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 2011年7月24日の地上アナログ放送終了後,利用可能となるVHF帯周波数を用いた携帯端末向けマルチメディア放送サービスの早期実現に向け,2007年8月から議論が進めされてきた総務省「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会(座長:根岸哲 甲南大学法科大学院教授)」は,約1年間の議論の結果,7月15日に最終報告書を公表した(報道発表)。また,本報告書を受けて情報通信審議会・放送システム委員会において,検討が開始され,8月27日に「技術的な要求条件(案)等に対する意見募集」が行われている。そこで,今回はこの報告書の内容について概要を解説する。

マルチメディア放送を全国向け,地方向け,地域向けに分類

 地上デジタル放送への完全デジタル化が完了した後に空く,VHF帯の有効利用に関しては,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会が2007年6月に一部答申(諮問第2022号)を取りまとめ,VHF帯ローバンド1ch~3chの18MHz(90M~108MHz)とVHF帯ハイバンド上位の207.5M~222MHzの14.5MHzの合計32.5MHzを携帯端末向けマルチメディア放送用途に割り当てた(一部答申「VHF/UHF帯における電波の有効利用のための技術的条件」参照)。そして,本懇談会はこの一部答申を受け,携帯端末向けマルチメディア放送サービスの早期実現に向け,2007年8月2日からビジネス・制度面,技術・周波数分配に関する議論を行ってきた。

 実現するマルチメディア放送について,本懇談会では,携帯端末での受信を前提として,映像,音響,データなどの組み合わせや,リアルタイム,ダウンロードといったサービス提供形態を自由に組み合わせることを可能としている。そして,実現する放送については,全国いかなる場所を移動しても同様のサービスが受けられる「全国向けマルチメディア放送」(以下「全国向け放送」),全国を一定のルールに従って地方ごとにブロック化して放送サービスを行う「地方ブロック向けデジタルラジオ放送」(以下「地方ブロック向け放送」),現在のコミュニティ放送のように市町村等をサービスエリア(放送対象地域)とした放送と,複数の都道府県を一括りにした広域放送サービスを行う「デジタル新型コミュニティ放送」(以下「新型コミュニティ放送」)の3タイプに分類した。

 放送対象地域について,全国向け放送は全国で同一の放送番組,地方ブロック向け放送は各地方ブロック内で同一の放送番組を前提として,「全国」,「地方ブロック」と各々放送対象地域とすることが示された。しかし,全国向け放送サービスを提供する事業者が,全国で同一の放送番組とあわせ,地方向けの放送番組を放送することも想定できるため,報告書では「必要な制度整備を行うことが考えられる」としている。さらに,デジタル新型コミュニティ放送サービスについては,「都市部で最大半径10kmの範囲の地域をサービスエリアとして想定(空中線電力が最大20wとされている現在のアナログ方式によるコミュニティ放送は都市部で最大半径2km程度)し,技術的条件等については今後さらに検討が必要」と示した。

 携帯端末向けマルチメディア放送の周波数の割り当ては,全国向け放送をVHF帯ハイバンドの207.5M~222MHzの14.5MHzに,地方ブロック向け放送をVHF帯ローバンド1ch~3chの18MHz(90M~108MHz)に割り当てた。また,新型コミュニティ放送については,「複数のチャンネル利用が想定される地方ブロック向け放送のネットワークが一応整備された段階で,その地方ブロックで用いられていないチャンネルを割り当てる」とした(図1)。

図1●周波数割り当てのイメージ
図1●周波数割り当てのイメージ
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全国向け放送は,携帯電話などの「認定計画制度」を参考に比較審査を導入

 全国向け放送は,SFN(Single Frequency Network,単一周波数ネットワーク)を用いて単一のチャンネルのみを用いる方法により置局を行うことを前提として,事業者へ周波数帯域幅を割り当てる。そして,この置局の設置については,「事業者の創意工夫に委ねる事が適当である」として,「移動系電気通信業務で導入されている携帯電話等の無線局免許に係る『認定計画制度』を参考に,国が全国向け放送について求める条件・事項等を定めた無線局の開設の方針を定め,これに則した形で事業者が作成した計画を比較審査する」という仕組みを導入する考えが示された。また,地方ブロック向け放送は,「全国で複数のチャンネルを割り当てることを前提として,周波数帯域幅の割当て方法については,今後更に検討を行うことが適当」とした。

ハード・ソフト分離制度の導入

 制度の在り方に関して,放送番組を制作するソフト事業者と放送免許を取得し放送を行うハード事業者の数とハード・ソフト分離制度について,本報告書では次のように考え方を示している。

