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 ソフト会社のM&A(合併・買収)を推し進めるキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)が、2010年度にITサービス事業で売り上げ3000億円を目論む「ITS3000計画」の達成に向けて、奥の手を使い始めた。親会社であるキヤノン向けのITシステムの構築・運用にも深く関与することで、ノウハウを獲得。07年度の同事業の売り上げ約1710億円を、あと3年で3000億円にする究極の策と見た。

 これまでキヤノンMJは、キヤノンのITシステム構築・運用を手掛けてこなかった。キヤノンは自前のIT子会社を持っていないこともあり、大手ITベンダーなどに構築・運用を依頼していたという。キヤノンMJにとっても、今までの主力事業は複写機やプリンターなどのビジネス機器、デジタルカメラといったコンシューマ機器、半導体装置などを扱う産業機器だった。あまりキヤノンのITシステムに関与する機会はなかったようだ。

 だが、こうした主力事業は転換期を迎えている。08年上期の売上高は、軒並みマイナスになっており、キヤノンMJを取り巻く経営環境は厳しさを増している。その一方で、ITサービス事業は成長を続けており、08年上期の売上高は前年同期比で30%増となっている。ITサービス事業の拡大は、キヤノンMJの成長に欠かせない存在なのである。

 そこで06年にぶち上げたのが「ITS3000計画」だった。新規事業としてITサービスを位置付け、03年1月に住友金属システムソリューションズ、07年6月に年商200億円超の中堅ソフト会社アルゴ21を買収するなど着々と規模を拡大し、08年4月に2社を合併させたキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)を中核事業会社にしたITサービス提供体制を固めてきた。08年8月にはニイウス コーとビックカメラの合弁会社で、沖縄にデータセンターを持つビックニイウスも買収している。

 そして「IT3000計画」の達成を実現するための究極の策こそ、キヤノンのITシステムの構築・運用に携わることだったのである。

 ITサービス事業を統括する浅田和則専務取締役は、「キヤノンの物流系や基幹系などのシステム案件には、既にキヤノンITSが入りつつある。キヤノンの御手洗冨士夫会長や内田恒二社長も、協力してくれているという」と話す。

 ただし、いきなりキヤノンMJが独力でキヤノンのITシステムをすべて開発するのはまだ難しい。当面は他のITベンダーとの協業という形になるようだ。

 キヤノンのITシステムを手掛けることで今後、キヤノンMJは大規模システムの構築や運用、さらにはグローバルなITシステムに関するノウハウをつかんでいくという。グローバル展開できるだけの力をつけることができれば、ITサービス業界のトップグループに仲間入りする可能性も出てくるだろう。

 ITサービス事業といっても、複写機やプリンターなどを扱うだけでは、ソリューションとして限界があると、キヤノンMJは認識している。「基幹系システムと連携したソリューションを提供しなくてはユーザーに受け入れられない。このためグループ内に新たな開発リソースが必要となると判断し、M&Aにも乗り出した」(浅田専務取締役)という経緯がある。

 ITサービス市場で存在感を増し、日本を代表するITサービス会社として成長するには、キヤノンとどこまで連携できるかにかかっている。

 「キヤノンとの連携を強めることで“キヤノンブランド”をITサービスのジャンルでも作り上げたい。そうすれば、競合他社との差異化につながるはずだ」と浅田専務取締役は話す。

 今後は、従来から手掛けているドキュメント関連のソリューションに加え、パッケージソフトの開発、さらにはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などのサービスモデルも新たに取り入れていく方針。高品質や高技術などを売り物にして、付加価値の高いソリューションを提供していくという。