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営業職は顧客を訪問した後の業務処理が多く,他の職種に比べても残業が多いというのが通説になっている。それもあって営業関連業務のシステム化を検討している企業は多い。営業担当者が,いちいち事務所に戻ることなく,ネットを通じて業務報告をできれば時間の節約になるのは間違いない。ところが実際にシステム化をしてみると,思わぬ展開になることがある。今回は,営業支援システムの機能を表面的に捉えたことで失敗した事例を紹介する。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 「当社の顧客数は増加する一方だし,営業担当者が訪問する取引先は工場の移転が相次いで遠くなるばかりだ。営業担当者を増やせない現状では,営業活動に費やす移動時間がもったいない。なんとか出先や自宅から業務報告や業務照会・連絡が簡単にできるようにしてほしい」。来年度から始まる3カ年の「中期事業計画」の検討部会で,営業本部担当のW専務は,情報システム部のA部長に,こう注文をつけた。

 電子部品製造の中堅企業であるH社では,新たに始まる次期中期事業計画のなかで営業改革が重要なテーマになった。H社ではこれまで数年をかけて工場の生産情報システムや物流,販売業務の改善とシステム化を進めてきた。ところが最近は,顧客数が増えたことや取り扱い製品の多品種化,顧客からの問い合わせ増加などが進んだ結果,事務処理の負担が急増している。こうした事務処理を社内で担当する部門の残業時間もかなり増えている。

 それ以上に問題なのは,営業担当者の顧客訪問状況が上司や管理職にタイムリに伝わらなくなったことである。提案活動やクレーム対応が遅れ気味という指摘も一部の顧客から出ている。それだけにとどまらない。事務処理のミスによって引き起こされる生産性の低下も無視できない水準になった。このままではたいへんなことになるという危機感がW専務にはあった。

 H社の営業担当者の毎日は,数件の顧客訪問をこなしてから事務所に戻るというものだ。事務所では,顧客からの調査依頼や見積書/注文書の作成,業務報告書の作成や上司への報告,相談をする。営業担当者にはアシスタントがグループごとに1~2名ついているとはいえ,忙しさは社内でも抜きんでている。将来をにらんで,営業活動の質を向上させるには,仕事の仕方を抜本的に見直して「提案型・攻めの営業活動」に転換する必要がある。

 H社の経営会議は昨年9月に,「売り上げ重視の考え方から利益重視へ」という方針を決定した。この方針に営業部門が率先して軸足を移していくためにも,営業担当者の業務効率アップは避けて通れない。

 H社では受注処理や資材手配,生産部門の作業指示は,4年前からコンピュ-タで処理している。しかし需要動向の把握や販売予測といった業務は,営業担当者が経験と勘に頼って行っている。彼らが,製品情報の提供という名目で客先を訪問して,確度の高い需要情報を収集してくるのだ。

現場の意見集約にヒアリングを実施

 営業改革の基本方針が経営会議で決定されたのを受けて,営業担当者の事務省力化を検討するプロジェクトがスタートした。プロジェクトのリーダーには営業推進部のY部長が任命された。情報システム部と営業推進部から数名のメンバーが指名されて,「営業支援システム」の検討が始まった。

 H社は,伝統的に営業部門の発言力が強い。「200名ほどいる営業担当者の反発を買うと何も動かない」という雰囲気が社内にある。そのあたりを熟知しているY部長は,今回の「営業支援システム」の検討に際しても,十分なヒアリングをした上で情報提供の方法や内容を決定することにした。

 検討プロジェクトのメンバーが営業担当の代表者数名からヒアリングした結果,いくつかの要求・要望が出てきた。具体的には,営業担当者が取引先への移動の合い間にでも,(1)在庫照会・納期照会(生産工程の進ちょく状況の問い合わせ)ができること,(2)受注の仮登録/取り消しを簡単な操作で行えること,(3)営業日報の作成と業務連絡が容易に行えること。この3点に集約された。いずれの要求・要望も,電話などでは到底実現できないので,携帯情報端末の導入が前提になった。

 集約した3点の中の(1)と(2)については現在稼働中の情報系システムの変更で対応することになった。(3)については市販のパッケージ・ソフトの中から利用できるものを探すことになった。

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