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三菱重工業 代表取締役 常務執行役員 技術本部長 青木 素直氏
三菱重工業
代表取締役 常務執行役員 技術本部長
青木 素直氏

 三菱重工は、13の事業所で約700の製品を作っている。当社のモノ作りの特性はBtoB型で、受注生産品が多い点にある。受注型の製品の場合、お客様に1対1で対応しなければならない。しかも、多品種少量生産。こうしたことから、業務の生産性向上が難しいという課題を抱えている。

 一方、当社を取り巻くビジネス環境も、大きく変化している。新興国の経済成長に伴うグローバル市場の拡大、その中での競争激化や原材料の高騰。同時に、世界的な環境意識の高まりという大きな流れもある。エネルギーや環境分野の事業を多く持つ当社にとって、これらの変化はチャンスだが、ビジネスリスクも増大している。

 例えば、グローバル化により、ガスタービンの市場価格は大きく低下した。あらゆる製品分野で技術の平均化、コモディティ化が進行しつつある。かつては大規模なメーカーしか持てなかった高度な解析力を、今では多くのメーカーやサプライヤーが手にしている。設計や製造プロセスの付加価値は低下し、より上流のマーケティングや調達、より下流のサポートなどの付加価値が高まっている。

 別の観点だが、若者の工学離れという課題もある。近年、大卒者に占める工学部卒業者の比率は低下傾向にある。絶対数はさほど変わっていないが、質的な面を考慮すれば楽観できる状況にはない。“匠の技”に頼らなくても業務を遂行できるよう、仕組みやツールの整備が求められている。

徹底的な標準化・共通化を部品のレベルでは実行する

 このような変化の中で、当社はモノ作りの革新に取り組んでいる。そこには標準化・共通化の推進、サプライチェーンの革新、製品の信頼性向上という3つの側面がある。いずれも、ITの活用なしには実現できないものだ。

 この活動には企業風土改革の面もある。従来の受注品をその都度設計するというモデルから、できるだけ図面を描かずに製品を作る量産的な生産システムへの転換は、それほど大きな変化を伴うものだ。とはいえ、お客様のニーズに適合しない製品であれば、買ってもらうことはできない。そこで導入したのが、MC(マスカスタマイゼーション)とMD(モジュラーデザイン)というコンセプトである。

 MCMDはお客様のニーズを収集・分析して、共通部分と個別部分を切り分け、それに合わせて設計や製造を行うという考え方だ。お客様の要望に対して擦り合わせを実現しつつ、部品のレベルでは徹底的な標準化・共通化を行う。こうして、部品の種類や点数を減らすのである。

ニーズを徹底的に分析し思い切った標準化を実現

 MCMDによるメリットは様々である。例えば、サプライヤーの標準部品を利用することで、設計の部分を最小化できる。まとめ買い、先行手配が容易になるので、調達コストの低減が可能だ。また、設計を標準化すれば該当部分の図面が固定されるので、サプライヤーとの長期的な関係を構築しやすくなる。製造までのリードタイムの短縮という効果もある。工作機械の新シリーズでは、お客様ニーズを徹底的に分析したうえで、思い切った標準化を実現。大物部品9種類を組み合わせて、24種類の仕様に展開できるようにした。その結果、リードタイムを削減できた。

 工作機械のような製品だけでなく、私たちはMCMDのコンセプトをプラントにも持ち込もうとしている。お客様のニーズをパターン化して、設備をいくつかのユニットに分割。そのユニットを標準化する。案件によってプラントの配置が変わっても、標準化されたユニットを使えるようにするのである。汚泥炭化プラントでこの手法を実施したところ、全体のプロセスを短縮できた。

経営トップの意思決定と戦略実行をサポートする

 以上のような取り組みを通じ、当社は「デジタルモノ作り」への変革を進めている。目指すのは試作レスによる1台目からの量産コスト、そして歩留まり100%の実現である。高い目標だが、こうした能力を身につけなければ、労賃の安い国々に勝てない。

 デジタルモノ作りの大きなポイントは、従来の“匠の技”に頼った生産体制からの脱却である。そこで、当社技術本部の技術者が数百人単位で各工場に出向き、革新的な製造プロセスの開発に当たっている。シミュレーションや品質工学を用いて、生産性を大幅に高めるための知恵を絞っている。

 多品種少量生産の弱点は、製品当たりの社員数が少ないことである。それをカバーする有効な方法は、バリューチェーンを流れる情報の量を減らすことだと考えている。1人の社員が処理しなければならない情報量が一定の閾値を超えると、ミスが発生してしまう。MCMDによる標準化・共通化は、この観点からも重要である。

 部品やユニット単位での標準化に伴い、業務プロセスの標準化も推進できる。多品種少量生産のプロセスには製品個別の業務が多く含まれており、その標準化は困難と思われるかもしれない。しかし、現場をじっくり眺めると、繰り返し性のある業務を多数発見できる。このプロセスをテンプレート化して、バリューチェーンを効率化するのである。

 その際に、ITは不可欠である。人に仕事を付けるのではなく、仕事に人を付ける。それを業務支援システムで支え、業務フローを透明で明確なものにしていく。これが、当社におけるIT活用の基本的なアプローチである。

 今や、ITを抜きに経営を考えることはできない。経営戦略を支えるIT戦略という視点から、当社はIT部門の改革にも着手している。ユーザー部門の要求だけに追われるのではなく、経営トップの意思決定と戦略実行をサポートするIT部門へ。それは三菱重工の“組織IQ”を高め、スピード経営の実現につながる道であると確信している。