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 日本国内の携帯電話の販売台数が前年同期に比べて2割も減少──。携帯電話事業者や端末メーカーの第1四半期決算が出そろった2008年7月,恐れていた事態が現実化した。

 しかし,これは単なる序章に過ぎない。目の前には,オープン化とグローバル化という業界全体に構造変革を迫る大波が押し寄せている。これまでの携帯電話事業者の垂直統合型ビジネス構造が崩れ,多種多様なプレーヤが国境や業種の垣根を越えて参入しようとしている。

iPhoneが見せつけた事業者“中抜き”モデル

 「このままでは日本に何も残らない。携帯電話事業者は“土管”と化し,収益はすべて他国に吸い上げられる」──。ある総務省の幹部は,携帯電話業界で起こり得る“国内産業空洞化”という最悪のシナリオを口にする(図1)。

図1●オープン化とグローバル化によって起こり得る国内産業空洞化のシナリオ<br>コンテンツ配信や商取引など多くのサービスが米アップルや米グーグルが構築したネットワーク上で行われるようになると,収益の多くが海外に流出する。結果として国内の携帯電話事業者の収益源は回線料金に依存し,国内市場で得られる収益は目減りする。
図1●オープン化とグローバル化によって起こり得る国内産業空洞化のシナリオ
コンテンツ配信や商取引など多くのサービスが米アップルや米グーグルが構築したネットワーク上で行われるようになると,収益の多くが海外に流出する。結果として国内の携帯電話事業者の収益源は回線料金に依存し,国内市場で得られる収益は目減りする。
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 それは,既に現実化しつつある。一例が,7月に日本に上陸した米アップルのiPhone 3Gだ。端末そのものの魅力だけでなく,従来の携帯電話事業者が主導するビジネスモデルを覆したことが注目に値する。アップルは,iPhone 3Gを全世界で販売することを前提に製品を開発した。携帯電話事業者の意向に関係なく,同社が開発のイニシアティブを握る。

 これだけならフィンランドのノキアをはじめとする大手メーカーと同じだが,アップルはノキアですらできなかった離れ業をやってのけた。アップルは,上位レイヤーのサービスで携帯電話事業者を“中抜き”にしたのだ。iPhone 3G向けのアプリケーションを流通させる「App Store」では,独自の課金・決済システムを用意し,ユーザーがアップルから直接アプリを購入できるようにした。ここには,通信事業者が入り込む余地がない。

 ただし,iPhone 3GもApp Storeも一部の要素に過ぎない。前述の総務省幹部は「アップルのビジネスで注目したのはiPhoneではない。“MobileMe”だ」という。MobileMeはアップルが用意するサービスの一つで,電子メール,連絡先,カレンダーなどのユーザーのデータをインターネット上で一元管理するもの。iPhoneだけでなく,パソコンからでも利用できる。端末を問わずにインターネットのサービスを利用できる,アップル版の“クラウド・コンピューティング”環境と位置付けられる。

 MobileMeも,携帯電話事業者とは関係なしにアップルがユーザーに対して直接サービスを提供する。MobileMeの利用から得られるユーザーの挙動は,携帯電話事業者からは全くうかがえない。携帯電話事業者は,単なる“土管”の役割を果たしているに過ぎない。

グーグルも「Android」でモバイル市場に参戦

 米グーグルも,携帯端末向けのソフトウエア・プラットフォーム「Android」を足掛かりにしてモバイル市場に進出し,同社の収益源である広告ビジネスの領域を拡大しようとしている。

 グーグルがAndroidの投入で狙うのは,「Android端末が,グーグルのクラウド・コンピューティングのサービスに直結する」(アクセンチュア通信・ハイテク本部の武田智和通信統括エグゼクティブ・パートナー)という世界だ。

 端末の種類は,Androidを実装していればカーナビゲーションやテレビであっても構わない。ユーザーは携帯電話事業者の回線は使うものの,直接グーグルのサービスを利用するようになる。利用端末が増えれば増えるほど,グーグルが提供している広告にリーチするユーザー数は増大するわけだ。