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総務省の通信プラットフォーム研究会が,モバイル市場活性化に向けた基本方針を固めた。通信事業者に対して,端末認証など各種プラットフォーム機能の連携強化を求めている。事業者の反発は必至だが,モバイル業界の構造改革に取り組む総務省は,業界団体を設立するなどして当事者間の対話による解決を目指している。

 総務省は,通信プラットフォーム研究会が2008年8月に開催した会合で,報告書のたたき台となる「検討の方向性(第1次案)」を提示した。ここから見えてきた総務省の方針は,通信事業者がそれぞれ持っているプラットフォーム機能を,外部のサービス事業者が連携して使えるようにする。

 これにより新たなビジネスを作り出すことである。具体的には,携帯電話事業者の認証・課金プラットフォーム機能をクレジット事業者などの決済プラットフォームと連携させる方向性や,契約する携帯電話事業者を切り替える際にメール・アドレスやコンテンツを引き継げる環境を整備していく考えなどを打ち出している(図1)。

図1●検討の方向性が見えてきた総務省の通信プラットフォーム研究会<br>認証・課金プラットフォーム機能などの連携強化を図り,新事業創出の促進などを目的に2008年2月から開催している。ここでは,検討の方向性(第1次案)から注目すべき検討項目をピックアップした。垂直統合型のモバイル・ビジネスと水平分業型の固定系ビジネスを分けて検討する方向性が示され,特にモバイル・ビジネスに対して多くの検討項目を含むものになっている。最終的には11月に完成させる。
図1●検討の方向性が見えてきた総務省の通信プラットフォーム研究会
認証・課金プラットフォーム機能などの連携強化を図り,新事業創出の促進などを目的に2008年2月から開催している。ここでは,検討の方向性(第1次案)から注目すべき検討項目をピックアップした。垂直統合型のモバイル・ビジネスと水平分業型の固定系ビジネスを分けて検討する方向性が示され,特にモバイル・ビジネスに対して多くの検討項目を含むものになっている。最終的には11月に完成させる。
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モバイルの課金にクレジット会社も

 研究会が示した検討の方向性は多岐にわたるが,プラットフォームの連携強化による認証・課金手段の多様化は,市場活性化の効果が特に大きいという声がある。研究会に参加するジェーシービー(JCB)の森克実 市場開発企画部長は「携帯電話事業者以外のサービス提供者がモバイル端末の認証・課金プラットフォームを利用できれば,市場は今の10倍以上に拡大する」という。

 現在の携帯電話上での決済時の本人認証方法は,契約時に設定した4けたの暗証番号と端末固有の機体番号を携帯電話事業者が用意する認証・課金プラットフォーム上で照合する形が一般的。利用者は4けたの暗証番号を入力するだけで,携帯電話を使って商品を購入できる(図2)。

図2●携帯電話事業者以外の認証・課金プラットフォームを実現する方法<br>JCBが研究会の中で提案した。契約時に申込書に,外部の認証・課金機能を選択できる欄を用意しその情報を端末機体番号と4けたの暗証番号とひも付けることで実現可能という。現在の携帯電話事業者の認証・課金プラットフォームでは難しい高額決済や,携帯電話事業者を移行しても決済したコンテンツを引き継げるといったメリットが生まれる。
図2●携帯電話事業者以外の認証・課金プラットフォームを実現する方法
JCBが研究会の中で提案した。契約時に申込書に,外部の認証・課金機能を選択できる欄を用意しその情報を端末機体番号と4けたの暗証番号とひも付けることで実現可能という。現在の携帯電話事業者の認証・課金プラットフォームでは難しい高額決済や,携帯電話事業者を移行しても決済したコンテンツを引き継げるといったメリットが生まれる。
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 JCBによれば,携帯電話事業者は,クレジット会社のように利用者の信用情報を細かく調べる体制を整えていないという。そのため,携帯電話事業者はリスク回避のために,決済額の上限を2万~5万円程度に制限しており,「本来なら,携帯電話からクルマだって売買できるにも関わらず,電子コンテンツや本,洋服など単価の安い商品しか売買できない」と森部長は指摘する。

 現在でも,クレジット会社の認証・課金プラットフォームを利用すれば高額決済が可能だ。ただし,携帯電話のブラウザ上でクレジット番号を入力する必要があり「利用している人がほとんどいないのが実態」(森部長)という。

 森部長は,携帯電話事業者と連携した決済機能を提供できれば,携帯電話上で高額決済市場を開拓できると語る。具体的には,利用者が携帯電話端末を購入する際,外部の認証・課金プラットフォームも選べるようにする。これにより,クレジット会社は通信事業者から4けたの暗証番号と機体番号を取得,自社が保有するクレジットカード番号とひも付けることができる。「これによって市場全体が拡大するだろう。携帯電話事業者の決済分野のシェアが減るかもしれないが,モバイル決済市場全体が活性化すれば通信事業者の売上げも伸びるはず」と森部長は説明する。

「強制はしない」と総務省

 研究会が目指しているのは,プラットフォーム機能の連携強化により,多様な業態のプレーヤが新たなビジネスを創出できる環境作りだ。モバイル決済事業者の多様化は研究会が目指す方向性の一例で,認証・課金機能のほかにも,位置情報,QoS制御機能,サーバーと端末間でコンピューティング機能を提供する“クラウド・コンピューティング”を含む,幅広い議論を進めている。

 通信プラットフォーム研究会を取りまとめる総務省情報通信国際戦略局の谷脇康彦情報通信政策課長は「海外からは“クラウド”をはじめとした既存のビジネスの地殻変動を起こすような動きが出てきた。いつまでも既存のビジネスモデルに固執していると,今後の成長分野をグローバル・プレーヤに奪われかねない。通信ビジネスも次のステップに踏み出す時期が来ているのではないか」と研究会の狙いを説明する。

 ただし,モバイル決済一つをとっても,携帯電話事業者がすんなりと提案をのむとは考えにくい。研究会に参加する携帯電話事業者は今のところ大きな反発は見せていないが,11月に予定する最終報告書の取りまとめに向けて議論が具体化する中で,反論を出してくる可能性がある。

 研究会が出した方針案が実現されるかどうかは,総務省のこれからの舵取りにかかってくるだろう。総務省の谷脇課長は「携帯電話事業者を規制で縛るつもりはない」とし,通信事業者に対して強制はしないという。

 関係する事業者間で収益を共有できるビジネスモデルを作っていくことが重要になるが,当事者間の利害調整が進まなければ,研究会の方針を実行に移すのは難しい。「規制では縛らない」とする総務省も,新ビジネス創出に向けた具体的な活動計画を描いている。「研究会の終了後,そのビジョンに賛同するプレーヤを募って新ビジネス構築に向けたフォーラムを立ち上げる計画。研究会の内容を実際のビジネスにつなげていきたい」(谷脇課長)と語る。

 本来なら事業者同士が率先して新しいビジネスモデルを作ることが望ましい話だが,硬直化した状況に総務省が業を煮やした結果と言える。ここから一つでも世界に通用するビジネスモデルが出てくれば,研究会は意義があったということになる。