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 本コラムの「ネット法(1)(2)(3)(4)」でも取り上げましたが,著作権法に「一般的包括的権利制限規定」(いわゆる,フェアユース規定)を導入する方向で本格的に検討が始まっています。現在は,どのような形で著作権法にフェアユース規定を盛り込むのか,どのようなメリットとデメリットがあるのかといったことを議論している段階であり,著作権法にどのような規定を盛り込むのかがある程度具体的に固まった段階ではありません。

 しかし,具体的な規定の内容が明らかになってしまってからでは,そこから修正することはかなり難しいと思います。詳細については後で触れますが,フェアユース規定がどのような形で盛り込まれるかは,著作権の保有者だけでなく,著作物の利用者,著作物に関連する事業を展開する企業に大きな影響を与えます。特に,IT関連の事業者にとって関わりが大きい問題と言えるでしょう。

 そこで,フェアユース規定に関する議論の動向を知っていただくと共に,ITpro読者の皆さんにも,どのようなフェアユース規定を盛り込むべきかを考えて,自らの考えを発信していただきたいのです。そのため,今回から数回にわたって,現段階におけるフェアユース規定に関する議論の状況およびその前提となる情報を提供していきます。

個別規定型の権利制限では規定以外の複製行為は違法になる

 まず,そもそもなぜフェアユース規定の導入が必要と考えられているのか,おさらいしたいと思います。

 理由の一つは,現在の著作権法における個別的な権利制限規定では,柔軟かつ迅速な対応ができないため,これを改善することにあります。現在の著作権法は,著作権法30条から同49条にかけて個別的な権利制限規定を置き,著作者の利益と著作物の利用の自由の調整を図っています。例えば,次のような形の規定があります。

47条の3(保守,修理等のための一時的複製)
記録媒体内蔵複製機器(複製の機能を有する機器であって,その複製を機器に 内蔵する記録媒体(以下この条において「内蔵記録媒体」という。)に記録して行うものをいう。次項において同じ。)の保守又は修理を行う場合には,その内蔵記録媒体に記録されている著作物は,必要と認められる限度において,当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し,及び当該保守又は修理の後に,当該内蔵記録媒体に記録することができる。

2 記録媒体内蔵複製機器に製造上の欠陥又は販売に至るまでの過程において生じた故障があるためこれを同種の機器と交換する場合には,その内蔵記録媒体に記録されている著作物は,必要と認められる限度において,当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し,及び当該同種の機器の内蔵記録媒体に記録することができる。

3 前二項の規定により内蔵記録媒体以外の記録媒体に著作物を記録した者は,これらの規定による保守若しくは修理又は交換の後には,当該記録媒体に記録された当該著作物の複製物を保存してはならない。

 これは,平成18年の著作権法改正で盛り込まれた規定です。平たく言うと,携帯電話などの電子機器を修理する際に,そのメモリーに記録されている著作物を誤って消去しないように外部の記憶媒体に一時的にコピーする行為や,当該電子機器が故障して修理することができない場合に同種の電子機器に著作物をコピーすることを認めるための規定です。

 常識的に考えれば,このような行為によって著作権者に具体的な被害が生じるわけでもなく,当然認められるべき行為だと考えられます。ところが,この改正規定が盛り込まれる前には,外部記憶媒体に一時的にコピーすることも著作権法上の「複製」に該当する以上,合法的な行為だとは言い切れないものだったのです(だからこそ,わざわざ改正したという言い方もできるでしょう)。

 個別規定型の権利制限では,「個別規定に定められている事項以外の複製等の行為は違法である」という判断になりがちです。当然認められるべきだと思われる著作物の利用行為であっても,著作権法の改正という形をとらなければ適法化が図れないことになります。さらに,上記の「保守,修正等のための一時的複製」も技術の進展に従い顕在化した問題ですが,当然ながら法改正には時間がかかりますので,技術の進展にブレーキをかけかねないという問題があるわけです。

 これと同様の問題をはらんでいるのが,検索エンジンについての問題です。既に本コラムでも紹介したように,検索エンジンは現行の著作権法上,完全に合法的であるとは言い切れません(注1)。技術の進展により著作権法上グレーな部分がどうしても出てくるのは避けられず,何らかの方策が必要なのです。

 検索エンジンの著作権法上の扱いについては,個別規定を盛り込むことで解決する方向のようですが,個別規定による解決には2つの問題があります。1つは,技術の進展の速度からすると「いまさら権利制限規定を設けられても…」という迅速さの点,もう1つは現時点(立法化段階)での「検索エンジン」の機能(あるいは予測できる範囲内での機能)しか合法化されないという問題がやはり残ることです。

 このように,現状の個別規定による権利と利用のバランスの取り方には限界があります。私自身も,現状の個別規定では限界であり,何らかの形でフェアユース規定を導入する必要があると考えています。

 フェアユース規定導入の機運が高まっている今,問題はどのような形式のフェアユース規定を導入すべきかということです。最初に申し上げたとおり,現時点では具体的なフェアユース規定の形は見えていません。そこで次回は,現時点で考えられるフェアユース規定のバリエーションとそれぞれのメリット,デメリットについて考えたいと思います。

(注1)平成19年度著作権法改正の動向(4)権利制限規定で検索エンジンの法的リスク回避を検討

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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。