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仕事上のミスや仕事の能率が悪いことを理由にした解雇や,人員整理にともなう解雇は,どこまで許されるものなのだろうか。今回は,企業による社員の解雇に関する法律を説明しよう。

 朝6時のラジオニュースを担当していた高知放送のアナウンサーが,2週間の間に2回寝すごし,1回目はまったく放送できず,2回目は5分間放送できなかった。また,2回目の事故については上司に報告せず,後に事故を知った部長から事故報告書を求められると,事実と異なる事故報告書を提出した。

 高知放送側は「本来は懲戒解雇にするべき」と判断したが,本人が再就職しやすいように,就業規則に従った「普通解雇」の処分を下した(図1)。アナウンサーはこの解雇を不当とし,「従業員としての地位の確認」を求めて提訴。高知地方裁判所,高松高等裁判所は,ともにアナウンサーの要求を認めたが,これを不服とした高知放送は,最高裁判所に上告した。

図1●高知放送の就業規則が定めていた解雇理由
図1●高知放送の就業規則が定めていた解雇理由

 最高裁判所は,(1)2回の事故は,いずれも寝すごしという過失行為によって発生したものであって,悪意または故意によるものではない,(2)アナウンサーを起こすことになっていた担当者も寝すごしていたためアナウンサーのみを責めるのは酷,(3)アナウンサーにはこれまで放送事故歴がなく平素の勤務成績も特に悪くない,(4)高知放送は早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかった,(5)同社では放送事故を理由に解雇された例はこれまでにない――などの点を指摘。「アナウンサーの行為は就業規則に記載された解雇理由に当たる」と認めたものの,「解雇の理由があれば常に解雇してよいわけではない。解雇が著しく不合理で社会通念上是認することができないときは解雇権の濫用になる」と判断し,解雇を無効とした。(最高裁判所1977年1月31日判決 労働判例268号17頁)

 前回は,業務に起因するけがや病気の補償について説明した。今回も,引き続き社員としての権利を守るための法律について解説したい。今回取り上げるのは,企業による社員の解雇である。解雇には法律上様々な制約がある。自分の身を守るために,しっかりと理解して欲しい。

解雇権濫用禁止の法理

 契約社員やアルバイトのような雇用期間が定められた労働契約(有期労働契約)とは異なり,企業の正社員の労働契約は,期間が定められていない。

 期間が定められていない労働契約の場合,企業は30日前に予告すれば社員を解雇できる(労働基準法20条1項)。これを「解雇権」と呼ぶ。

 解雇の理由や手続きについては通常,就業規則や労働協約で規定されている。解雇理由としては,例えば「精神や身体の状態が業務に耐えられないと認めたとき」や「労働能率が劣悪」などがある。

 2004年1月に改正労働基準法が施行される前は,就業規則や労働協約にのっとり,政治的・宗教的信条(労働基準法3条),性別(男女雇用機会均等法6条),労働組合運動(労働組合法7条)を理由とする「差別的解雇」に当たらない限りは法律上,企業は社員を自由に解雇できた。これを「解雇自由の法理」と呼ぶ。

 しかし,この法理は,長期間の勤務を期待して就職した社員に対しては厳しすぎる。仕事上のミスや能率の低さを理由に,企業が恣意的に社員を解雇できるからだ。

 このため裁判所は,権利の濫用を禁止した民法1条3項の規定を適用して,「解雇が著しく不合理で社会通念上相当なものと言えないときは,解雇権の濫用に当たり,解雇は無効となる」という判例を積み重ねてきた。これを「解雇権濫用禁止の法理」と言う。冒頭で示した高知放送の判例は,この法理を示した非常に有名な判例である。

図2●解雇が無効となるケース
図2●解雇が無効となるケース

 その後2004年1月施行の改正労働基準法は「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする」と定め(18条の2),この規定は2008年施行の労働契約法に引き継がれた(16条)。法律が裁判所が確立してきた判例を確認したものと言える。

 解雇権の濫用や差別的解雇以外に,産前産後の休業や育児休業を理由とした解雇も無効となる(育児休業法)。図2に,どんな場合に解雇が無効となるのかをまとめておいた。

合理性が必要な整理解雇

 企業がリストラに伴って希望退職者を募集し,希望退職者が削減目標数に達しないときに指名解雇を行うことは多い。こうしたリストラにともなう人員整理(整理解雇)についても,裁判所は「解雇権濫用禁止の法理」を適用し,(1)人員削減の必要性,(2)解雇回避努力の有無,(3)指名解雇者選定の妥当性,(4)指名解雇手続きの合理性,という要素を総合的に検討して,整理解雇の有効・無効を判断している。

 例えば,解雇には労働組合の承諾が必要にもかかわらず,手続きを踏まずに指名解雇された社員が会社を訴えた事件では,「指名解雇手続の合理性」がないという判断から,解雇は無効となっている(東京地方裁判所1996年7月31日決定 労働判例712号85頁)。

 「内部告発」を理由にした解雇にも,「解雇権濫用禁止の法理」は適用される。内部告発とは,社員が所属する組織の犯罪行為や法律違反行為などを外部の監督機関やマスコミに通報する行為のことである。

 組織ぐるみの不正や不正の隠ぺい工作が行われていた場合は,内部告発によって欠陥商品,談合,補助金詐取などの事実が確認され,社会の利益になることも多い。このため,「内部告発が公益を目的とするもので,通報された事実が真実であるか真実と信じることに相当の理由があるときは,告発者に対する解雇は解雇権の濫用に当たり違法」とするのが,裁判所の考え方だ。

 例えば,生協の職員が理事らの公私混同の事実を暴露したために懲戒解雇された事件では,裁判所は内部告発の正当性を認めて,解雇を無効としている(大阪地方裁判所堺支部2003年6月18日判決 判例タイムズ1136号265頁)。

 2004年には公益通報者保護法が制定され,公益通報者に対する解雇を無効と宣言したが(3条),裁判所の救済の方が広い。もちろんどんな場合でも解雇が無効になるわけではない。例えば,社員の「不正行為」に対する解雇は一般に有効とされる。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事