一部の従業員が記者会見までして「解雇中止を要求する」という異様な事態にまで発展した日本IBMの“リストラ騒動”。割増退職金の原資100億円が底を打つほど「退職応募」が殺到し、1300人(従業員の8%)を超えた時点で収束した。
1992年の3000人(同12%)に及ぶ大リストラから数えて今回が3度目。日本IBM関係者は「グローバルのIBMと比較すると、まだ甘い」と言う。IBMの従業員数のピークは85年の40万人。90年代からのリストラで30万人がIBMを去り、20万人が新たに雇用されて、在籍5年未満の社員が半数以上を占める「昔とは別のIBM」になっている。
平均年齢41歳の日本IBMのリストラはまだ途上なのかもしれない。従業員数で1万2000人、一人当たり売上高で1億円(現在は7200万円)を目指して、「今後もリストラが続く」と関係者は予測する。
日本IBMの1万2000人説の根拠は、8万人を超えたインドや中国のグローバル・サービス・デリバリー網の活用で、人手を代替できることにある。売り上げの74%がサービスで、先進国IBMの中ではサービス化率が最も高いのが日本IBMだ。同社の売り上げ原価率や販売管理費率はNTTデータや米アクセンチュアなどの「サービス企業」と同じ水準(表)。オフショアを使えば従業員の圧縮が可能なのだという。

IBMはルイス・ガースナー前会長の時代に企業の「機能」のグローバル化を推し進め、次のサミュエル・パルミサーノ会長がほぼ完成させた。同会長は、ノウハウ(R&Dやマーケティング)や効率(生産、情報システム、購買)、人事、顧客アクセス(営業やコンサル、SEなど顧客との接触)の四つの機能のコントロールを米本社に集中させた。
パルミサーノ会長はその過程で、独立意識の強かった欧州と日本にくさびを打った。欧州は05年に従業員数6万人の15%に当たる9000人を経営幹部や管理職中心に強制リストラ。米本社の意思を通しやすくする一方、世界2位の市場を担当する日本IBMについては、上級管理職を送り込み、内部からの改革とグローバル化を迫った。現在、米IBM幹部が日本IBMの役員に13人、上級管理職として約100人が駐在する。
IBM出身のあるコンサルタントは、「たとえグローバル企業であっても、人事と顧客アクセスを地域に任せる分散マネジメントの方が、従業員のモチベーションは上がる」と話す。「人事」や「顧客アクセス」について本社が箸の上げ下ろしまで指示し始めると「優秀な人間から嫌気がさして辞める。“Think”する必要がなくなるからだ」とこのコンサルタントは言う。
今回1300人が瞬く間に集まったのは、その証しなのかもしれない。人材の損失を招いた意味を含め、日本IBMをリストラに追い込んだ責任について、駐在する「司令塔たち」も、その一端を負うべきではないだろうか。
EMシステムコンサルティングの東山尚代表は、「金融ITバブルが弾け、コンサルやプロジェクトマネジャーなどの料金の高い上流職種があぶれ始めた。日本IBMは収益源である上流工程の価格水準を維持するため彼らを放出せざるを得なくなった」と話し、これがリストラの背景だと見る。「実際、コンサルやプロマネ集団のGBS(グローバルビジネスサービス)部門から退職が始まった」(東山代表)。
だが、大規模システム構築の多くが終了した日本市場で、どの産業が上流職種も含めてIT業界に仕事を発注し続けてくれるのか。不況乗り切り策が労働集約型ゆえに「雇用調整」しかないというのであればあまりにも情けない。リストラ続発に懸念を抱きつつIT業界の09年が明ける。