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 前回のコラムに引き続き、総合窓口導入における「1.窓口業務の見直しに対する壁」とセットで考えていく必要のある「2.人や組織の壁」の克服法について検討していきたい。

“形だけ”にとどまらない、トップの積極的なコミットが重要

 前回の末尾コラムで指摘したように、「総合窓口」を設置するための窓口業務の見直しが難しいのは、国の「縦割り行政」の壁が市町村にまで及んでいる。つまり、窓口業務と組織とは、密接な関係なのである。従って、窓口業務の改革を迫る「総合窓口」を導入するためには、その「組織」の壁を打ち破る推進体制とトップの積極的なコミットは、欠かすことができない要素といえる。

 筆者が見聞きした範囲では、「総合窓口」の導入に成功した自治体において共通しているのは、トップである首長等の自治体経営層が抵抗要因の調整に、直接乗り出している。ボトムアップで始まった活動であったり、一部試行的に導入しながら成功事例を拡大させていく方法で導入を進めた場合であっても、プロジェクトの最終的な調整段階においては、トップである自治体経営層が直接的に関わっているのである。

 例えば、前佐賀市長の木下敏之氏は、総合窓口の導入に際して、市長自らがかなりの部分に直接的に関与している。その範囲は、総合窓口のフロア・レイアウトの決定から人事面の工夫にまで及んでいる。特に人事面では、総合窓口の設置を検討する推進本部を庁内に立ち上げ、本部長に総務部次長兼人事課長、副本部長に財政課長を据えて兼務命令を発令し、関係する課の主要な係には、やる気のある若手の職員を人事異動させたのである。その結果、その後、人事上も、総合窓口に配置されて住民と直接向き合うポストを経験することが若手の職員の登竜門と位置づけられることとなった。(木下、瀧口「住民をたらい回しにしない市役所窓口の実現に向けて」より)。

「事務分掌」の見直しが不十分だと、うまく機能しない

 このようなトップダウンによる阻害要因の克服を図りながら、「総合窓口」の導入にこぎつけることができたとしても、職員にしこりが残ってしまうこと もある。総合窓口の担当職員が、「ほかの課の仕事まで押し付けられているのではないか」と不満を持ったり、逆に原課の職員が総合窓口に業務を任せきりになり、情報伝達やコミュニケーションが気薄となってしまうというケースである。

 こうした場合は、窓口業務を見直しても「事務分掌」の見直しが不十分で、職員が組織としての役割として認知できていない可能性も考えられる。例えば、原課で把握しているはずの給付助成の所得制限等の認定基準が変更について、総合窓口の職員にまったく知らされていなければ、単に書類を受け取るだけで済む場合を除けば、誤って申請書の受け取り処理を行ってしまう可能性があり、総合窓口を訪れた市民の大きな混乱の元ともなりかねない。

 このため、自治体の組織構成の基本である事務分掌において、しっかりと総合窓口と原課との連携と権限の分担を明記し、総合窓口での最大の混乱の要因となる国の制度変更ごとにかわる手続きの仕方の情報をいち早く総合窓口の現場に伝えて、原課との連携を図っていくことが極めて重要となる。

 次回は、さらに「総合窓口」を継続的に運用し市民サービスの品質を維持するための「2.人や組織の壁」の克服法について、検討していきたい。

コラム:ようやく動き出した政令市の総合窓口

 政令指定都市の場合、窓口は各区役所が担当となり、それぞれ独自で窓口サービスを追求しているため、なかなか統一した総合窓口の構築に着手できてないでいた(関連コラム)。しかし、最近ようやく、北九州市、大阪市、さいたま市といった政令指定都市において、具体的な取り組みが現れ始めた。

 北九州市では、情報政策室が主導した「基幹系システムの最適化」の取り組みの中で総合窓口に対応できるシステムの構築を進めている。現在は、総合窓口の開設に向け、情報政策室の担当者が区役所を取りまとめる区政課に異動し、窓口業務の見直しを推進している。

 大阪市では、局長級のIT改革監の下、EAの手法で業務分析(LASDECの関連情報)をしたうえで、「窓口ワンストップの推進」を推進している(関連記事)。

 さいたま市では、複数の窓口で申請が必要な手続きを、一つの窓口で対応する「窓口申請パッケージ化事業」をまず同市見沼区役所でパイロットプロジェクトとしての試行。ここでの検証を経て、全区役所に「パッケージ工房」と名付けた統一的な総合窓口を全市で展開している(発表資料)。

 このように、政令指定都市においては、区役所を統括する部署から見た業務の全体最適化の観点からの推進や、トップダウン、またモデル的な成功事例の拡大推進など、組織の縦割りの壁を打ち破る推進方法は様々といえる。

* 筆者は、2008年4月より在職先を変更していますが、本連載の内容は筆者個人の見解であり、在職している組織とは関わりはありません。

瀧口 樹良(たきぐち・きよし)
札幌総合情報センター 主任研究員(課長職)
瀧口氏の写真 1971年神戸市生まれ。駒澤大学大学院人文科学研究科社会学専攻修士課程修了。在京のメーカー系シンクタンクにおける公共系コンサルティング活動を経て、現在は札幌市の第三セクターである札幌総合情報センター株式会社に在職。主に自治体の業務改善、行政経営およびIT活用戦略等を中心に積極的な活動を行っている。著書に『地域情報化 認識と設計』、『東アジアの電子ネットワーク戦略』(いずれも共著)など。