 ソフト事業者数について,「全国向け放送は,2~4事業者程度」,「地方ブロック向け放送は,1つの地域において複数チャンネルを有する複数のソフト事業者」とした。そして,ハード事業者数について,「全国向け放送は,1事業者とすることが適当」としながらも,現時点で参入を検討している事業者を考慮して「2事業者とすることも考えられる」とした。他方,地方ブロック向け放送のハード事業者の数は,「地方ブロックごとに1,または複数の地方ブロックごとに1とする」ことや,「全国で1とする」考えを示している。

 ハード・ソフト分離制度については,事業展開の柔軟性を確保するために,ハード事業者とソフト事業者が異なることを許容する「ハード・ソフト分離」の制度の活用を可能とする方向を示した。

全国向け放送の放送方式は統一と複数の両方を併記

 技術方式の在り方について,地方ブロック向け放送は,「1つの技術方式を国内規格にする」とした。一方,全国向け放送は,国内規格を1つに統一せずに,「複数の事業者から複数の技術方式の規格化が提案された場合には,基本的にすべての技術方式を国内規格とする」こととした。ただし,「複数の技術方式が国内規格とされた場合でも,受信端末の一層の普及による利用者利益の確保を考えれば,今後のいずれかの段階で技術方式が統一されることが望ましい」と示したことから,全国向け放送の放送方式は統一と複数の両方を併記した形となった。

 今後マルチメディア放送の国内規格の決定は,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会で検討していくことになるが,その際の国内規格の定め方に関して,「(1)その技術方式によりマルチメディア放送を実現可能であること,(2)国際標準となっていること,(3)技術方式の内容が優れていること,(4)費用が低廉であること,(5)その他利用者の利益の確保に資すること」といった勘案要素のうち適切なものを要求条件とした上で,「国内規格の候補となる技術方式について必要な検討を行い,国内規格を決定することが適当」と示した。また,複数の技術方式を国内規格とする場合には,(1)~(4)以外の勘案要素,例えばロイヤリティや携帯電話端末へのコストインパクトができる限り軽減できること,VHF帯ローバンドとVHF帯ハイバンドの技術方式の整合性が確保されることなど,免許申請時の比較審査の項目とすることも盛り込まれた。特に,VHF帯ローバンドとVHF帯ハイバンドの技術方式の整合性が確保されることについては,VHF帯ローバンドでISDB-Tsb方式のデジタルラジオがほぼ確実となっていることから,ISDB-T方式をベースとしているISDB-Tmm方式が優位と考えられている。

 これ以外にも例えば,新規コンテンツを盛り込んだ放送を多く有する者を優遇すること,一定程度の無料放送を確保する者を優遇すること,受信端末の普及のための施策を審査項目とすることなど,事業者選定での比較審査項目が提案されている。

今後のスケジュール

 今回の報告書を受けて,7月25日に情報通信審議会・情報通信技術分科会・放送システム委員会が開催され,マルチメディア放送システム作業班を設置し,マルチメディア放送システムの審議が開始された。また,放送システム委員会においてまとめられた技術的な要求条件(案)等に対する意見募集が行われている。今後,早急に国内規格とする技術方式の公募等を行い,2008年中に設定した要求条件を満たすものについて,各種の技術的検討を開始し,2009年中に関係の省令を定めることになる。また,省令の制定と並行して,電波産業会(ARIB)において標準規格(STD)や運用規定(TR)がとりまとめられる予定だ。なお,運用規定については,「一般的には免許等を受ける者の確定後に検討が開始されるが,本マルチメディア放送の早期の開始のために,その確定前に検討を開始することが有効」と報告書に示されている(図2)。

図2●今後のスケジュール
図2●今後のスケジュール
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 本懇談会の報告書がまとまり,公開されたことで,今後はマルチメディア放送の早期実現に向けて具体的な取り組みが実施される。特に,次のステップへ進む情報通信審議会での「全国向け放送」の国内規格の検討における日本の地上デジタル放送方式をベースとした「ISDB-Tmm(ISDB-T Mobile Multimedia)」方式と米クアルコムが推進する携帯向け放送技術「MediaFLO」方式の2つの方式の技術仕様策定と,本報告書に示された「VHF帯ローバンドとVHF帯ハイバンドの技術方式の整合性確保」や「ロイヤリティ」などMediaFLO陣営には課題が多いが,要求条件や比較審査項目に関して,今後どのように定めていくのか,規格化の行方が注目される。今後も規格化の動向に注目していきたい。