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奥野 克仁
NTTデータ経営研究所
内部統制担当シニアコンサルタント

 金融機関は1990年代からシン・クライアントを導入してきた。ただ,その利用は部門単位など限定的な規模にとどまってきた。高い信頼性が求められる金融機関のシステムの中でシン・クライアントという比較的新しい技術の利用には躊躇(ちゅうちょ)があったからだ。

 その中で,多数の拠点で利用するシン・クライアント・システムの構築に乗り出したのが鹿児島銀行である(図1)。最終回の今回は,前例や客観的な基準が全くない中で,大規模なシン・クライアントの導入に成功した鹿児島銀行の事例を紹介する。

図1●鹿児島銀行のプロフィール
図1●鹿児島銀行のプロフィール
2007年9月末時点

80以上の情報系アプリが個別に動く

 鹿児島銀行はこれまで,80種以上のアプリケーションで構成する情報系システムを構築・運用してきた。その際,同行では,個々のアプリケーションの要件に応じて,個別に技術やベンダーを選定し,各業務に最適化させていた。

 こうした導入方法は,現場で業務を担当する行員にとっては最も使いやすいアプリケーションを構築・利用できるというメリットがあったが,その反面,アプリケーションの管理コストの増大を招いていた。個々のアプリケーションごとにベンダーの異なるハードウエアやミドルウエアを導入したため,システムの運用やメンテナンス作業が非常に煩雑になったのだ。

 一方,鹿児島銀行は2008年に情報系のシステム更改を計画していた。そこで2007年ころから,システムの構成について,今後どのようにするかを議論し始めた。選択肢は,(1)従来通り,業務ごとに最適化した個別のシステムを導入・運用する,(2)乱立しているサーバーを統合し,運用・保守業務を共通化する新たなシステムを構築する──の二つだった。

 鹿児島銀行のシステム部は議論を重ねた結果,08年の情報系のシステム更改では,乱立しているサーバーを単一ベンダーのブレード・サーバー群に統合。システム監視と運用・保守を一元化した新システム基盤を構築することになった(図2)。

図2●80個以上ものアプリケーションで構成する情報系システムをブレード・サーバーへ順次移行。同時にシン・クライアントを導入した
図2●80個以上ものアプリケーションで構成する情報系システムをブレード・サーバーへ順次移行。同時にシン・クライアントを導入した

 この背景には,金融機関における情報漏えい事故が頻発して金融庁からの指導が強化されたこと,それに伴い行内の一層の内部統制強化が求められたことがあった。もちろん,システムやアプリケーションの運用コスト削減も期待できた。