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 第3回「トラフィック膨張に技術の進歩が追いつかない」では,トラフィック増加への対策の現状と課題を述べた。今回は,第3回で述べたような従来のアプローチとは異なる手法で,トラフィック増加を乗り越えようとする試みを見ていく。なお,「ユーザーへの課金体系などインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の収益モデルを見直す」という方法もあるが,ここでは技術的対策に絞って説明する。

 第3回で紹介した帯域制御は,トラフィックの流量をコントロールする仕組みだった。その一方で,キャッシュ・サーバーの配置やP2P技術の利用によって,インターネット全体でトラフィックの流れを平準化しようという試みがある。

 総務省の「インターネット政策懇談会」では,トラフィック増加への対策として(1)キャッシュ・サーバーの地方展開,(2)位置情報を利用した高度なP2Pアプリケーションの利用――を挙げている。

 現在では,コンテンツの多くの所在は東京に集中している。そのため,「ユーザーのアクセスも東京に集中することが多い」(総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課の大西公一郎課長補佐)。これは一部の回線の負荷が高くなるというだけでなく,地方のISPにとっては遠距離のトラフィックが増え,トランジット料金がかさむという問題もある。そこで,地域ごとにキャッシュ・サーバーを配置し,地域単位でトラフィックが回るようにしようという考えが(1)だ(図1)。

図1●地域ごとにキャッシュの導入を検討<br>総務省ではトラフィックの東京一極集中を防ぎ,地方に分散させるための仕組みを検討している。その一つとして,地域IXや地域のデータ・センターにキャッシュ・サーバーを設置し,コンテンツのダウンロード・トラフィックを地域内で完結させる方法を検討している。ただし,この方法には課題が多い。
図1●地域ごとにキャッシュの導入を検討
総務省ではトラフィックの東京一極集中を防ぎ,地方に分散させるための仕組みを検討している。その一つとして,地域IXや地域のデータ・センターにキャッシュ・サーバーを設置し,コンテンツのダウンロード・トラフィックを地域内で完結させる方法を検討している。ただし,この方法には課題が多い。
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ISPにいまだ残る経路制御問題

 (2)のP2Pに関しても,基本的な狙いは同じである。現在の一般的なP2Pシステムは,「エンド・ユーザーから見て,最もダウンロードが速くなるノードにデータを取りに行く」(複数のP2Pシステム開発者)。例えば,過去の通信履歴を参照し,スループットの高かったノードなどを“近いノード”として優先的に利用するケースが多い。

 しかしこの経路は,ISPから見たときの最適経路とは必ずしも一致しない。例えばP2Pシステムから見て“近いノード”同士が,物理的には北海道と東京に位置している可能性がある(図2)。

図2●P2Pシステムから見た最速ダウンロード経路が,ISPにとって最適とは限らない<br>一般的なP2Pシステムは,過去の利用履歴などから,高速にデータがダウンロードできる経路を独自に判断する。この仕組みはISPのバックボーン構造を考慮していないので,ISPにとっては無駄なトラフィックの往復やトランジット料金の増加につながってしまう可能性がある。
図2●P2Pシステムから見た最速ダウンロード経路が,ISPにとって最適とは限らない
一般的なP2Pシステムは,過去の利用履歴などから,高速にデータがダウンロードできる経路を独自に判断する。この仕組みはISPのバックボーン構造を考慮していないので,ISPにとっては無駄なトラフィックの往復やトランジット料金の増加につながってしまう可能性がある。
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 このように物理的に遠くのノードとのやり取りが増えると,インターネット・バックボーンを往復するパケットが増え,さらに複数のISPを経由する通信が増えてしまう。