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 「IT投資は収益に貢献しているのか」という問いに根来龍之氏は,「直接結び付けて評価できるのは,ある条件がそろったときだけ」と指摘する。ダイレクトに因果関係をたどれるケースはまれで,多くの場合は投資と成果の間に位置する“業務の仕組み”をどう変えたかという視点で評価すべきだという。本講演では,IT投資の目的の違い,“業務の仕組み”という概念,さらにIT投資の判断方法について独自の理論が提起された。

早稲田大学 IT 戦略研究所所長/ビジネススクール教授 根来 龍之 氏
早稲田大学 IT 戦略研究所所長/ビジネススクール教授 根来 龍之 氏

 「IT投資を取り巻く因果関係は,網の目のように入り組んでいます。投資を起点に因果の連鎖を明らかにすれば,どのようにパフォーマンスが向上し経営が変わったのかがわかりますが,多くの場合,そう簡単ではありません。というのも,現在のIT投資は“業務の仕組み”というクッションを介してパフォーマンスに影響を及ぼしているからです」。

 早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏はこのように,IT投資はワンクッション置いてからその効果を現すと強調し,続けて,ITを企業活動のどのレベルの障壁に活用すべきかを説明した。

 「企業の経営資源には『有形なもの』と『無形なもの』,そして『組織の能力』がありますが,ITをベースにした企業戦略ではこれらの経営資源との組み合わせを考慮することが重要です。そして,企業がつくるべき3つのレベルの障壁のうち,どこに経営資源を投資するかで収益性の評価が変わってきます」と,投資すべき障壁を見極める必要性を強調する。

 ここでいう3つの障壁とは,業界レベルで必要とされる「参入障壁」,業界内のどのグループに属するのかを決定する「移動障壁」,そして企業の独自性をつくる「独自障壁」である。

 「特に移動障壁は業界内でどのような形態で競争するかを決めるもので,収益性を左右する重要なポイントです」と根来氏は,例を用いて移動障壁の重要性を解説する。例えば日用品小売業で,収益性が高い大手コンビニと,それが低い総合スーパーという2つのグループで考えてみる。この場合,前者のグループで収益性が最下位の企業でも,後者のグループで第1位の企業を大きく引き離している。このような,グループ間を移動するための障壁が移動障壁である。

本質的なIT投資で“業務の仕組み”を構築する

 また,参入障壁への投資は,業界に参入したり,業界に残ったりするために行うものである。例えば,航空業界では業界全体でネット予約やチケットレスを進めたが,これは直接的な収益確保につながるものではない。むしろ寡占企業同士の対抗戦略としての側面が強い。

 一方,移動障壁への投資は,同じグループ内にとどまるだけでなく,グループを移動したり形成するための投資でもある。グループを変えることで,収益構造を変えることができる。ただ,参入障壁と移動障壁への投資は長期戦略から決めるべきものであり,投資に対する収益性を直接追うことはできない。

 唯一,RO(I Return On Investment)のような評価になじむのは独自障壁への投資だ。これは企業が単体で行う投資であり,パフォーマンスへの影響を測定しやすい。「しかし,ここでも“業務の仕組み”への視点が重要です。例えば,セブン-イレブン・ジャパンは一本調子で業績を向上させてきたように見えますが,IT投資によって“業務の仕組み”を変えてきました。これが好業績に結び付いているのです」と,業務の仕組みをどう構築するかが投資の成果を左右するという。

 「IT投資の直接的な因果関係をたどれることはまれです。しかし,IT投資の成果を確信し,長期的な視野でビジネスへの貢献を判定していくことが重要です」と強調し,講演を締めくくった。