NHKの次期経営計画が成立した。経営委員会は2008年10月14日の会合で修正動議を提出して,執行部案に「2012年度から受信料収入の10%を還元する」という項目を盛り込むなどの変更を加えて決議した。経営委員会が次期経営計画案の承認を拒否した2007年9月から1年余りを経て,新たな経営計画の内容がようやく決定したことになる。執行部は「先行きが見通せない経済情勢の中で,4年先の受信料収入の10%を原資にした引き下げを約束できない」と主張した。それに対して経営委員会は,10%という数値を盛り込むことにこだわり,切り札である修正動議の提出によってそれを実現した。
今回の経営計画は2008~2011年度の3年を対象にしている。経営目標には(1)NHKへの接触者率(2008年度は76.9%)を2011年度に80%にする,(2)受信料の支払い率(2007年度末は71%)を2011年度末に75%に,2013年度末に78%にまで高める──の二つを掲げた。この二つの実現に向けて,具体的な対策をまとめた(表)。
次期経営計画の重点項目としては,地上波放送の完全デジタル移行に向けた対策が挙げられる。NHKは2010年度末までに,デジタル中継局を約2200局にまで増やすことを計画する。この結果デジタル中継局の数は,2008年度に対して約3倍になる。さらに放送局内にある放送設備などのデジタル対応を推進する。これらの対策費用として,2009年度からの3年で1155億円を見込む。これ以外に地上波放送のデジタル移行によって新たに発生する難視聴世帯への対策なども実施する。これらの対策のために,3年で約660億円の追加費用を計上した。
受信料の公平負担に向けた取り組みとしては,受信料の契約・収納業務の効率化を進める。NHKは地域スタッフを3年で1000人程度削減する一方で,契約・収納業務を外部に委託して,より少ないコストで受信料の支払い率を高めることを目指す。未契約世帯への民事手続きの活用や,支払い滞納者への督促の全国展開も推進する。さらに業界団体による取りまとめを活用した支払い促進策も進める。
受信料の未払い対策の強化によって,2012年度から受信料収入の10%を視聴者に還元できる収支構造を構築する。具体的な還元方法については,2009年度から検討を開始する。NHKの執行部は,次期経営計画案を作成する過程で受信料体系の見直しに関する議論を進めており,市町村民税の非課税世帯で経済的に厳しい状況にある高齢者の受信料免除や,衛星付加受信料の引き下げを具体案として検討していた。今後,これらの案を含めて,適切な還元方法を模索する。受信料の一律引き下げや免除の対象拡大,家族割り引きや事業者割り引きの引き下げ幅の拡大などが選択肢となる。
放送・通信融合時代の新サービスの推進に関する項目では,「NHK on 3-Screens」(テレビとパソコン,モバイルのそれぞれを対象にするサービスの提供)の実現に向けた取り組みを進める。「放送と通信にコンテンツを同時送信するサービス」などの提供を目指す。