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 前回まで,特定電子メール法の改正のうち,オプトイン方式の採用について,取り上げました。今回は,2つ目のポイントである「法規制の実効性の強化」に関する改正点と,同種の規制の改正である,特定商取引に関する法律施行規則の一部改正について取り上げます。

 まず,法規制の実効性ですが,以下のように強化されました。

  1. 送信者情報を偽った電子メールの送信に対し電気通信事業者が電子メール通信の役務の提供を拒否できることとする。
  2. 電子メールアドレス等の契約者情報を保有する者(プロバイダ等)に対し情報提供を求めることができることとする。
  3. 報告徴収及び立入検査の対象に送信委託者を含め,不適正な送信に責任がある送信委託者に対し,必要な措置を命ずることができることとする。
  4. 法人に対する罰金額を100万円以下から3000万円以下に引き上げるなど罰則を強化する。

 このうち,(1)の電気通信事業者における役務提供拒否事由の明確化ですが,送信者情報を偽った電子メールが送信された場合に電気通信事業者が電子メール通信の役務の提供を拒否できることが追加されました(特定電子メール法11条)。これは,表示規制等の前提となる部分ですので,当然の規定ということになるでしょう。

 (2)の電子メールアドレス等の契約者情報の提供を求める規定の創設は,法の違反者の特定に役立てるため,送信された電子メールにおける電子メールアドレス等(IPアドレス,ドメイン名を含む)の契約者に関する情報提供を総務大臣がプロバイダ等に求めることができるようにするものです(特定電子メール法29条)。これまでは任意調査という形で総務省が対応していたようですが,電気通信事業者やドメイン登録者等の関係者には契約者のデータを保護しなければならないという別の要請もあるため,総務省の要求に応じられないという問題がありました。(2)の規定の創設は,この問題に対する対応となります。

 (3)の報告徴収・措置命令等の対象を拡大する点ですが,総務大臣の報告徴収及び立入検査の対象に送信委託者を含め,不適正な送信に責任がある送信委託者に対し必要な措置を命ずることができるようにするというものです(特定電子メール法28条)。これによって,送信者が海外にいる場合でも,送信を実際に指示している送信委託者が国内にいる場合にはその送信委託者に対し必要な措置を命ずることができるようになるという説明がなされています。

 (4)の罰則の強化については,法人に対する罰金額について,現行の100万円以下が3000万円以下に引き上げられました(特定電子メール法37条1号)。

 これ以外に,海外初の迷惑メールが増加していることを踏まえて,迷惑メール対策を行う外国執行当局への情報提供規定が新たに設けられました。海外発の電子メールであっても,国内の電気通信設備に送信されるものであれば法の規律の対象であることを明確化することも行われています。迷惑メールの現状を見れば,これらの規制強化に即効性があるとは思えませんが,海外の執行当局との連携など地道に対策を積み重ねるほかないのでしょう。

2つの法律でメール送信停止後の情報保護期間に違い

 次に,特定商取引に関する法律施行規則の一部改正を説明します。2008年,特定商取引に関する法律及び割賦販売法(以下,特定商取引法)の一部を改正する法律(平成20年法律第74号)が制定され,その第1条で,通信販売,連鎖販売取引,業務提供誘引販売取引に係る電子メール広告については,承諾をしていない者に対する電子メール広告提供の禁止(オプトイン規制)等の規制が盛り込まれました。

 従来も特定商取引法(旧訪問販売法)では,迷惑メール対策としてオプトアウト方式の規制はされていました。これを特定電子メール法と同じく,原則オプトイン方式の規制に転換することになったのです。従って,基本的な規制の方向性については特定電子メール法と同じであるということになります。

 なお,特定商取引上の迷惑メール規制の改正については,適用範囲の拡大も行われています。まず,これまで通信販売に係る電子メールに限定されていたものが,連鎖販売取引,業務提供誘引販売取引に係る電子メールにも適用されるようになりました。さらに,従前,電子メール広告の通信形式については,インターネット回線を経由する電子メールに限定されていましたが,いわゆる携帯電話のショートメールサービスについても規制の対象に加えられることになりました。

 次に,オプトイン規制に関する部分ですが,基本的な内容は特定電子メール法と同じです。消費者が事業者からの電子メール広告の送信を事前に承諾しない限り,電子メール広告の送信は原則的に禁止されます。消費者の承諾に基づいて電子メール広告を送信する場合には,当該広告メールには,消費者が電子メール広告の提供を受けない旨の意思を表示するために必要な事項の表示を義務づけており,消費者が拒絶の意思表示をした場合の電子メール広告の送信が禁止されます。

 また,オプトイン規制の実効性を確保するために,消費者からの請求や承諾に関する記録を作成し保存することが義務づけられる点も特定電子メール法と同じです。ただし,保存期間が異なります。特定電子メール法の場合,送信停止後1カ月間の保存で足りるのに対し,特定商取引法上の規制では3年間の保存義務が定められていますので,注意が必要です。

 オプトイン規制については,次の2つの例外が定められています。

  1. 消費者に対し,契約の内容や契約履行に関する事項を通知する場合に,電子メール広告をするとき(特商法12条の3第1項第2号)
  2. 電子メール広告の提供を受ける者の利益を損なうおそれがないと認められるケース(特商法12条の3第1項第3号)

 (1)については,「事業者と消費者が既に取引関係にあって,その取引を円滑に進めるための連絡を電子メールで行う場合,例えば,消費者に送る受注確認メールや発送完了メールの中に事業者の商品の宣伝が入っている」(注)ケースを念頭に置いています。また,2については,フリーメールやメールマガジンを利用した場合の広告メールの送信を想定しています。

 これらの点についても,基本的には特定電子メール法と同じであるということになります。ただし,(1)については,特定取引に関する法律施行規則で「契約の申込みの受理,契約の成立,契約の履行に係る重要な事項の通知に付随して,通信販売電子メール広告をする場合」というように「重要な事項に付随して」という限定が付いています。この点が基本的に契約関係があればオプトインの例外に該当する特定電子メール法とは異なります。

 これ以外にも異なる点がありますので,通信販売,連鎖販売取引,業務提供誘引販売取引を行っている事業者は注意が必要だと思います。

 いわゆる迷惑メールに対する同種の規制であるにもかかわらず,特定商取引法と特定電子メール法との間にこのような差異が生じている点について,規制当局は「特定商取引法と特定電子メール法とでは,規制の趣旨や規制対象となる電子メールに差異があるため,規制の内容に差異が生じるのは自然」であると考えているようです。しかし,一般の事業者の側から見れば,分かりにくいと言わざるを得ません。今後,法律の一本化が検討されるべきだと思います。

(注)『「特定商取引に関する法律」及び「割賦販売法」の一部を改正する法律について』解説テキスト24頁から25頁

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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。