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人事システムの構築は社内の情報システム部に頼らず,人事部が独自に行っている企業は少なくない。それは業績評価,人事・給与データーといったマル秘情報が多く,システム部には依頼しにくいという事情による。これに部署間の確執が加わると,問題が大きくなる。しかし,社内のリソースは有効に活用してこそ意味がある。お互いの得意領域を認めた上で信頼関係を醸成すべきだ。今回は,社内の確執が原因で,暗礁に乗り上げた事例を紹介する。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 T社は約20店舗をチェーン展開する地場のスーパー・マーケットである。高成長期には特別な戦略を立てなくても順調に業績を伸ばし,店舗も次々と増やしてきた。

 しかしここ数年,事業環境は大きく変化した。売り上げの現状維持さえ困難になり,営業利益は毎年7~8%のマイナスが続いている。品揃えを絞った上で,欠品を極力減らす工夫や,顧客が快適かつ安心してショッピングを楽しめるような店舗運営をしようと工夫を続けている。その一方で売り上げ・利益の両面で落ち込みの大きい店舗の閉鎖をしながら,事業戦略を見直してきた。

 ところがここ1~2年の動きはさらに急だ。新業態の小売専門店の出現や外資系流通業の進出,インターネット通販の台頭など,小売販売の最前線は競争が激化している。T社もかつてのような成長を取り戻すには,これまでの常識の打破が必要だと考えて,全社を挙げて抜本的なリストラクチャリングに取り組むことになった。

「システム部外し」を人事部が要請

 経営会議で議論した結果,「商品企画,仕入れ,販売,管理のすべての分野で,発想や価値観,行動パターンを改めなければ厳しい市場環境には対応できない」という結論になった。社長は,「アルバイトを含めたすべての社員の意識を根底から変えなければならない。それには社内の制度や規則の抜本的な改革が急務だ」と結論づけた。これを受けて経営会議は,年功序列賃金体系や固定的な人事制度を見直すことを決めた。経営会議の要請を受けた人事部は,U部長をリーダーとする人事制度検討プロジェクトを発足させて研究を始めた。

 人事部のU部長は,今回の検討テーマはかなり難しいものであり,十分な専門知識や他社の情報が欲しいと考えた。そこで早速,以前にセミナーで話を聞いたことのある人事業務コンサルタントのN氏に相談してみることにした。

 U部長から話を聞いたN氏は,先進企業を対象に人材活性化策や人事制度,業績管理,給与などに関するヒアリング調査をするよう進言した。それからの3カ月はあっという間だった。T社とコンサルティング契約を結んだN氏は,人事部と協力して,新人事制度の原案を精力的にまとめあげた。その結果を,人事部の U部長が経営会議に提案したところ,大筋で了承を得た。

 現在T社が使っている人事情報システムは同社の情報システム部が5年前に開発したものだ。人事情報システムといっても実態は,給与・厚生システムと社員台帳をコンピュータ化したものにすぎない。

 新システムは,新たな業績管理方針と新給与体系への対応に加えて,人事データベースの構築が目玉だ。給与システムは市販のパッケージを導入するものの,人事情報システムは独自に開発することになった。

 経営会議でU部長は,「今回のシステム構築は情報システム部に開発依頼をせずに,人事部が外部企業を使って取り組む」と自身の考えを述べた。何人かの役員から「なぜ,情報システム部に依頼しないのか?」とか,「人事部にシステム構築がやれるのか?」という疑問の声が出た。これに対してU部長は,「人事部のシステムグループが外部の情報サービス会社と協力して進めるので十分対応できる」と説明した。経営会議は情報システムの構築に関してそれ以上の関心を示さなかったので,人事部案は了承された。