会計制度変更の“真打”ともいえる国際会計基準。日本の会計基準と考え方が異なる点が少なくない。会計システムの見直しも必要だ。
工事進行基準のような大きな会計制度の変更が2011年まで連続して毎年やってくる。国際会計基準はその名の通り、世界各国で統一的に利用するために策定された会計基準である。EU(欧州連合)が05年から域内各国の連結財務諸表に採用を義務付け、現在では世界100カ国以上が採用している。
独自の会計基準を採用する日本は、国際会計基準の広がりに後れをとらないため「国際会計基準への収れん(コンバージェンス)」を進めている最中だ。コンバージェンスは、日本の会計基準と国際会計基準の差異を縮める取り組みを指す。日本の会計基準と国際会計基準との間で重要な26項目の差異を11年6月までに埋める計画だ。工事進行基準もその一環で適用になった項目である(図)。
強制適用に向けて動き出す
コンバージェンスに加え、国際会計基準そのものを日本の会計基準として採用する動きも始まった。金融庁は10月23日、日本企業への国際会計基準の「適用(アダプション)」の議論を開始。09年2月4日には「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」と呼ぶ文書を公開。4月4日までパブリックコメントを募集する。
中間報告は、日本の会計基準としてIFRSそのものを採用する「アダプション(適用)」の考え方に関する議論をまとめたもの。アダプションを実施するうえでの基本方針や課題のほか、適用方法などを示している。
適用方法として、強制的に適用する前に企業が任意で適用する方法を提示。連結財務諸表を対象に、2010年3月期から適用を認めるといった案を示している。
強制適用については、2012年以降をメドに適用を判断。もしも適用することに決めた場合は少なくとも3年の準備を経て、上場企業の連結財務諸表を一斉にIFRSに移行するとしている。この通りに進めば、早ければ2015年からIFRSの強制適用が始まることになる。
コンバージェンスはあくまでも日本の会計制度を国際会計基準に近づける考え方。コンバージェンスを進めても、国際会計基準そのものにはならない。そのため、アダプションが改めて議論になったわけだ。ベリングポイントの山田和延シニアマネージャー/公認会計士は、「コンバージェンス実施後とはいえ、国際会計基準をそのまま適用する場合、企業の対応で難しい点は残る」とみる。
管理会計が財務会計と同じ位置づけに
国際会計基準への対応は、「日本の会計基準と考え方が違うため、基幹系システム全体に影響が及ぶ可能性が高くなる」とアクセンチュア財務・経営管理グループの畠中洋一郎パートナーは説明する。
特に会計の専門家が口をそろえて「哲学そのものが大きく違う」と指摘するのが、10年4月以降に始まる事業年度から適用が始まる「セグメント開示」である。
現状のセグメント開示とは異なり、企業内の意思決定に利用している単位で、財務報告の開示を義務付けるものだ。社内管理の数字を公表することから「マネジメント・アプローチ」とも呼ばれている。
「セグメント開示の要求に応えるためには財務会計システムだけでなく、管理会計システムも含めて企業全体の“お金”にかかわるシステム全体を見直す必要がある」とアクセンチュアの畠中パートナーは指摘する。
今でも社内向けに管理会計システムを用意して、事業ごとの予算や実績を管理している企業は多い。現状では公表する数値ではないため、予測や実績が多少、現実とかい離していても問題はない。
だがこれからは、社内管理向けに作成した数値を開示情報として公開することになるため、財務会計システムと管理会計システムの一体化が欠かせなくなる。
管理会計システムと連携する販売や購買、原価計算、在庫管理といったシステムから、精度の高い情報を取得しなければならない。そのうえ、連結子会社のシステムについても、同様の要件を満たしているかの確認が必要になる。こうしたことから、会計システムだけでなく基幹系システム全体の見直しにつながるわけだ。