あらゆるシステム基盤技術は,データセンターの運用効率化や,その延長線上にある“クラウド・コンピューティング”を目指して進化を遂げてきた--。プラットフォーム分野における記事アクセスランキングを通して2008年を振り返ってみると,そんな印象を受ける。
プロセッサからサーバー,ミドルウエアに至るまで,仮想化や省電力化を実現する技術・製品が次々と開発され,アクセスランキングの4分の3はこれらの記事が占めた。1年前はバズワードと思われがちだった“クラウド”への意識も,今では検討に値するものとして認識され始めたようだ。
クラウド・コンピューティングの潮流をよく表しているのは,ランキング第2位の『Google,オープンソースのWebブラウザ「Google Chrome」を公開へ』だろう。成熟感が漂っていたWebブラウザの分野に,米Googleが新たなソフト「Google Chrome」を投入してきた。
その目的は明確である。もはやWebは,単純なテキストのページではなくなり,リッチでインタラクティブなアプリケーション,つまりクラウド・コンピューティングへと進化を続けている。「我々に必要なのは,単なるブラウザではなく,Webページとアプリケーションのための現代的なプラットフォームである」と同社は述べている。Webページの表示エリアを最大限に確保した画面インタフェースや,信頼性の確保,処理速度の向上など,Webアプリケーション(クラウド)をより快適に利用するための機能強化が特徴となっている。
大手ベンダー自身のデータセンターを紹介した記事も,大いに注目を集めた。第4位の『Microsoftが自社の「クラウド」を説明,ラックから「コンテナ」に移行』では,米Microsoftが約30万台のサーバーを運用し,1人の管理者が平均5000台のサーバーを運用している,などの実態が明らかになった。
一方,世界最大規模のデータセンターを運用しているGoogleは,グリーンITへの取り組み成果をアピールした。第7位の『グーグルがデータセンターの電力効率性を一部公開,PUEは驚きの「1.21」』のタイトルが示す通り,データセンターの電力効率指標の1つである「PUE」(データセンター全体の消費電力をサーバーなどのIT機器の消費電力で割った値)で世界トップクラスの数値を達成しているという。どのような施策による成果なのか,具体例は非公開だったが,データセンターの規模とは無関係に電力効率を高められることが分かる。
データセンターの運用の効率化に不可欠な「仮想化技術」は,昨年以上に動きがめまぐるしかった。例えばサーバー仮想化ソフトの分野では,ソフト本体(ハイパーバイザー部分)の無償化が相次いだ。それらを報じたランキング6位の『ヴイエムウェア,サーバー仮想化ソフト「VMware ESXi」を無償化へ』やランキング17位の『仮想化ソフト「Hyper-V Server」が無料化,30日以内にMicrosoftが提供開始』が話題を集めている。オープンソース・ソフトであるXenと並び,主要なサーバー仮想化ソフト本体がそろって無償となった。サーバー仮想化が本格的な普及期を迎え,仮想化ソフト・ベンダーのシェア争いが今後どうなるのか,気になるところだ。
クライアントPCの運用管理に関連した記事も4本ランクインした。16位の『帰宅する社員のパソコンを自動シャットダウン,パナソニック電工がシステム開発』では,入退室管理システムと連動した,ユニークなPC電源管理ソリューションを紹介している。社員が会議室などに移動したり,帰宅したりすると,クライアントPCを自動的にスリープ状態にするかシャットダウンするというものだ。そのほかは,いずれもシンクライアントに関する記事で,「ネットブート型」「仮想デスクトップ型」など,実現方式も多様である。