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 10月21日、政府は地球温暖化対策推進本部で、国内排出量取引制度の試行を決めた。12月12日まで第1弾の参加企業を募る。試行制度に対する厳しい見方がある一方、自主行動計画の強化にもつながりそうだ。

 試行制度の内容は9月発表の方針案をほぼ踏襲し、多数の企業による参加を第一とする内容に固まった。今後、参加企業を募り、早ければ来夏にも排出枠取引が活発になりそうだ。

 制度への参加も削減目標も、企業が自主的に決めてよく、総量目標と原単位目標での排出枠の発行を認めた。社名公表などの罰則もない。

図●試行制度(国内排出量取引スキーム)の概要
図●試行制度(国内排出量取引スキーム)の概要
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 大手電機メーカーの環境部長は、「参加する利点が見えないが、他社もみな、政府の顔を立て付き合いで参加しようという雰囲気がある」と言う。電機は参加に足並みをそろえそうだ。排出量が相対的に多い鉄鋼や電力は、それぞれ業界単位や企業単位の参加を固めているとみられる。

 研究者や環境NGO(非政府組織)は試行制度に批判的な見方を示す。

 国内排出量取引制度の導入を提案する大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授は、「国内排出量取引制度の目的は参加者全体の排出総量目標を決めること。制度設計者に今回のようなあいまいな目標設定をする意義を問いたい」と断じる。政府が産業界全体にどれだけの削減を課すかを定めた上で、企業ごとに許される排出量を政府が配分すべきという。

 NGOの世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之・気候変動プログラムリーダーも、政府が排出量を配分しない点について、「削減効果を担保するために必要な手順を踏んでいない。今回の試行は極めて中途半端な部分的な試行」と話す。

 政府は試行の結果を基に、将来、本格的に国内排出量取引制度を導入するかどうか見極めるとしているが、「中途半端な試行からは、中途半端な知見しか得られない」(山岸リーダー)。この試行の結果が、政府による「国内排出量取引制度を導入しない言い訳」に悪用されないよう、試行の行方を冷静に見守る必要がある。

 ただ、今回の試行は産業界による自主行動計画を補完するのに役立ちそうだ。

 参加企業の目標設定は、企業の排出実績以上か、自主行動計画の業界目標以上の目標にするよう、政府が企業ごとに指導する。

 従来、自主行動計画は業界団体ごとに温暖化対策の目標を定めてきた。業界に参加する個別の企業が、業界目標を達成するためにどの程度、削減に貢献しているかは、「業界からは政府に対して一切報告していない」(ある業界団体)。そのため、業界目標が達成されない場合の責任の所在と、削減の担保が明確でないとしてNGOなどの批判の的だった。

 それが今回、企業単位の目標を設定することで、業界目標の達成のために各社がどのような役割分担をするかが政府には明確になる。

 各社の目標や削減実績は一般に公表されないため「ガラス張り」とはならない。しかし、企業ごとに目標と進ちょくを政府が管理できるようになり、達成が厳しければ業界単位ではなく直接、企業に対処を求められる糸口を付けた点で、産業界への締め付けを一歩、強化したといえる。

 京都議定書の第1約束期間の1年目も、折り返し地点を過ぎた。残る4年半、自主行動計画と試行制度が両輪となって産業対策が着実に進むことが望まれる。