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 私は5年前から「図解」に関する企業研修を行っていますが,研修というのは講師と受講生とのリアルタイムの対話の場ですから,いろいろと予想外の出来事が起こります。今回はそんな研修の場で遭遇したある事件を紹介しつつ,「図解の技術」についてのよくある誤解について考えてみましょう。

 まずは,教育研修を行うための注意点について語ったある文面をご覧ください。

【手順明確化原則】
「研修」を効果的なものにするためには,その研修が目指すゴール,そしてそのゴールに至る手順を明確にしておかなければならない。何のために何をするのか,どんな作業をどの順番でどのようにするのかを明確にしておかなければ,仕事のスキルを身につけさせるトレーニングはできないのである。

 以上,「手順明確化原則」と題する短い文ですが,読者のみなさんはこの文の内容にどの程度同意されるでしょうか? 100%でしょうか,それとも0%でしょうか。

 いや,基本的には間違ったことは書かれていないので0%にはならないでしょうし,おそらく80%ぐらいは同意される方が多いと思われます。私でも90%ぐらいは同意します。

 ところが,あるとき私がいつものように「図解」研修をやっていたところ,受講生の一人からこんな質問(要望)が飛び出したんですね。

この研修で僕は何ができるようになったと上司に報告すればいいんですか? 何のために何をどうする,というプロセスを示してください,プロセスを。手順を明確に教えてくださいよ!!

 つまり,「私自身でも90%ぐらいは同意」する「手順明確化原則」を実行できてないじゃないか,というのがその受講生の論点でした。

 その会社では同じ研修を何回も開催していましたが,このような指摘を受けたのは初めてでした。正直まったく予想外の事件だったため,いったいこれはどういうことなのかと,その後も機会あるごとにこの件を考えました。そして得た結論は,

    「手順明確化原則は万能ではない」

というものでした。

 学習テーマの中には手順明確化原則が通用しないタイプのものが存在します。実は私の「図解」研修はまさにそのタイプのものだったため,「手順を明確に教えてくれ」と望む彼の要望には応えられなかったわけです。実はこのことは「図解術」を考える上で意外に大きな問題で,「図解の技術」というものに対する根深い誤解が背景にあると思われます。