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韓国の自治体窓口は、ソウル市のような大都市でも閑散としている。ネットやKIOSK端末によるオンライン申請が普及したためだ。この窓口をワンストップ化し、さらに効率化する動きも進んでいる。(春日 真紀=NTTデータIT政策推進室 課長)

ソウル市麻浦区:ワンストップ化を横展開

 韓国ソウル市の中西部に位置する麻浦(マポ)区は、ソウル市の25自治区の1つだ。人口39万人あまりの、中規模の自治体である。麻浦区役所の窓口には、並ぶ人の姿はほとんど見られない。平日の昼休みでも1人か2人といったところだ。

麻浦区役所の総合窓口。「○○課「」××課」という区別がない。また、電子申請の普及で窓口に来る来庁者は少ない。
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 麻浦区では、自宅のインターネット注1)で、あるいは、駅やコンビニエンス・ストアに設置されたKIOSK端末で、オンライン申請などの様々な行政サービスを受けられるようになって以来、区役所の窓口は閑散としているという。窓口でないと受け付けられない手続きは、出生届や死亡届、婚姻届、不動産登記など一部だけだ(なお、婚姻届は一人での提出が認められていない)。

注1)韓国では2002 年、政府・地方自治体の窓口業務をまとめてインターネットからサービスを提供する「G4C民願システム」を構築した。

 また以前は、区役所で複数の書類をもらう場合、住民はあちこちに移動しなければならなかった。しかし現在は違う。麻浦区役所では「Digital MAPO(デジタル麻浦)」を合言葉に、業務の電子化および総合窓口におけるワンストップ化を実現したからだ。

 麻浦区役所の窓口には「○○課」「××課」という区別がない。すべて「総合窓口」となっており、住民はどの窓口ででもすべての行政サービスが受けられる。分野の異なる複数の書類も、1つの総合窓口で入手できるようになっている。

 こうなったのは、2005年10月に新しい業務システムを導入してからだ。導入後、窓口のどの担当者のパソコンからでも各課のシステムにアクセスが可能となり、必要な書類は各窓口担当者の足下に設置された帳票出力プリンターからいつでも出力できるようになった。帳票出力機は、1台で住民票から各種サイズの台帳までプリントできる。

 新業務システムでは稟議などのワークフローを電子化し、これにより印鑑や収入印紙が不要となり、サービスの提供が迅速化した。また、土地の譲渡に伴う所有権移転登記も電子化されており、2008年3月末からは、全国のどの土地の所有権移転登記であっても、麻浦区だけでなく新業務システムを導入している区役所ならどこでも行えるようになった。

 麻浦区役所の担当課長は、新業務システムのメリットについて次のように語る。「業務負荷が軽減し、人手不足が解消した。昼間でも少ない人数で十分に対応できる。なにより住民の貴重な時間を無駄にせずにすむようになり職員は喜んでいる」。

自治体とベンダーが共同でシステム開発、横展開で自治体に権利収入

 新業務システム導入のメリットはこれだけではない。システムを開発したのはANYTEKSYSという民間企業だが、麻浦区役所との共同開発という位置づけだ。このシステムには中央政府も注目し、2005年に大統領賞を受賞した。政府のお墨付きを得たことが後押しになり、現在は全国150の自治体に導入されている。

 麻浦区はシステムにかかわる知的財産権に基づく収入を、導入した自治体から得ている。ANYTEKSYSは新業務システムのソフトウエア自体は無償で提供する一方で、帳票出力プリンターなどのハードウエアの販売で収益を上げるというビジネスモデルだ。

 「当時、麻浦区には財政的な余裕がなかった」と職員は振り返る。韓国でも自治体間の財政的格差が広がっており、余裕があるのは江南区など一部の裕福な自治体だけだ。「しかし、台所事情の苦しさは、行政サービスの質を落とすことの言い訳にはならない。そこで、ベンダーと組んでビジネスを始めた」という。

 麻浦区役所は、同システムの生みの親という自負もあり、他区からの問い合わせや、導入や運用におけるノウハウの公表について対応を惜しまない。3年間で全国の約6割の自治体に販売できたことで区の歳入増にも貢献している。