前回までは、主に総合窓口の導入における「2.人や組織の壁」の乗り越え方について述べてきた。そこで今回は、「総合窓口」を継続的に運用し市民サービスの品質を維持するための「2.人や組織の壁」を乗り越えるためのポイントについて述べたい。特に、重要となるのは、「柔軟な職員配置」と、「窓口職員の人材育成」である。
柔軟な職員の人員配置によるマネジメント
複数の窓口業務を取り扱う「総合窓口」では、繁忙期には残業が増え、職員負荷が増大化する傾向が顕著に見られる。こうした状態が続けば、職員の不満・負担が積み重なり総合窓口が崩壊してしまいかねない。
そこで、個々の窓口業務で繁忙期が異なることを利用して、他の部署から総合窓口に応援人員として職員を投入する自治体もある。この結果、総合窓口の職員の残業と業務負荷は減り、残業代や臨時スタッフの雇用など人件費の抑制にもつながっている。つまり、人や業務のマネジメントが機能すれば、乗り越えられるのである。
このような人員配置を実現するには、現場をよく知るマネジャーの知恵が必要だ。
筆者が以前訪れたある自治体(以降「X市」とする)では、総合窓口を所管する課長がフロア・マネジャーの役割を担っていた。通常、フロア・マネジャーとは、「役所の窓口に来られた市民に対する総合受付としての案内・誘導や、申請書の書き方等のアドバイスを行う役割を担う人」であり、臨時もしくは一般職員、退職OB、外部委託した民間企業の職員が担当するケースが多い。しかし、X市では、窓口を所管する所属長(課長)が自らフロア・マネジャーを担っていた。というのも、「フロアの案内役」という役割にとどまらず、窓口の職員対応までも現場でマネジメントすることができるマネジャーとして、「フロア・マネジャー」の機能を高めようという狙いがあったからである。
X市での課長のフロア・マネジャー経験は、総合窓口の勤務形態の改革にも役立っていた。具体的には、フロア・マネジャーを経験した課長が中心となり、窓口業務の処理件数を考慮した繁忙期と通常期の業務量の調査・検討を行った(図表1、2)。そして、部署を超えた窓口職員に対する担当者のローテーションの導入を実現した。つまり、トヨタなどの民間の企業経営で用いられる業務の標準化と職員の能力(スキル)を把握した上で、一人が複数の業務をこなす「多能工化」を採用したのである。このことは、窓口が混雑し始めたからといって、なかなか他の部署からの職員の応援依頼は困難だが、この自治体では、フロア・マネジャーを担うことによって現場を熟知した課長による提言だからこそ、庁内では説得力をもって職員に受け入れられたようである。


X市では総合窓口の繁忙期になると、通常は役所内の事務室で内部の事務処理をしている税務部門や保健福祉部門の庶務担当、そして、普段は窓口に出ることがない総務部門などの原課職員が、窓口職員の応援部隊として窓口業務の対応を行っていた。こうして繁忙期を乗り切っていたのである。
このケースを見習い、核となるリーダーによるマネジメントを重視した石川県加賀市では、窓口担当部署の企画専門員(係長職)に経営層に直接意見具申ができる権限を持たせて、窓口カウンターでの担当職員のローテーション等の調整を行っている。