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 福田康夫前首相の肝いりで、国内排出量取引制度が10月にも試行の形で導入される。前首相は「できるだけ多くの業種・企業」の参加を期待したものの、“大票田”の電機・電子関連企業の判断は揺れている。

 福田前首相は試行的取引の目的を「制度を本格導入する場合の条件や、課題を明らかにすること」と説明。斉藤鉄夫環境大臣は9月19日の会見で、「試行には数千社規模で企業の参加が必要」と述べた。課題を十分に洗い出すには、様々な業種の多くの企業が参加して、排出枠が活発に取引されることが望ましいというわけだ。

 「削減目標は企業が自主的に決める」「総量でも原単位でもよい」とするなど、政府は企業が参加しやすいように配慮した。従来から日本経団連が拒絶する欧州排出量取引制度(EU-ETS)のような、排出枠の上限(キャップ)を政府が決め、参加義務型の手法は採らなかった。

 まず、排出量の多い鉄鋼と電力の出方はどうか。同月17日に政府が開いた「地球温暖化問題に関する懇談会政策手法分科会」で、電気事業連合会は「業界団体として目標を設定することが必要不可欠」との意見書を提出。日本鉄鋼連盟も、「これまで業界単位で排出枠を購入してきた経緯もある。企業単位では業界の結束を崩しかねない」(新日本製鉄の関澤秀哲副社長)と事情を説明する。

 これに対し政府は企業単位での参加を基本としており、業界団体での参加は原則として認めない方針だ。しかし、同時に「厳格に判断」した上で業界団体の参加を認める場合もあるとの見解も示し、業界単位で参加できる余地も残した。

図●主な業界団体・企業の対応
図●主な業界団体・企業の対応
9月初旬から末に各業界・企業に対し、試行への参加や評価を尋ねた。その後変更の可能性もある

 経済産業省幹部は、「鉄連の場合は、排出枠を購入してきたという実績を考慮して、業界単位での参加も認めざるを得ないだろう」と、含みを持たせている。

 ただ、仮にこの2業種が参加しても、社数増への貢献度は小さい。その点、注目されるのは、環境配慮をうたう大企業の多い電機電子業界だ。

エプソン、富士通は前向き

 既にCO2の大幅な総量削減を掲げているセイコーエプソンは参加を表明。富士通、東芝も参加の方向で検討中だ。パナソニックは「今はまだ社内で議論している段階。制度の詳細が公表されたら決める」(大坪文雄社長)方針だが、「仮に参加するなら総量での削減目標を検討する必要がある」(大鶴英嗣取締役)と、前向きな姿勢も見せる。

 そんな中、富士通環境本部の高橋淳久本部長は、「製造・販売した製品の使用時を含めたライフサイクル全体でのCO2削減効果が排出枠になる制度が認められれば参加したい」と話す。これは「製品CDM(クリーン開発メカニズム)」と呼ばれる仕組みで、これまで日本企業が国連に対しCDMの手法として提案してきたが、まだ認められていない。

 電機電子企業の参加を促したい経産省は製品CDMの導入に前向きだが、この手法を巡っては、実際の排出量の測定方法や生み出された排出枠がどこに帰属するかなど、未整理の課題が多い。

 認められるか否かは、排出量取引の試行が始まってから、これと連動する国内CDM(クレジット)制度の運用に委ねられる。同省の思惑通り認められるかは未知数だ。製品CDMによる排出枠を前提に参加にしていいものか、電機電子企業は難しい判断を迫られる。