PR

 完了報告書は稼働後に一から作ればよいと考えていたら,それは間違いだ。完了報告書に記載すべき項目は計画時に作っておき,完了時に空欄を埋めていくというアプローチが正しい。時間の節約にもなるし,残すべき情報を確実に取得できるからだ。

 よい記録を残すには,事前の準備が重要である。ステップ(1)~(3)でどんな準備をすればどんな記録が残せるかを見ていこう。

step 1 計画書を用意する
報告書の項目ごとに対比する

 まずは,携わっている案件のプロジェクト計画書を手元に用意しよう。コンサルタントの大砂古佳基氏(ブレインプロ 代表取締役)によれば,プロジェクトを事後に評価する観点は二つある。「一つはプロジェクトの目的を達成できたか,もう一つはプロジェクトをうまく推進できたか」である。

 前半は,計画書の「プロジェクトの趣旨」「導入の目的」に書かれている内容と対比して評価できる。後半は同じく「スケジュール」「コスト」などと比較して評価する。

 当初の想定と比べてどの程度これらが達成できたのか,それは予定していた期間内,コスト内で達成できたのか,達成されなかったとすればどの程度達成できなかったのか,その理由が何なのかをチェックするのが,完了報告書の肝である。

 実際に現場担当者が作成した計画書と報告書を見てみよう。図2は,携帯電話のコンテンツ配信システムを開発するゆめみが作成した計画書(左)と完了報告書(右),それぞれの抜粋である。一見して分かるように,左右を対比して作っている。

図2●STEP1 計画書を用意する<br>計画との差異を洗い出し,その差異が生まれた理由を分析してみよう。図は,ゆめみが作成している計画書と完了報告書。項目ごとに対比させて作成している。
図2●STEP1 計画書を用意する
計画との差異を洗い出し,その差異が生まれた理由を分析してみよう。図は,ゆめみが作成している計画書と完了報告書。項目ごとに対比させて作成している。
[画像のクリックで拡大表示]

 この中からリソースの項目に注目してみる。計画書の「見積原価」に対して,報告書では「実績原価」を用意し,さらに「予実差」を記入するようにしている。計画書の項目ごとに,この予実差をチェックし,その乖離を分析していけば報告書は自ずとできあがる。ゆめみでは「計画書と報告書は,一つのExcelファイルの中で,シートを分けて作っている」(PMO部 部長 國府田勲氏)。

 このような形で完了報告書を作るようになったのは2005年の初めから。「それ以来,メンバーの間でドキュメント整備の意識が高まった」(國府田氏)という。同社が受託する案件は,10~40人月程度の開発規模が多い。そのクラスのプロジェクトでもこのレベルの記録は残しておけるし,十分に後で役に立つ。

 プロジェクト計画書という整形されたドキュメントを作っていない現場もあるだろう。それでも,システムを開発する目的や工数,予算,スケジュールなどの情報は少なくともキックオフの時点では,どんなプロジェクトでも考えているはずだ。計画書の代わりに,それらの情報を用意すればよい。

step 2 「何を」「どう」記録するかを決める
計画時にフォーマットを作っておく

 計画書を手元に用意したら,次に報告書に「何を」「どう」書くのかを決めよう。PM向けの研修などを手掛ける示現塾の金子則彦代表は「プロジェクトから得られる教訓やノウハウは“そのとき”“その場所”にしかない」と指摘する。終わった後に振り返っても,詳細なデータや経緯は既に取得不能で手遅れとなってしまう。

 ソフトウエアの品質指標となりうるテストやレビューの結果などは,その典型だ。「ドキュメントに何件不備があったか,プログラムに何件バグがあったか,こういう情報は最初から残そうという意識で臨まないと残らない」(PM向けの研修などを手掛けるテクノサージ 取締役ビジネスコソーシング本部長 勝藤彰夫氏)。

 プロジェクト・マネジメントを丁寧に実施している現場なら,こうしたデータはマネジメント資料の中に残っているかもしれない。そのような資料を残していない現場であれば,そうしたデータをどのように取得し,どのように記録しておくかも決めておかなければならない。

 図3は「情報システムの導入効果を書く」と決めた完了報告書の抜粋である。ラストリゾートの名取和高氏(情報システムグループ チーフ)が作成したものだ。具体的には,今回のシステム導入によって各利用部門でどの程度の業務効率化が実現できたのかを定量的に測定した結果を記入する。このようなデータは「売り上げのデータを見たり,メンバーが時計を見ながら実測したりして取得する」(名取氏)。プロジェクト計画の段階で,そこまで決めておくのである。

図3●STEP2「何を」「どう」記録するかを決める<br>報告書にどんな情報を記載すべきかをあらかじめ決めておこう。後で記載しようとしても取得できない情報もあるからだ。図は,ラストリゾートが作成した計画書の抜粋。完了報告書ではここに数値を入れる。
図3●STEP2「何を」「どう」記録するかを決める
報告書にどんな情報を記載すべきかをあらかじめ決めておこう。後で記載しようとしても取得できない情報もあるからだ。図は,ラストリゾートが作成した計画書の抜粋。完了報告書ではここに数値を入れる。
[画像のクリックで拡大表示]

step 3 「誰が」「いつ」報告するかを決める
完了条件を具体的に定義する

 報告書の中身を決めたら,それを「誰が」「いつ」作成するのかを決めよう。できればこれもプロジェクトの計画時に決めておきたい。

 公式な完了報告書を作成するのは一般にマネージャやリーダーだが,情報の種類によってはメンバーに記録が託される。また,記録する内容によっては各メンバーが執筆を担当することもある。

 当たり前だが,プロジェクトが完了しなければ報告書の全項目を埋めることはできない。ゆめみの國府田氏は「プロジェクトの完了条件を決めておくことは大切だ。そうしないと,いつまでもだらだら続いてしまうことがある」と指摘する。キックオフの時点で「保守チームへの引き継ぎや改善要望の取りまとめなど運用体制が整備された時点でプロジェクトを完了する」というようにメンバー同士で合意する。

 ブレインプロの大砂古氏は「完了条件はなるべく具体的に定義しておくのが望ましい」と話す(図4)。報告書を作成するタイミングは,プロジェクト完了後,1カ月程度,遅くても2~3カ月のうちに作る開発現場が多いようだ。「稼働後しばらくはバグ対応などの作業が忙しい。また,稼働後の不具合件数や対応履歴も報告書に記載すべき内容となる。それが一段落するタイミングで報告書を作るのが望ましい」(大砂古氏)からである。

図4●STEP3 「誰が」「いつ」報告するかを決める<br>完了報告書を作成する人と作成するタイミングを決めておこう。図は,ブレインプロが作成している完了報告書のひな型。
図4●STEP3 「誰が」「いつ」報告するかを決める
完了報告書を作成する人と作成するタイミングを決めておこう。図は,ブレインプロが作成している完了報告書のひな型。
[画像のクリックで拡大表示]