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富士ゼロックス 相談役最高顧問 小林 陽太郎氏
富士ゼロックス
相談役最高顧問
小林 陽太郎氏

 日本でグローバル化が言われて久しいが、「人のグローバル化」の状況はどうだろうか。2000年におけるOECD加盟国の大卒人口に占める流入外国人比率を見ると、オーストラリアが30%弱、米国が約13%、イギリスやフランス、ドイツなどは10数%となっている。それに対して、日本は1%未満である(出所:OECD Factbook 2007)。

 これまでも開かれた日本についてさんざん議論されてきた。だが、グローバル化で知的交流をしなければならない大卒の人でさえ、受け入れはこの程度なのだ。本当に日本は開かれていると言えるのだろうか。

 実はグローバル化を進めていくうえで、人の問題が一番難しい。人はモノや財、情報に比べてポータルではないからだ。いわゆる国際人と呼ばれる人はどの国にもいるが、全体から見ればごくわずかである。大部分の人はローカルに根づいて、なかなかグローバルに動かない。とはいえ、現実に人が動かなくても、ITがあたかも人が移動したような世界を作り出している。今後のグローバル化を考えるうえで、ITは人の問題とも絡んでますます重要な役割を担うようになるだろう。

米国以外の「ザ・レスト」がグローバル経済をけん引する

 これまで、グローバル化と米国化は同義語で論じられてきた。だが、米国の経営学者ピーター・ドラッカー氏は、40年前の著書「断絶の時代」の中で次のように指摘している。「グローバルであることが米国のものであることを意味するのであれば、グローバル企業の寿命は長くない」。これはものすごい卓見だと思う。

 現在も米国のパワーは大きなものがあるが、従来のようにすべて1国で主導する時代は終わりつつある。相対的に米国の力は落ちており、米国自身、それに気付き始めている。米国主導の世界の後は、米国以外のすべての国、「ザ・レスト」がグローバル経済をけん引すると指摘する論文も発表されている。これまで技術開発や商品開発、あるいは経営戦略にしても、米国的なものを軸に据えていれば、グローバル企業として成果は上げられた。だが、もはやそうではなくなっている。

肌で感じた感覚情報で判断できることが必要

 それでは、グローバル企業が成功するための要件は何なのかを考えてみよう。第1は「社会ニーズに対する高い感度」である。日本は主要先進国の社会ニーズには慣れ親しんでいるが、「ザ・レスト」の社会ニーズとなると理解していないことが多いのではないか。しかし、それではいけない。「ザ・レスト」の社会ニーズに対して高い感度と高い知識を集積する必要がある。

 例えば、アフリカとの関係において、欧米は長い歴史と深いつながりを持っている。日本はアフリカの知識について直接情報を集めるよりも、欧米経由のほうが多くの情報を得られるし、場合によっては情報の質が高いこともある。だが、グローバル企業は、間接情報ではなく、直接情報、しかも肌で感じた感覚情報でトップから現場まで判断できるようにならなければならない。そして、そのための人材育成が必要になるだろう。

 また、多くの国々では国民国家の意識が低くなっているが、アフリカなどの地域ではまだ高い。先進国とは異なる判断基準があることを理解しないと判断を誤ってしまう。直接にしろ、間接にしろ、収集した情報を適切に分析するための組織作りが大事になる。

 第2の要件は「多様性をマネージする能力」である。多様性には、国籍や民族・性別・年齢など様々な要素がある。多様な価値観を認めることが重要になる。

自社の理念・哲学を見据えバックボーンを明確にする

 そして、第3が「オープンでチャレンジングな組織風土」である。チャレンジングの意味は、ある程度リスクを背負ってやることだ。「ザ・レスト」の状況、ニーズをすべて理解するのは、まず不可能だろう。かといって、理解してからやるのではビジネスチャンスを逸してしまう。理解すべきものには、その国の歴史や文化、法制度、商習慣など様々あるが、ある程度リスクを受け入れてチャレンジする組織風土が不可欠になる。

 これはグローバル経営だけでなく、国内の経営でも同じことが言える。必ずしも、何でもオープンに、チャレンジングにやればよいというものではないが、そのスタンスは大切だ。そして、何が重要かを判断するためにも知識が必要になる。

 グローバル企業が成功する要件の第4は「組織を貫く理念・哲学」であり、これが最も重要である。チャレンジングな精神とともに、自社は何のために誰のために存在するのかを問い、近い将来の目標だけでなく、長期的な視野で自社の理念・哲学を見据え、経営を行うためのバックボーンを明確にする。そこで重要になるのが、価値理念主導のリーダーシップである。

 企業には固有の大切な価値理念があり、組織を構成する人たちがそれを共有する。そして、部門の活動や社員の行動に理想、ビジョンという形で展開する。この価値理念、理想、ビジョンによる企業経営の考え方は、哲学者の今道友信氏がおっしゃっていることである。

 第5の要件は「グローバルな経営環境に対する企業力」だ。グローバル化が当然のようになり、今後、その中身が問われるようになる。日本の企業が世界の中で存在感を示していくためには、企業のブランド力とトップのステーツマンシップが重要になる。

 そして、リーダーには総合的な人間としての魅力が必要だ。そのためには、人間に対する理解力が不可欠になる。また、経営者を表す言葉にCEOがあるが、経営者は経営の結果に対する「最高責任者」ではなく、最終的に責任を負う「最終責任者」としての覚悟を持つ必要がある。経営のスタイルはいろいろあるが、最終的には自分らしくやることを徹底する。これが、「ザ・レスト」へ進出するグローバル時代のリーダーに求められているのである。