今の世の中にはインターネットが欠かせない。Webアクセスだけでなく,メール,企業内ネットと,あらゆるところで使われている。その基盤になるのはTCP/IPだ。中でも軽量なネットワーク・プロトコルであるIPv4が,世界中の誰もがどことでも,安い費用で通信できるインターネットを実現した。
そのインターネットが,皮肉なことにIPv4の限界によって危機に瀕している。
IPv4は,IPv4アドレスを使って通信する。もちろんIPv4アドレスは,インターネットにつながるユーザーごとに違うものが割り当てられなければならない。そのIPv4アドレスの在庫がなくなろうとしているのだ。「誰もがどことでも」というインターネットの大前提が崩れてしまう日が迫っている。
何も手を打たなければ,IPv4アドレスの在庫がなくなってしまうのは間違いない。そうなれば,インターネットの使い勝手は徐々に悪くなり,そのうち使い物にならなくなってしまう。一方,適切に対策が打たれれば,ユーザーが気付く変化はあまり大きくなく,インターネットの成長も止まらないで済む。
変化は避けられない
いずれにしても,インターネットが今のままであるわけにはいかない。何らかの対策を取ったとしても,ユーザーの利用面でインターネットに何らかの変化が生じることは避けられない。すべてのインターネット・ユーザーが関係する,重大な変化が迫っているのだ。
インターネットの技術的課題を検討する組織であるIETF(Internet Engineering Task Force)では,インターネット接続事業者(プロバイダ)を中心として,インターネットの成長を損なわずに,インターネットの危機に対処するシナリオが話し合われている。
そこでこの特集では,Scene1で,まずIPv4アドレスの在庫がなくなったときに何も手を打たなければ,何が起こるのかを予想する。
続くScene2では,IPv4アドレスが枯渇するまでの時間を延長する「キャリア・グレードNAT」を解説する。ユーザーが使い勝手の変化になるべく気付かないようにしながらIPv4アドレスの枯渇までの時間を延長する手法だ。
ただし,キャリアEグレードNATには限界がある。いつまでも使い続けられるわけでもない。そこでScene3では,次世代のインターネット・プロトコル「IPv6」を使ったIPv6インターネットの導入シナリオを紹介する。
何が危機なのか,どうやってその危機を回避するのかを理解することで,インターネットの未来が見えてくるだろう。


