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 中堅ソフト開発会社のアイネットが2009年5月、神奈川県横浜市に新たなデータセンターを竣工させる。同社にとって、データセンターは二つ目だ。建設中の新データセンターの総設置面積は約7242平方メートル、ラック収納台数は約1000台程度になる。ブレードサーバーなら数千枚は置けるものの、この広さは大手に比べて1けた程度少ない。

 大手ITベンダーや通信事業者らがデータセンターの建設に相次いで着手しているなか、同社に勝算はあるのだろうか。アイネットの梶本繁昌社長は「設備という物理面では到底勝ち目はない」と認識している。

 それでもアイネットがデータセンターの建設を推し進めるのは、データセンターを利用したBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスに強みがあるからだ。同社が得意とするのは、請求書を印刷したり封入したりする、ビリングサービスと呼ぶBPOである。

 約10年前、横浜市戸塚に最初のデータセンターを建設したときから手掛けてきた。メインフレームやオフコンなどのシステムを預かるとともに、高速プリンターを設置して、請求書の印刷から封入までの作業をデータセンター内で実施している。

 元々、ビリングサービスはガソリンスタンド向けに作り上げた仕組みで、ダイレクトメールや請求書、給与明細書の制作からデータ管理、印刷、発送準備といった業務までを提供するものだったという。

 現在、月間500万通の請求書やダイレクトメールなどを印刷している。ここだけを見ると、データセンターというより“印刷工場”に近い。

 ビリングサービスの売り上げは2007年度に20億~25億円程度に達し、既に売上高全体の10%を超えるまでになった。建設中のデータセンターでもビリングサービスを推進していく。当初、既存データセンターの印刷設備を利用するが、需要が拡大したら印刷用に一棟を建てる。数年以内にビリングサービスを売り上げ構成で15%に引き上げる計画である。

 梶本氏は、「高速レーザープリンターやフルカラー両面プリンターなど、さまざまなプリンターを持っているデータセンターはまだ少ない。データセンター事業で他社と差異化するための大きな材料になる」と強調する。

 サーバーなどのハード、ソフトやネットワークだけではなく、自社が所有するプリンターまでもアウトソーシングするユーザー企業が、今後はさらに増えると同社は予測している。特に発送業務の多い金融関係や自治体などが有望と見ている。

 BPOなどによるストックビジネス(同社の分類項目では情報処理サービス)の売り上げは年々高まっており、07年度は売上高(263億円)の27%、営業利益(12億円強)の33%を占めるまで成長している。

 BPOなどアウトソーシング事業を強化するのは、営業利益率の改善を図るためだ。既に07年度のアイネットのストックビジネスの営業利益率は5.9%になり、ソフト開発の4.5%を1ポイント以上も上回る。ソフト開発は浮き沈みがあり、失敗案件が発生すれば利益が下がるのに対して、ストックビジネスに失敗はない。さらに顧客数が増えるに従って利益率が高まる。

 新データセンターには、土地(約6600平方メートル)を含めて約50億円を投資する予定。ビリングサービス用施設を建設すれば、さらに約20億円を追加投資することになる。

 売上高が約270億円のソフト開発会社にとって、これだけの投資は決して少ない額ではない。だが強みを鮮明にするうえで、思い切った将来への戦略投資が必要になると、アイネットは考えたのである。

 アイネットのデータセンター向け投資には、ソフト開発会社としての事業構造を変革させたいという思惑がある。開発一辺倒では競合との差異化は難しくなる。生き残るためにはどうすればいいかと多くのソフト開発会社は悩んでいる。経費削減ばかりに走っている企業では、未来を拓くことはできないだろう。