
「コーニングは150年を超す長い歴史を生き抜くことができた。業績に関係なく売上高の10%を研究開発費に投じて、イノベーティブな製品を次々と生み出してきたおかげだろう。IT(情報技術)部門にとっては、そうしたイノベーションをITで支えていくことが最も重要な役割の1つだ」
テレビなど液晶ディスプレー用のガラス基盤、光ケーブル、光ファイバーの3分野で売上高世界1位の米コーニング。ニューヨーク州コーニング市に本社を構える同社は、1851年に創業され、トーマス・エジソンが発明した白熱電球用のガラスを開発した歴史を持つ。テレビのブラウン管の大量生産技術を確立したのもの同社だ。2007年度の売上高は58億6000万ドルに達する。
そんな米コーニングの日本法人でCIO(最高情報責任者)の役割を担う奥田ITディレクターは、冒頭のように、日本法人のイノベーションを意識してビジネス戦略を練る。イノベーションこそが同社が最も大切にするDNA(遺伝子)であり、イノベーションには今やITが欠かせないからだ。
奥田氏は同時に、米コーニングのグローバルなディスプレー事業に関するIT責任者でもある。「当社のIT部門の業務範囲は広く、例えば新しい製品の生産プロセスの立ち上げから検品、出荷、ライン制御に至るまで全部関与する。生産プロセスは技術イノベーションがどんどん起こる分野であり、新技術が有用かどうかを調べるためのデータの収集や分析の仕方でIT部門がエンジニアをサポートする」
IT部門は、イノベーションを支援するだけではなく、メールなどの基本的なITサービスを安定的に低コストで供給する役割も強く求められる。「IT部門は、社内では『パワー・アンド・ライト・カンパニー』と呼ばれている。ライフラインであるメールやIP電話など基本的なITサービスを提供する使命があるからだ」
日本の電機メーカーや外資系ITベンダーなどを経て2002年にコーニングに入社した奥田氏は、コーニングのIT部門の魅力をこう明かす。「日本で採用されたとしても本人のモチベーション次第で、全世界で活躍できるオポチュニティ(機会)がたくさんある。引っ込み思案な人には厳しいかもしれないが、自ら手を挙げればいろんな仕事に挑戦させてもらえる」
同社には「1+1=20」になるくらい人的なネットワークやコミュニケーション、チームプレーを重視する風土があると語る奥田ITディレクターは、「ITスタッフであれば少しくらい業務のボーダーを超えてしまっても、各利用部門で何が起こっているのかについて興味を持つことが大切。視野を広げていろんな部門の人と付き合っていくべきだ」と強調する。
チームプレーを重視するコーニングでは、公式、非公式を問わず、ビジネスコーチングが盛んだ。奥田ITディレクターにも外国人のビジネスコーチがいる。「様々な面でインスパイアされるのでありがたい。例えば、当社のようなインターナショナルカルチャーの中では、互いの強みと弱みをはっきりと認識し合い、強みをどう伸ばし、弱みをどうカバーすべきかを考えるのが大切だと再確認できた」。人に対する興味こそが奥田氏のモチベーションの原点であり、コーニングは奥田氏のそんなキャラクターにマッチした環境のようである。
◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・ 経営的視点を持つことです。私はコーニング日本法人の経営の一角を担っているので、ビジネスコンサルタントでありたいと考えています。つまり、ビジネスのパフォーマンスを上げることを重視し、それを実現する時にITを使うこともある、というスタンスです。
◆ITベンダーに対して強く要望したいこと
・低コストで信頼できるサービスの提供です。私たちは社内のIT部門でやらないところを社外に頼むわけですが、期待しているのはクオリティーに尽きます
◆最近読んだお勧めの本
・『The 7 Habits of Highly Effective People(7つの習慣)』(ステファン・R・コヴィー著)
私のビジネスコーチが、「人へのインフレンシャルパワー(影響力)をどう発揮すべきか」と言ってきたことがあって、その時に勧められた本です。例えば、自分の部下に対して、あるいは、社内カスタマーに対して、ウィン・ウィンになることを考える習慣を付けるべきだ、ということが書かれています。海外の書籍ですが、日本の企業社会の中でもかなり役立ちます。日本語版も出版されています。
・ 『The Portable MBA』(米バージニア大学ダーデンスクール著)
会社の部署ごとの機能のベストプラクティスを学べます。この本も日本企業に応用できます。
・『1001 Ways to Reward Employees』(ボブ・ネルソン著)
人の褒め方を集めた本です。ビジネス環境が厳しい時にも企業が成長を続けようとするなら、やはり人をどうモチベートするかが大切です。この本を読むと、言葉で褒めることがどれだけ人をやる気にさせるかが分かります。ただし、日本人は米国人と比べると人を褒めるのが上手ではないので、カルチャーショックを受けるかもしれません。
◆仕事のために参加している研究会
社外の研究会には参加していません。それよりも社内のIT部門内の人的なネットワークづくりにプライオリティーを置いています。また、社内外のビジネスコーチから受けるコンサルティングは、私のビジネスでの意思決定に役立っています。趣味を通じて友人となった人に企業家が多く、彼らからも刺激を受けます。
◆ストレス解消法
・フライフィッシング、写真撮影、競泳、古い車のメンテナンス、読書、音楽鑑賞、映画鑑賞などです。ストレス防止のためには、気持ちの切り替えが大切ですね。月曜日から金曜日までは仕事のことだけを考えるようにし、週末は全く考えないようにしています。米コーニングの本社はニューヨーク州にあり、日本と13時間の時差があります。だから、平日はオフィスの外でも仕事をし続けています。だから、なおさら週末は仕事のことは考えないようにしているのです。
・ 趣味の1つにフライフィッシングがありますが、米国に勤務していた時は頻繁にカナディアンロッキーなどに足を運んでいました。面白いのは、米国人はフライフィッシングをやってみたいと思う人がたくさんいるのに、難しいからなかなか手を出せないでいること。私がフライフィッシングを趣味にしていて、良いポイントを知っていると言うと、多くの人が興味を示してくれました。当時、社内コミュニケーションに大いに役立っていたのですよ。