最近,拠点に散らばったサーバーを1拠点に集めて運用するケースが増えている。サーバー管理が楽になり,情報漏えいのリスクも抑えられるからだ。こうした運用をすると,離れた拠点からWAN経由で遠隔にあるサーバーにアクセスする必要が出てくる。そこで活躍するのがWAN高速化装置である。
WAN経由だとスループットが出ない
WAN回線に十分な帯域があったとしても,実際に通信すると思ったほど通信速度が出ないことが多い。LANの通信では問題にならなかったパケットの遅延が影響するからだ。
例えばTCPの通信は,受信側が送信側に応答パケットを返し,送信側はこの応答パケットを待ってから次のパケットを送り出すしくみになっている。このやりとりが頻繁になると,相手からの応答を待っている時間が積み重なってスループットが低下する。
これは,アプリケーション層のプロトコルでも同様だ。例えば,Windowsのファイル共有で使われるSMB/CIFS(シフス)では,転送するファイルを小さなデータに区切り,1個のデータを送信するごとに応答パケットを待つ。そのため,1個のファイルを送信するだけでも,実際には何百回,何千回ものやりとりが発生する。その結果スループットが低下してしまう。こうした問題を解消するのがWAN高速化装置である。
独自のプロトコルを使って高速化
高速化を実現するための機能は大きく三つ。(1)TCPの高速化,(2)アプリケーション・プロトコルの高速化,(3)データのキャッシュ/圧縮──である(図9)。
(1)のTCPの高速化と(2)のアプリケーション・プロトコルの高速化は,WAN高速化装置の間のやりとりを独自プロトコルに書き換える。一度に送れるデータのサイズを増やし,やりとりの回数を減らして遅延の影響を受けにくくする。
(3)のデータのキャッシュは,利用頻度の高いデータを機器に保存しておき,WAN回線を経由せずにデータをクライアントに返す機能である。圧縮は,データを圧縮することでWAN回線に流れるデータ量を少なくする。
WAN高速化装置の中には,帯域制御機能や優先制御機能を備えた製品もある。帯域制御装置の機能を取り込み,「WAN回線を効率的に使う機器」として進化しているわけだ。