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 携帯電話の販売不振が止まらない。IDC Japan コミュニケーションズ シニアマーケットアナリストの木村融人氏は,この状況が続けば2009年の端末出荷台数は2008年よりもさらに落ち込むと警鐘を鳴らす。より細分化した販売方式を取り入れることでユーザーの自由度を高める取り組みが重要と訴える。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション


木村氏の眼
携帯電話の契約数 2010年や2011年に純増が止まる可能性も
端末の出荷台数 2009年は3500万~3600万台
端末メーカーの動向 2~3社減らざるを得ない
2009年に注目の事業者 NTTドコモ
その理由 停滞した市場を再活性化させる役目を期待

携帯電話の契約数は今後どの程度伸びると見ているか。

 2008年の純増数は約530万と,まだ伸びている。ただ,これにはメールも利用しないようなライト・ユーザーや,モジュールの利用分が多分に含まれている。これらが急激に伸びるとは考えにくく,2台目需要は景気に左右される。純減はないと思うが,2010年や2011年には純増が止まる可能性もある。携帯電話事業者もトーンダウンしており,何か起爆剤がなければ大幅に伸びることはないだろう。

端末の販売台数が落ち込んでいるが,2009年以降はどうなると見ているか。

 当社は販売台数ではなく,出荷台数を調査している。2008年の出荷台数はまだ調査が終わっていないが,2007年の5150万台から,4250万~4260万台に減る見通しだ。2009年はさらに3500万~3600万台まで落ち込むと予測している。当初は3700万~3800万台と見ていたが,販売状況は依然として厳しい。この状況が続けば3500万~3600万台も十分あると見ている。

 2年前の2006年は出荷台数が4900万~5000万台だった。(従来の)2年程度の買い替えサイクルを考えると,2008年の出荷台数はもう少し見込めたはず。にもかかわらず,大幅に減った。この要因は販売方式を本格的に変更した影響が大きいと見ている。景気の影響と見る向きも多いが,2008年当初から減少傾向にあった。景気の影響はこれから本格化することが予想され,2009年に状況の改善に結びつくような好材料も見当たらない。

 やはり制度の影響が大きい。従来の販売奨励金モデルに行き過ぎがあったのは事実で,割賦販売の導入は反対ではない。制度の見直しがすべて悪いとまでは言わないが,その後,販売台数が大幅に落ち込んだにもかかわらず放置した。市場の「活性化」どころか,「固定化」や「硬直化」が進んでいる。IT業界は動きが早く,1年間も放置すればボロボロになる。(販売台数が年間で最も多い)2009年3月の商戦期でつまずいた場合は厳しい一年になるだろう。

この状況を打開する有効な策はないのか。

IDC Japan コミュニケーションズ シニアマーケットアナリスト 木村融人氏
IDC Japan コミュニケーションズ シニアマーケットアナリスト 木村融人氏
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 携帯電話事業者には販売面をもう少し工夫してほしい。現状,ユーザーが携帯電話を購入する際は,一括または割賦という選択肢しかない。ほとんどの端末は毎月2000円を24回(2年間)払って約5万円弱,または毎月1500円を24回払って約4万円弱といった価格になっている。

 スイミング・プールで(速く泳ぐ人と遅く泳ぐ人の)コースが分かれているように,ユーザーの利用頻度や契約期間に応じて販売価格に差を設けるようなことも必要。たくさん使うユーザーには多くの販売奨励金,あまり使わないユーザーの場合は販売奨励金を少なくするといった具合だ。

 携帯電話のユーザーは1億人以上いる。もっと細分化した販売方式を取り入れることでユーザーの自由度を高めることが重要ではないか。もちろん販売方式を細分化すれば複雑になってしまうデメリットがあるが,少なくとも現状の販売方式ではユーザーが付いてこない。細分化して駄目であればまた別の手段を考えれば良い。決して難しいことではないはずだ。

事業者だけが大幅な増益,メーカーや代理店からは不満の声も

販売不振で端末メーカーの置かれた状況は厳しくなっている。

 現在の端末メーカーが全社残ることはまずないだろう。撤退や合併を余儀なくされ,2009年や2010年には2~3社減らざるを得ないのではないか。シェア上位の数社以外は正直言って厳しい。

 ただ,端末メーカーは大手メーカーが中心で,現状でも赤字で継続しているところがある。世界同時不況でグループ全体の業績が厳しくなってきたときに存続させるか。各社が携帯電話端末事業のプライオリティをどう位置付けているかによって判断は変わってくる。

 一方で,ビジネスの公平性を問題視する声も上がっている。分離プランはユーザーの公平性という美しい名目でスタートしたわけだが,端末の販売不振でメーカーや代理店は疲弊している。かたや携帯電話事業者は大幅な増益。販売が好調であれば納得できるが,販売不振で奨励金が減った結果こうなった。

 産業全体で見たときの公平性という点で問題があり,メーカーや代理店からは「国の電波を使っているのに利益を還元していない」といった不満も裏で出ている。ユーザーの公平性は重要だが,全体最適を考えると,(販売方式の見直しで)失ったものの方が大きいのではないか。

 大手家電量販店は端末が売れなくなれば,現在のような最高の販売スペースを確保する必要がなくなる。そうなるとユーザーに見向きもされなくなり,産業全体の活気がなくなる可能性もあると危惧している。

2009年に注目する携帯電話事業者は。

 NTTドコモだ。停滞した市場を再活性化させることを期待したい。これまでの業界の流れを見ると,au(KDDI)が音楽で旋風を巻き起こし,ソフトバンクモバイルが料金でサプライズを起こした。次はNTTドコモの順番というわけではないが,今の息切れ状態を打開する役目を果たしてほしい。

 逆に言えば,現在のKDDIとソフトバンクモバイルにその余裕はなく,NTTドコモが攻めなければ2009年は大きな動きが起こらないまま終わるだろう。NTTドコモは現在,「新ドコモ宣言」で守りに入っているが,新しい端末やサービスを積極的に投入して携帯電話産業を再活性化させてほしい。