システムを構築するのなら,さまざまな販売促進活動にも利用したいという要望が次々と出てきた。具体的には,セミナーへの参加要請,新商品の案内,重点地域の代理店の絞り込み,代理店からの要望事項の傾向分析など,各種の検索・分析も可能なものにして欲しいといった内容だ。

 情報システム部からは,「代理店の状況や要望といった定性的な情報まで分類するのであれば,ある程度ジャンル分けをすべきだ」という提案がなされた。文字情報の入力を無制限に許すと手間もかかるし,分類も難しいということが理由である。情報システム部の提案内容は,「あらかじめプルダウンメニューにしておいた選択肢をクリックして制限字数の範囲内でコメントを書き入れる」というものである。

 議論を続けている中で,この代理店管理システムの機能をもっと増やしてはどうかという案が,代理店営業部の若手から出てきた。システムをWeb上に展開して,代理店側からも必要なデータを逐次参照できるようにして,属性情報の変更などは代理店自身に入力してもらってはどうかという内容だ。