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 「契約重視とは言い切れなかった今までの社内文化が、一変するだろう」。日本ユニシスの高橋是光プロジェクト管理部計数管理室担当室長は、「標準契約見直しプロジェクト」の成果をこう振り返る。同社は、契約の重要性を社内に啓発する目的で2007年6月から2008年3月まで、この見直しプロジェクトを実施してきた。

 日本ユニシスだけではない。NECや富士通、NTTデータ、TISなど、赤字プロジェクト撲滅に向けて多くのソリューションプロバイダが、システム開発案件の受注時に取り交わす契約プロセスを重視し、その見直しに動いている。

 NECはSIの生産性を向上するための「SI革新活動」の、富士通は赤字プロジェクトを撲滅する「アシュアランス活動」の一環として、契約重視の取り組みに乗り出した。いずれも契約の文書内容を見直したり、営業担当者の意識改革を促したりすることで、システム開発プロジェクトでのトラブル発生リスクを下げることが目的だ。

 「請負契約はとにかくリスクが高いからダメだ。準委任契約なら人月工数を約束するだけなので、リスクは少ない」「契約書は何か問題があったときに参照するためのもので、普段は重要ではない」。契約に対して、こういう認識を持つ営業担当者もいる。

 こうした現状について、情報サービス産業協会(JISA)の田原幸朗事務局次長調査企画部長は、「契約がおろそかなら、プロジェクトマネジメントや品質管理にいくら労力をかけても、トラブルは避けられない」と警鐘を鳴らす。

 「契約そのものをおろそかにするのは、自社のビジネスをないがしろにするのと同じ行為である」と話すのは、システム開発の取引に詳しいアップデート テクノロジーの板東直樹社長だ。板東社長はさらに、「この状況を変えようと、契約プロセスを見直す企業が出ているのは良い傾向だ。もっと多くの企業に取り組んでもらいたい」と言う。

「ひな型の整備」「社内の定着」が重要に

 商談の現場で、契約を締結するまでの実務を担うのは営業担当者である。システム開発プロジェクトを成功させるには、営業担当者が、受注段階でいかに契約の内容を詰めていくかが鍵を握る。そのために、ソリューションプロバイダは、契約の重要性を社内に浸透させ、定着させていなければならない。

 これらを推進する力が、「契約力」なのである。契約力の強化はプロジェクトの成功への特効薬といえる。

 ではどうすれば、契約力を鍛えることができるのか。ソリューションプロバイダの取り組みを取材した結果、二つのポイントが浮かび上がった。「自社のシステム開発プロジェクトの実態に即した契約書のひな型を整備すること」と、「ひな型を現場に定着させること」である(図1)。

図1●「契約力」を鍛えるには、二つのステップを繰り返し実践することが重要
図1●「契約力」を鍛えるには、二つのステップを繰り返し実践することが重要

 ひな型を整備する際に参考になるのが、経済産業省やJISAが公表しているモデル契約書だ。

 経産省は2007年4月、基幹業務システムなど、スクラッチ型で開発するシステムを対象とした「~情報システム・モデル取引・契約書~(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)<第一版>(以下、第一版)」を発表した。JISAのモデル契約書「ソフトウェア開発委託基本モデル契約」は、経産省の第一版を踏まえ、2008年5月に改訂したものだ。

 さらに経産省は2008年5月に、パッケージソフトやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などを利用するシステムを対象にした「同(パッケージ、SaaS/ASP活用、保守・運用)<追補版>(以下、追補版)」も公表している。

 ソリューションプロバイダがこれらのひな型を利用したいと考えても、システム開発の様態や問題点は、顧客企業の状況や開発するシステムの重要度によって異なるだろう。

 自社の実態に合った契約力を身に付け、鍛えるには、どうすればよいか。

 ヒントは既に契約の見直しに動いているソリューションプロバイダ各社の取り組みに隠れている。以下では、「契約書のひな型の整備」と「現場への定着」のプロセスごとに見ていく。